04
息苦しくて目が覚めると、太陽のような金髪が目に入った。
《うっ、……重い》
どうやら妹が私の上にのしかかっているようです。私よりも頭ひとつ分も大きいのに妹なのだから、人魚とはわからないものですね。
きょろきょろと目だけを動かして、辺りをうかがうと、ピンク色のカーテンのようなものがそよそよと動いていた。上からではなく下から伸びている。
じっと目を凝らして見ると、カーテンの正体はイソギンチャクでした。体の下はふかふかで、私の上にかかっているシルクのような手触りのなにか。
ひょっとして、ベットですか?じゃあ私の下のふかふかは大きな貝だったりして。
《起きて、アディ。起きてってば》
現実逃避を止めて、妹を起こしにかかる。段々息が苦しくなってきたから、揺すりながら声をかけた。
……起きない。結構強く叩いてもみたけど、爆睡してます。誰かヘルプミーです。酸素が、酸素が足りないっ。
私の声なき声が聞こえたのか、お母様がイソギンチャクをわけいって顔を覗かせた。
《まあっ、大丈夫?しっかりして》
お母様がアディをひょいっと動かして私を抱き上げてくれた。
私ではピクリとも動かせなかったのに、見た目に反して力持ちですね。
漸く解放されて思い切り息を吸うと、むせてしまった。ゲホゲホと咳をすると、背中を優しくさすってくれる。
その騒ぎで目を覚ましたのか、アディが半身を起こしてぼんやりしている。
《……お母様、おはようございます。……っさ、サリアどうしたの!?具合が悪いの?》
咳き込んでぐったりしている私に気付いて、慌ててきいてくる。
《大丈夫だから、落ち着きなさい。アーディティア、貴女がサリアの上に覆い被さってしまっていたのよ》
《ええっ、ごめん、ごめんねサリア。死なないでっ》
いや、むせただけで死なないですよ。たかが咳でそんなに心配しなくても……。
どうやら人魚とは心配性なようです。
《おはようございます。お母様、アディ。もう大丈夫だから》
《ほんとにごめんね……。私が一緒に寝たいって我が儘言ったから》
《そうね、サリアがもう少し大きくなるまでは、一緒に寝るのは我慢しましょうね》
《……はい、お母様。ほんとにごめんねサリア。苦しかったでしょ》
涙で潤んだ瞳で下から見つめられる。
可愛い。こんなに可愛い子に添い寝されるとか、世の中の男子に嫉妬で殺されそうです。まぁ、すっかり熟睡してて気がついたら朝だったんですけどね。
《ううん。大丈夫だよ》
心配させないように笑って応える。
《さあ、二人とも起きたのだから着替えましょう》
お母様はそう言うと、私を抱えたままイソギンチャクのカーテンを抜ける。
ここは私たちの部屋らしく、部屋の反対側に青いイソギンチャクに包まれた大きな貝があった。
やっぱり貝のベットでしたか。
他にはドレッサーが二つにチェストが二つ。それぞれ、赤と青でわかりやすい。赤がアディので、青が私のでしょう。
お母様は青いチェストの前に私を下ろして、それぞれのの扉を開けた。
《好きな服を選びなさい》
中には服がぎっしり詰まっている。いろいろ物色して、青地に白色で模様が刺繍してあるタンクトップにした。
お姉様達ならともかく、十歳の幼児体型にビキニタイプは似合わないです。
直ぐに着替えると、隣ではアディが服の着方を教わっていた。
待っている間に髪でもとかそうと思ってドレッサーの前に行く。引き出しを探ると、すぐに櫛は見つかった。顔を上げて鏡を見ると、馴染みある顔が驚いた顔で私を見つめている。
……何でだ!何で前世と同じ顔なんですか!?あの、美男美女の夫婦から生まれて、あの美人なお姉様方で、あんなに可愛い双子の妹がいるのに、何故この平凡な日本人顔なんですか?神様、そこはサービスしてほしかったです。
私が一人でショックを受けていると、アディの準備も終わったらしく、《あら、サリア一人で出来たの。凄いわね》と褒められました。
正直、ショックでそれどころじゃないですよ。
お母様はショックでぼんやりする私とアディの手を引いて、朝御飯を食べるために部屋を後にした。