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「お帰りなさいませ。ヒロキ坊ちゃま。」
『一般家庭』という言葉からかけ離れた美麗で重厚な扉をくぐり、自宅へと帰ってきたヒロキを迎えたのは物心ついた時から毎日欠かさず見るしわくちゃの顔から発せられる言葉だった。
その顔と言葉に安心感と共に、軽い不快感をヒロキは覚える。
「ただいま婆や。とゆーか俺はもう高校生だぞ?いい加減坊ちゃまは止めてくれ。」
ヒロキはその不快感を隠すことなく婆やと呼ぶ人物にぶつけるが、それは深い信頼の裏返しであり、当の婆や本人もそれを理解しているので飄々とした態度を崩さない。
「何を言うかと思えば。婆やからすればいくつになっても坊ちゃまは坊ちゃまでございます。オネショする度にオシメを替えて差し上げていたのがまるで昨日のように……」
「あぁぁ!もういいよ。俺が悪かったって。今日はこれからすぐ例のゲームするから!一時間したら珈琲持ってきてね!」
「はい。坊ちゃま。」
◇◆◇◆
「ここがゲームの中?スゲー……」
トシは感動していた。
最新技術の結晶だと噂はされていたが心のどこかで所詮はゲーム。
なんて気持ちがあった。しかし、実際にログインしてみるとその世界の美しさに目を、心を奪われてしまった。
トシが立っているのは中世ヨーロッパのような石造りの街並みが美しい港町を一望出来る高台の上だ。
空を見上げれば眩しくも優しく、頬笑むような太陽の日差し。
遠くに広がる水平線、柔らかく波たつ穏やかな海はトシを歓迎するかのように光輝き、日常を忘れさせるように美しいメロディーを奏でていた。
「この風景だけでもこのゲームやる価値あるんじゃね?」
トシが心のそこからそう思ったように、ゲーム内の風景の美しさに憧れ、後に、ファンタジーアース内での絶景のスクショ専門プレイヤーが数多く現れ、このゲームのプレイスタイルの一つとして『絶景カメラマン』や、『秘境カメラマン』といったものが出てくる事になるのは余談である。
「さてさて、いつまでものんびりしてられないし。まずは現状把握かな?」
トシはこの世界の風景にとりあえず満足すると、自身の現状を確認するために様々なアクションをするのだが……
「ステータス!……ダメか。ステータスオープン!インベントリ!アイテムボックス!スキル!装備!……」
とりあえず思い付くゲーム用語をいくつか叫ぶトシだが何も起こらない。
「うん……もういいや。人間諦めが肝心。俺は切り替えが早い人間なのだ。とりあえず町へ行こう。」
トシは自分の行動が余り意味の無いものだと決めつけ、早々と先ほど見下ろした町へと移動することに意識を切り替える。
決して一人ぼっちで丘の上で意味の無い言葉を叫ぶ事が恥ずかしく思ったからではないのだ。
「しかし、このゲームはスゲーな。現実世界と同じ感覚で体や目線が動く……コントローラーとか握ってるはずだけどそんな感覚も無いし。」
トシは丘を降りる道を探しながら体を動かす感覚に驚愕した。
この世界はゲーム。
実際の体は自分の部屋で胡座をかき、手には専用のコントローラーが握られているはずだが、この世界の中では現実世界比べて全く違和感なく体を動かす事が出来るし、道端の石コロを拾うと確かにその感触と重さを感じるのだ。
「まぁ難しい事はわかんねぇし。流石は最先端技術の結晶って事で。」
トシはそう言うと意識を再び移動することに向ける。
理屈は分からないがこのゲームの世界はスゲー!くらいな気分らしい。
「よっしゃ!まずは町に行って情報を集めかな。」
名前:トシ
年齢:15歳。高校1年生。
趣味:映画鑑賞、料理。
好きなもの:カレー
好きな女性のタイプ:ショートカットで周りに気を使える人
好きな武将:上杉景勝