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「何しやがるクソジジイ!この鎖を外せ‼」


薄暗い空間の中央に身体中を鎖で縛り付けられた『若者』が暴れ喚いている。


「ろくに鍛練もせずに、生まれ持った強大な力で気紛れに他者を傷つけてまわる愚か者め。我が一族の恥としれ!」


その『若者』を一段高みから見下ろしながら一喝する存在。

『若者』が属する一族の『長』である。


ここは彼等の一族の裁判所なのだ。


「俺が自分の力をどうしようと俺の勝手だ!奴らは蟻と一緒だ。ほっとけば勝手に増えるんだ。俺はこの世界から弱い奴等を間引いてやってんのさ‼それの何が悪い⁉」


鎖に縛られ、満足に身動きが取れないまま、『若者』は『長』に自分の価値観を叫ぶ。

しかし、『長』は落胆の表情を深めるばかりだ。


「彼等を弱者だと侮るな。彼等の力は計り知れない……我々とは違う『力』をその身と、心に宿している。事実、今までも数多くの同胞が彼等に屈している。」


彼等の一族は戦闘、武力といった分野ではこの世界でも屈指の実力者だ。

しかし、屈指の実力者だからこそ、そんな一族の『長』だからこそ、慢心や驕りといったものを嫌う。

この世に最強、無敵などという存在はあり得ない。どんな強者でも一瞬の気の緩みで命を落とす。


それは一族が長い年月で受け継いできた哲学であり、『長』がその生で実感してきた経験談でもあった。


「はっ!あんな奴等に負けるなんてジジイの同胞とやらはよっぽど弱かったんだな!」


しかし、自らの力を過信する『若者』には理解出来ない。

彼は生まれて今まで『敗北者』になった事がない。

戦闘において負けた事がないのだ。

そんな『若者』の態度を悲哀の瞳で見つめる『長』。


「ふん……もはや語り合っても無駄か。貴様のような愚か者はその身で実感せねば理解出来んだろう。最早これまで……今までに貴様の犠牲となった罪なき命の償いをせよ。」


『長』は目を瞑り精神を集中する。


「ジジイてめぇなにする気だ……?」


『長』の瞳に溢れんばかりの魔力が渦巻くのを感じ『若者』は自身の身の危険を感じた。


「自分よりも力の強い者に虐げられる痛みを教えてやると言っているのだ。」


極限まで練り上げられた魔力を込めた瞳を開き、『長』はゆっくりとその視線を『若者』にむける。


「やめろ……やめろってんだよジジイ!」


『長』の視線から感情が読み取れない。

込められているのは圧倒的で濃密な魔力のみ。

これから我が身に襲いかかる未知の経験に身動きの取れない『若者』の身体は次第に恐怖に侵されていく。


「さらば我が孫よ。もし、我の言葉の意味を命ある間に悟ること能うなら再び見えようぞ。」


『長』の瞳から魔力が解き放たれ、彼の孫である『若者』の身体を包む。


「グゥオオオ!…………」


全身をその魔力に包まれ、余りの苦痛に轟くような雄叫びをあげて『若者』は意識を失う。

次の瞬間には濃密な魔力に侵された『若者』の身体は先程までとは似ても似つかない全くの『別物』となっていた。


「では、後は任せた。」


『長』は背後に控えていた一族の者に命じて『若者』を遠く離れた森に解放させた。


その背に責任と悲しみを背負っていた。


◇◆◇◆


ログインした丘の上から見えた街に向かって歩き出したトシは順調に街に向かって歩いて……


「うわぁー!何だよあいつらは!」


否……叫びながら全力疾走していた。


トシは草色の肌をした小さな角を生やした、小学1年生ぐらいの体格の生物に追いかけ回されていた。

しかも、最初は一匹だけだったのに、いつの間にか三匹に増えていた。


「キギャー!」

「グェグェ!」

「ガゲェ!ギギャア!」


その生物は牙を剥き出しにして明らかにトシに敵意を向けている。


(あれってファンタジーの定番のゴブリンかな?丸腰でも倒せるか?いや、何の情報もないのに戦うのは危険だろ。そもそもこのゲームがどんなゲームか分からない。俺の知識に照らし合わせてそれが正しいかどうかが分かんないしな。)


全力疾走で街に目掛けて駆けながらトシは思考を整理していた。


(冷静になれ。幸いアイツらに追い付かれる気配はない。なら倒せるか分からないまま戦闘になるよりは街に行って助けを求めよう。結構大きい街みたいだったからきっと強い人もいるはず。)


考えがまとまると少し気持ちに余裕が出てきたのか、時々後ろを振り返り、トシはゴブリン達からの距離を計りながら付かず離れずの距離を保って走り続けた。


数百メートルは走っただろうか、ようやく街が近くに見えてきた。

かなり息切れしているがこの調子なら街まで逃げ込めそうだ。


街の周囲は石壁に囲まれており、その石壁の手前には海水を引き入れた堀が掘られていた。


堀の一部に橋がかけてあり、左右を太い鎖で吊られている。

鎖は石壁の上部から内部に引き込まれており、非常時には橋を巻き上げられるようだ。


まるで砦みたいだとトシは思った。


そんな橋の奥には大きな門があり、門の前には二人の門番がいた。


(おぉ!スゲー!人だ。第一町人発見!てか?)


ログインしてから初めての自分以外の人間との遭遇にテンションがあがるトシ。

だが、とりあえず背後のゴブリン?らしき生物をどうにかしたい。

とゆーか、してもらいたいのでトシは門番らしき二人に助けを求める。


(右の人は槍、左の人は腰に剣。やっぱり戦う技術を持ってる人達だ!)


瞬時にそう判断し、トシは叫んだ。


「助けて下さい!」


これでとりあえず助かった。トシはそう思ったが、人生とは中々に思うようにはいかなかった。


「アレックスお前はゴブリンだ。俺は手前の奴を。」


「了解っす。」


二人の門番はトシとゴブリン達を視認するとそれぞれの武器を構え、標的の制圧を開始する。

剣を握りしめた若い門番はトシが目で追うのがやっとのスピードでトシの横を駆け抜けると、次の瞬間には先頭にいたゴブリンの首をはね、二匹目はゴブリンの左肩から右腰に袈裟斬り、最後の一匹は鋭いローキックで転倒させ、足で背中を踏みつけ、地面に押さえつけた。


あっという間の出来事だった。


「すごっ……」


トシは門番の想像以上の実力に思わず見とれたが、風を切るヒュンという微かな音の後に、その首に冷たい感触を感じ、体が硬直する。


「名前は?身分を証明出来るものはあるか?」


トシの首に槍の穂先を添えて、もう一人の門番が質問する。

先程の剣士はまだ若く、青年剣士といった感じに見えたが、この槍使いは白髪混じりの円熟した戦士といった風貌だ。と、トシは思った。

そんな戦士に槍を向けられ、威圧感たっぷりに質問されてはただの高校生であるトシはひたすらにビビってしまって下着に小さなシミを作ってしまっても仕方ない事だろう。


「えっ、えぇーと。名前は藤原歳三です。あー、身分を証明出来るものはありませんです。」


「何処から来た?なぜゴブリンを連れて来たんだ?」


オドオドしながらトシが答えるとすぐに次の質問がとんでくる。

しかも槍が首に押し付けられる力が段々と強くなっている気がした。


「丘の上からこの街に向かって歩いてたら、いきなり襲われたんだ。マジで!街に来れば誰か助けてくれると思ったんすよ!」


「……嘘はついてないようだな。わかった。信じてやろう。」


そう言うと、トシのクビから槍の穂先がそっと離れた。

命を握られている冷たい感触から身も心も解放され安堵したトシだったが、次の言葉で世の中って厳しいんだなぁ。と実感する。


「だが、ただでは助けられん。この街は今は戦時下でな。弱い者は必要としていない。助けてほしくば自らの力を示せ。」


槍使いは腰から武骨な短剣を引き抜くとトシの目の前に放り投げた。


「今から残ったあのゴブリンを殺せ。もしお前が生き残れたなら街にも入れてやるし、仕事も世話してやろう。」


槍使いはどうする?と首をかしげているが、トシとしては選択肢等ない。

このまま街に入れずゲームの世界でゴブリンに追いかけ回されるか、倒して認められるかの2択だ。


「やってやるさ。」


トシは静かに短剣を拾うと剣士の顔を睨む。


「いつでもいいぜ。」


睨まれた剣士は気分を悪くする事もなく、むしろ面白い物を見つけた少年のように口角をあげる


「ふーん。悪くない顔だね。頑張ってちょ。」


剣士が足をあげるとゴブリンはすかさずトシに向かって突進してくる。


ゴブリンからすれば本能的に門番の二人には敵わないと思っているし、逃げ切れないとも思っている。

先程の会話の内容等分かりはしないが、生き残るにはトシを倒すしかないと判断したのだ。

















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