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序章一

その日はしとしとと雨が降っていた。夜になって少女はふと、目を覚ます。

隣で寝ている姉を起こさないようにそっと、寝台から抜け出した。今年で十六歳になる少女は名を銀花という。

双子の姉は金花といい、二人とも艶やかな黒髪と雪よりも白いといわれる肌を持っていた。彼女たちの住んでいる村では金花と銀花はそっくりでとても美しいと評判であった。

農村ではあっても金花たちはまだ恵まれている方だった。村の名は柳綺村(りゅうきむら)という。

銀花は立ち上がると引き戸にまで近づいた。戸をそうっと開ければ、外は真っ暗闇だった。

黒い墨を流し込んだかのような闇の中ではかなげに微笑んだ彼女に気づく者は誰もいなかった。




朝方になり、周囲は明るくなってきた。夜明けである。

それと同時に銀花は目を覚ました。井戸に行って釣瓶を落とし、水を汲む。

それで顔を洗うと水の冷たさで眠気は吹っ飛んだ。

今年で四十になる両親は柳綺村の出身で幼なじみであった。その二人が結婚をしてやっと、授かったのが双子の姉妹である。

「…さて、みんなの朝ご飯を作って。お洗濯もしなきゃ。掃除に姉さんのお薬も取りに行かないといけないし。やることは山積みだわ」

軽く腕を回すと銀花は鶏小屋に向かった。けたたましく鳴く鶏たちを後目に卵を藁の間から見つけると手早く、籠の中に入れる。

こけっと鳴く鶏の中で気性の荒いチャボを追い払って外へと出た。そして、今、起きたばかりらしい母の修歌(しゅうか)と出くわした。

「今日も早起きね。父さんもやっと目を覚ましたところよ」

「そうなの。今から朝ご飯を作るから。母さんも一緒に竈へ行きましょう」

二人は連れだって朝の光の中、家へと戻っていった。


食事の用意をして母や父の三人で朝食になった。ふわふわの卵にニラを絡めたものや高菜、汁物にお粥である。

「…銀花、今日で金花の薬がないんだ。切れてしまってね」

父の恵生がぼそりと言ってくる。銀花はそれを聞いて父に目を合わした。

「わかった。姉さんの薬が切れたんだね。だったら、私が隣の村に行って十星先生から今月分をもらってくる」

お金も忘れないようにしないとねといい、銀花は真面目な顔になる。

実は銀花の家では両親が高級品になる香草を育てて作り、売っている。その香草は温暖な燕国(えんこく)の西部でないと育たない。

名を梓雲草(しうんそう)といって、見かけは紫色の小さな花が咲く地味なものだが。乾燥させて菓子類などに入れると、とても不思議な香りを発する。

甘くそれでいて、つんとくる独特の匂いで上流の貴族のご婦人方が好んで使う。一束で金貨二十枚の価値がある。その梓雲草のおかげで金花の咳止めの薬代がまかなえた。

その梓雲草や領主の息子が知り合いの薬師を紹介してくれたこともあり、金花は生きていた。



銀花は早めに朝食を終えるとまだ、食べている途中の両親に支度をすると言った。

「父さん、母さん。私、隣村に行ってくるから。その間、姉さんをお願いね」

「ああ、わしらに任せて。気をつけて行ってきなさい。暗くなるまでには帰ってくるんだぞ」

父の恵生が笑いながら言ってくる。母の修歌も頷いてきた。銀花は早めに帰ってくるからとだけ伝えると自分の部屋に戻る。髪を後ろに束ねて財布や他の外出に必要な荷物をまとめた。

服も動きやすいものに着替えた。一通りできたら、家の外へと向かう。

だが、目の前に現れた小柄な少年が佇んでいるのを見つけて銀花はため息をついた。

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