プロローグ
「グゴゴゴゴゴゴゴ」
それはゆっくりと立ち上がり、無機質な顔でこちらを見やり、ゆっくりと一歩ずつ近づいてくる。
5、6メートルほどもある巨体で、手の大きさですら、大人一人を優に握りつぶせるほどの大きさを有している。体は多種多様な鉱石や岩石が入り混じり形成されており、蒼銀の輝きを放っている。その硬度は並みの武器では傷一つすらつけることも不可能であり、その強靭な装甲の前に幾程の冒険者が倒されてきたであろうか。
それらを包む半円球型の大部屋。部屋には置物らしきものは見当たらないが、年代が窺えるような模様などが壁に施されている。
しかし、ここには出口、入り口すら見当たらない。壁は並みの攻撃に対してびくともすることがなく、たとえ傷や割れ目ができたとしても壁は分厚く、自動修復機能が備わっている。それの振り下ろした拳ですら、床の破片が飛び散らせたりするものの、一瞬にして跡形もなく修復されている。
外とは完全に隔離され凶悪な壁がここからの脱出を拒んでいる。
間違いない。この遺跡は”生きて”いる。
「ゴハッ、ゴホッ...はぁ...はぁ.....あぁー..まずい..間違いなく次の一撃を受けたら終わるな...はぁあ~....身の丈に合わないことをしたかなー...これ以上耐えるのは...さすがに無理っぽいな...ハハッ...まだ、恋愛も冒険もしたことなかったのになぁ...くっそぉ~」
年は10歳前後に見える少年はすでに満身創痍であり、これ以上戦闘は不可能だと、火を見るよりも明らかである。さらには万策尽きたようであり、これ以上は抗うことは無駄なことを察している。
それなのにもかかわらず、1歩ずつ詰め寄るゴーレムを見ながら、こりゃ参ったなと言わんばかりに悠長に笑っている。
「グ、ゴゴゴ、ゴゴゴゴ」
「ハハ..はぁ~、お前まで笑うのかよ。もしかしてゴーレムにも意思とか持ってたり個体が存在するのか?...ま、なんでもいっか...あーあぁ、修行をもっと真面目にやればよかったかな...」
「ゴゴ、ゴゴゴゴ」
ゴーレムは少年をいつでも仕留められる範囲に着くと、相変わらず無機質な面持ちで再度少年を見定め、ゆっくりと拳を振り上げると
「グ、ゴゴゴゴ!」
(...約束破って....て...てへぺろ☆
~数時間前~
「ハッハッハ!ルーク、お前、洞窟で修行したりするのに、夜一人でトイレに行くこともできないのか。案外、怖がりさんだなぁ!」
見た目が若く見えるけど、30歳半ばのあごひげのおっさん。身長は180センチ前後で濃い茶髪だ。首には金色に薄い緑を混ぜたような色の鍵のペンダントをぶら下げて、服は年季が入っていて薄汚れているものの、しっかり手入れされており綻びが一つもない。話し方がオジサンっぽく、いつも人を冷かしたりして笑顔を絶やさないおせっかい焼きで迷惑な人だ。
「ラジェさん笑わないって言ったじゃないですか!自分の苦手なものを言っても絶対に笑わないって約束したから言ったのに!!!」
本当は怖くないんだけどね。強がりじゃないよ。いや、ほんと怖くないから!
「まぁまぁ、そんなに怒るなよ。ちょっとからかっただけじゃないか。いやしかし、幽霊が怖いとはなぁ~。年相応だな。」
「幽霊なんてもの!この世に存在しません!いても怖くもなーんともないありません!!!」
よし!もう一押し!
「いやいや、幽霊は本当に存在するぞ。実際にこの目で見たことあるからな。もっとも見たことがあるのは、リビングアーマー系の憑依型とか、ゾンビとかのアンデット系だけどな。さすがに霊感があるわけじゃないから、実体がないのはあんまり見たことはないな。」
え!?本当にいるの!?いやいや、ぜ、全然怖くないし!問題ないから。剣技だって得意だし、真っ二つにできちゃうから。って、リビングアーマーはまだわかるけど、ゾンビは幽霊なのか?
「まったく、そうやって人を馬鹿にする!もう知りませんから。僕は一人で遺跡に行って確かめてきます。幽霊なんてものはいないことと、そんなもの怖くもなんともないことを証明してみますよ!」
くっそー。真面目な顔をしながら口元がニタニタさせやがって!完全に馬鹿にしてる。だがしかし!そうやって笑っていられるのもあと少しだ。その言葉、後で後悔させてやるからな。絶対に覚えてろよ!!!
「ハッハッハ、威勢がいいな。でもやめとけ、遺跡は冗談抜きで洒落にならない。それに国の許可がないと勝手に入っちゃいけないことは学校でいやというほど習っただろ。おとなしく武器の練習か魔道具の練習をしとけよ。クックック、魔道具は俺がここに滞在してる間しか貸し出せないから今のうちに遊んどいたほうがいいぞ。お前じゃあ冒険者になれないからな。魔道具なんて触る機会もうないだろうよ。...ま、とにかく、遺跡には行くなよ。まあ、怖くて行けないと思うけどな。ハッハッハ」
相変わらずこの人はいい性格をしていらっしゃる。まぁ、そうじゃないとこの作戦もうまくいかないんだけどね。でも、いろいろ稽古をつけてくれたり、面白い冒険話をしてくれたりいい人なんだけど...皮肉や小馬鹿にしてくるんだよな...
「フンだ!もう、ラジェさんなんて知らないです!!!」
大袈裟に怒ったふりをしながらギルドの扉をドカッと開けて外へ出た。
これで準備万端!はぁ~疲れた。でも、これで遺跡に行く口実が付いたな。怒るふりをして、もし本当に遺跡に行ったとしてもラジェさんのせいってことにもできるからな。
もともと今日は内緒で遺跡に行くつもりだったんだけとね。はっはっは!もし何かが起こったとしても、例のあのしとが本当に遺跡に行ったことに後から気がついて、急いで遺跡に助けに来るだろうという算段さ。まぁ、その遺跡は、守護者も倒したって報告してたからよっぽどその必要はないだろう。
初めて遺跡に行くとはいえ、これまで洞窟に行ったり武器や魔道具の使い方の勉強と実戦練習なら何度もやってるから万が一なんて起こらない!冒険一式セットと念のために地図も持ってきたからな問題ないはず!
はずだった...完全に迷った...
青々と茂る森の中。空はまだ明るく、村のみんなは昼ご飯を食べているころだろう。木の間から光が差し込むため森全体が明るい。木はそこまで高くはないため、見晴らしがよいわけではないが明るいため、かなり遠くまで見ることができる。見える範囲では、魔物の姿も気配もない。しかし、見回す限り木ばっかりであるため、どこから来たのか見当がつかない。
なんでだ!地図をしっかり見てたよな!というか、どこで地図を落としちゃったんだよ!完全に迷ってるし!あー、今日は野宿かな...まだ真昼間だけど。とにかく間違っててもいいから進んでみるか。
...まさか...ここなのか?わぁお!話に聞いていた遺跡と形が違うような気もしないけど、ここら辺一帯にはスッデラート遺跡の一つしかないって言ってたしな、ここで間違いはなさそうだ。
いかにも昔に作られた感があるな。洞窟と建造物が合体してるような遺跡だ。なんかこう、柱が何本語っててお城並みに大きいものかと思ってたけど、本物ってなんかしょぼいな...というか、正直これ遺跡なの!?ほとんど洞窟じゃん!洞窟の入り口が別の岩石で整備されてるだけじゃん!!!
まぁ、なんでもいいや。とにかく入ってみよう。
カンテラに火をつけ、中に入ると一本道だった。左右には絵ではないが模様が施されていることが分かった。そのまままっすぐに進むと特殊な石により明るく照らされている大部屋にたどり着いた。その部屋の中央にはひざまずいた巨大なゴーレムが置かれていた。
これは...この遺跡の守護者?ただのゴーレムじゃなさそうだけど。見たところ動く気配はなさそうだけど、この部屋にはこのゴーレムしかなさそうだ。
自分の考えてた遺跡と全然違うし、トラップも仕掛けもない。それに入って大部屋一つだけって...まぁ、ゴーレムがあったけどな...でもたしか、地下に部屋を掘って儀式や何かの研究などをしてたなんて本に書かれてたような気もするし、案外、掘り出し物の遺跡かもしれないな。もうちょっと調べてみよう!!!
~30分後~
「何もない...なぁあああああにもなぁあああああい!!!なんで!?何なのこの大部屋は!!!なんのためにあるんだあーーー!!!」
まさか、このゴーレムを保管するだけの部屋なのか?いや、まさかな...せっかく見つけた遺跡がこれってひどくない?まだ、ゴーレムは調べてないけど触らないほうがいい気がする...いや!チャンスだ!!!このサイズのゴーレムなんて見れる機会はそうそうないからなちょっといじっても問題ないだろう!そうと決まればいざ調査!!!
ゴーレムに近寄ると地面を赤い光通り床が明るく光りだした。
な、なんだ!?まだ、ゴーレムに触れてもないのに何かが動き出したぞ!?
「ゴゴゴゴゴ、ガゴン!」
突然背後の自分が通ってきた道が動き出し、道がパズルのように塞がれた。
しまった!何かのトラップに引っかかったのか。でも、扉が閉まっただけで何も起こってない...あたらしいとびらがひらいたわけでもなさそうだ。
と思った瞬間、動き出した。塊が
「グゴゴ、ガガガガガガ!!!」
本命はこっちか!!!
振り向くと、さっきまでひざまずいていたゴーレムが立っており蒼銀の輝きを放ち目の前に立ちふさがっている。
「グゴゴゴゴ!!!」
いきなり拳を振り上げたたきつけてきた。動きはのろまだったものの破壊力はすさまじかった。しかし、床を粉砕したかのように思えたが、なんともなかったのかのようにすでに床が元の姿に戻っている。
自動修正機能化か。床はゴーレムの拳をほとんど吸収できて破壊された部分は瞬間的に修復されるようだな。ゴーレムまで再生機能を持っているかはわからないが、さっきの一撃で拳のほうが壊れていることはなさそうだ。運のいい点はいきなり遺跡が壊れてつぶされるってことはないことか。
ゴーレムは振り下ろした拳を戻すと、ゆっくりと拳が届く範囲まで一歩ずつ間合いをせめてくる。
僕のこの剣じゃあたぶんこいつを破壊することはできなさそうだな。じゃあやるべきことは二つ。誰かが助けに来るまで何とか耐え忍ぶかそれか...
ゴーレムとの間合いを調整しながら壁際まで追い詰められていく。とうとう壁まで追い詰められゴーレムはさっきと同じように拳を振り上げたたき下ろそうとしている。
今だ!
「ゴゴゴゴゴ、ガシィン!」
ッチ。駄目だったか。こいつの拳なら壁を破壊できるかと思ったがそう簡単にいかなそうだ。それともう一つ分かったことがある。こいつは守護者じゃない。守護者は基本的に遺跡には一体いるものだが遺跡も一切壊してはならないという風に命令されているはずだ。守るものが守るべきものを壊すはずはないからな。まぁ、自動修繕機能のことを考慮して行動している可能性もあるけどね。
...まだ、もう一つ手がある。僕がこいつを倒すこと。でも、かなり危険だ。この広さならこのまま逃げ続けるだけなら可能だろう。だがいつまで体力が持つかどうか。それに助けは来るのだろうか...いや、やるしかない...
腰のポーチに手を入れ、魔石の数を数える。
火薬...少量、あと、これとこれもある...よし。
...魔力を込めて...こいつをここに置いておいて...来い!でかぶつ!こっちだ!!!
1歩ずつ間合いを詰めてくる。しかし、逃げない。ゴーレムは、自分の射程距離に敵を捕らえると右拳を振り上げ
今だ!
「ガタッ、ドガシシィーーン」
さっきまで右こぶしを振り上げていた巨体は、左足の下に突如発生した岩石にバランスを崩し真後ろに倒れこんだ。
よし!これでゴーレムの中心部分に火薬を仕込んで...
「ドゴォオオオン!」
倒れているゴーレムの中心部分にのあたりで爆発が起こり煙が出ている。
これで最後、止めだ!!!
と、ゴーレムの爆発で破壊された部分に赤色の石を埋め込もうとした瞬間、いきなりゴーレムの剛腕に振り払われ、反応ができずに直撃し壁まで吹き飛ばされた。
ゴーレムはゆっくりと立ち上がると、1歩ずつ近づき、正面に敵を見定めると、拳を振り上げ標的に狙いを定め振り下ろす。
「ズゥガガガアァーーーーン」
拳が振り下ろされる瞬間、一人の大剣を携えた男が目の前に現れた。
間一髪で男が大剣により剛腕を受け流した。受け流された剛腕は、勢いを殺さず壁に直撃し、粉々に破壊した。
「ナーイス!タイミィーッング。ふぅ~、何とか、間に合ったようだな。おい!ルーク大丈夫か?まったく無茶しやがって...俺が来なかったら今頃ミンチになってたぜ」
薄れゆく意識の中で見たのは、男が大剣で自分の3倍以上もある巨体をなぎ倒していた。
「起きろ、ルーク!」
「う、うぅ...」
「ルーク!」
「...」
「ルゥーーーーーーーークううう!!!お!き!ろぉおおおおおおお!!!」
~運命の歯車は回り始めた...~
ご愛読ありがとうございます!
テストや所用によりかなり投稿が遅れました。てへぺろ☆
そして、いきなり世界観の設定などで読みにくいという指摘をもらったので
新しく1話目から作り直しました!!!(そんなに書いていないけど)
毎週木曜日に投稿する予定なので今後ともよろしくお願いします!
次回もよろしく!