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「」→人間の言葉、肉声

《》→人魚の言葉、テレパシー的なもの

のつもりで書いています。ごめんなさい。一話目に書いておくべきでした。

両手で本を抱え、お城を目指して真っ直ぐ泳いで行く。この調子でいけば、一時間もかからないはずです。


初めての外は思っていたより安全で、ゆったりとしている。小さな魚が珊瑚や海草の周りを泳ぎ、時々上がる水泡は宝石のようにキラキラしていた。カラフルで透き通った世界が遠くまで続いている。


魚の群れが目の前を通れば、止まって通過するのを待ち、海流には近づかないようにして泳いだ。

道のりを半分ほどきた所で、休憩をとる。ここまで来るとお城もよく見える。 お城は珊瑚の壁で作られていて、先のとがった高い窓は、透き通った琥珀でできている。その上の屋根はたくさんの貝殻でできていた。

海底の岩に座って、ぼんやりと魚が泳いでいるのを見つめる。ふと、足下を見ると綺麗な貝殻が落ちていた。


お母様に持っていったら喜んでくれるかな。アディにもお土産として持って帰ろう。


本を脇に抱えて地面にしゃがみこむ。白と黒のソフトクリームみたいな巻き貝や水玉模様の二枚貝など、一個ずつ手にとって吟味しながら気に入ったのをポケットに入れていく。


夢中になって拾った。

夢中になると周りに注意を向けられないのは子供の性。突然、体が引っ張られる。あまりに急で、強い力だったので抵抗する隙もなかった。


えっ、ちょっと待ってっ!?


そう思うことすら精いっぱいで、もみくちゃにされる。海流に呑み込まれたと気付いた時は、流れから弾き出された時だった。

その拍子に岩に背中を強く打ち付け息が詰まる。海底に倒れこみ、浅い呼吸を繰り返す。倒れこんだ時に手を切ったのだろうか、鋭い痛みを伴い目の前の海水が赤く染まる。


《……っつ》

痛みとその色は、死んだ時を思い出させる。


《……大、丈夫。大丈夫、だから……。ちょっと切った、だけ》

久しぶりに口から出た声はか細く、喉にひっかかった。自分自身に言い聞かせるように呟き、切った右の掌をぎゅっと握りしめてその手を抱え込むようにしてうずくまる。

そうしなければ、泣き叫んでしまいそうだったから。


大丈夫。大丈夫。暗示のように繰り返す。

腕の震えが止まったのは、暫く経ってからだった。

血はもう止まっている。深呼吸をひとつして、今の状況をたしかめた。辺りを見回してもお城は見えず、この場所にも見覚えはない。


引きこもりの弊害がこんなところで出るなんて。こんなことなら、アディみたいにもっと出歩くべきでしたね。


不幸中の幸いで、本は無くさなかったらしく近くに落ちていた。確認すると破れたところもないし、血もついてない。


荷物は無事だし、道はわからなくてもきっと帰りが遅いのを心配して誰かが探しにきてくれるでしょう。なんせうちの家族は揃いも揃って心配性なんですから。迷子のときは動かない。これ、鉄則です。


落ちついてきたので、岩に寄りかかり座りこんだ。打ち付けた背中が痛くて、すぐに断念して海底の砂地に寝転がる。


あ〜あ、背中が絶対痣だらけですよ。うら若き乙女なのに。帰ったら皆怒ってるかな。お母様なんて心配しすぎで泣いてそう。


そんな折りだった。今まで感じたことのないような悪寒が背中を走る。


な、何!?なんだか、すっごくまずい気がします。こう、生死に関わるような……。逃げなきゃいけない気が。これが本能とやらですか?じゃあ、これってすっっごくまずいですよねっ!


本能のままに飛び起きて、痛む体を無理やり動かす。何かが迫ってくるように感じて、一心に尾びれを動かした。恐怖心を抱きながらも誘惑に負けて後を振り向く。


そこには三メートルはあろう巨体に二基の背鰭と鋭い歯をもつ、ハリウッド映画や某テーマパークアトラクションでお馴染みアイツが。

そう、サメ!


いやあぁっ!!まさかの人生終了のお時間ですか!?早すぎです。人魚になってからまだ二年しか経ってません。延長を希望します。


必死に泳ぐも距離はぐんぐん縮まってくる。できるだけ岩の小さな隙間を泳いで逃げるが、サメは岩を砕いて追ってくる。


ぎあぁっ、諦めてくださいぃ!

岩をものともしないなんてさすが鮫肌ですね♪って誉めても許してくれそうにありません。完全にご飯認定されてますよね、私。イルカとはお友達になれても、サメは無理ですっ。魚類と哺乳類の壁は高いのです。


土地勘も体力もない私に端から勝算があるわけはなく、呆気なく追い込まれる。正面と左右には岩の壁。振り向くとサメ。


絶体絶命ですっ。あぁ、あんまりですよ神様。前世であんまり参拝しなかったせいでしょうか。今からでも祈りますから、どうか助けてくださいっ。


祈りは通じないのかサメが急激に近づいてくる。

やっぱり今からじゃダメですか。神様のあほーっ。


衝撃に備えて目を固く閉じた。


ドコオォォン……。


凄まじい音と共に強い水流がすぐ側を通過し、私の腰まで伸びた髪を煽った。


《私の可愛い妹に何してるのかしら》


聞き覚えのある力強い声に目を開くと、深紅の髪をなびかせて、彼女は佇んでいた。




《ベラお姉様!》


不敵に笑った顔は美しいけれど、笑っているのは口元だけで、瞳はぞっとするほど冷たい。片手には自身の身長ほどのモリ。身に纏う雰囲気やその表情から、激怒しているのがわかる。


《サリア、ちょっと待っててね。今すぐこいつを仕止めるから》


こ、恐すぎます、お姉様。


さっきの音はそのためだったのだろう。お姉様の冷たい視線の先に、 岩壁に叩き付けられ たサメがいた。サメはぶるりと身を震わせると、お姉様にめがけて、凄まじいスピードで突っ込んでくる。


《お姉様!!》

とっさに声を掛けるも、お姉様は不敵な笑みを絶さない余裕の態度。


《サメ風情が私をナメないでちょうだい》

そう言いつつ形の良い唇をそっと開くと、その唇から綺麗な歌が紡がれる。


すると、さっきとは比べ物にならないくらいの海水が渦を巻き、巨大な竜のようになってサメを飲み込む。


鋭利な刃と化した水流がサメを切りつける。硬い岩をものともしなかった鮫肌が切り裂かれ、海水を染めていく。


《……ひっ》


こ、恐すぎます、お姉様。いつも私を甘やかそうとする過保護なところしか見たことなかったのに。怒ると夜叉の様に恐いです。美人が怒ると怖いって本当だったんですね。

あぁ、死因の事故でトラウマになったのでしょうか。血を見ると頭がぐらぐらして気持ち悪くなってきました。


視界が狭まってきて、気持ち悪さが増してくる。思わず岩壁に寄りかって浅い呼吸を繰り返した。思考が上手くまとまらなくなる。視界が歪み、意識が遠のいていった。





***

《サリア、サリア!大丈夫?》


その声で目を覚ますと、お姉様に抱えられていた。いつの間にか、気を失っていたみたいだ。孟スピードで景色が流れていく。


《……ここは》


《もう大丈夫よ。もうすぐ城に着くから。そうしたら、メーアに治療してもらえるわ》

ほっとしたように微笑みながら、そっと髪をすいてくれる。


《あっ。髪飾り……》


口から零れ出た呟きは水に流されて、お姉様に届かなかった。


どうしましょう。ミラナお姉様から預かった物なのに。


体を動かそうとするも、力が入らず、喋ることも億劫で、もう一度目を閉じた。


元気になったら、探しに行かなくちゃ。


読んでくださってありがとうございました。そろそろストックが切れそうなので、更新ペース落とすかもしれないです。

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