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この作品はストックがあるうちは定期更新ですが、無くなると不定期になります。寛大な心で見守っていただけると幸いです。
私、沙蘭の人生はあまり良いものではなかった。
生後間もない頃に捨てられたところを保護され、施設で生活。人生のスタートラインから転けます。
他の子が引き取られていく中残った私を周りの人は気にしてたけど、私はあんまり気にしてません。施設での生活は不自由な事も多いけど、楽しいですしね。
それに、今日は私の十歳の誕生日!
今日は施設のみんなが祝ってくれます。
昼には誕生会をして、プレゼントをもらい、ゲームなんかをして楽しく過ごす。
晩御飯には私の大好物のハンバーグにポテトサラダ、デザートには苺のショートケーキが用意されているはずです。
「おはよー、沙蘭誕生日おめでとう!」
突然の衝撃にたたらを踏む。同時に細い腕が腰に巻き付いてくる。
晩御飯を想像していたせいで後ろから駆けてきた彼女に気がつかなかった。
「うわっと。おはよー、ひなた」
驚きながら首だけで振りかえるとそこには私の親友、佐々木ひなたが抱きついていた。少し癖のあるふわふわの髪が小さな顔の周りを覆っていて、大きくてタレ目な茶色の瞳と形のいい小さな唇が絶妙な位置に配置されている。駆けてきたから、頬っぺたがほんのりと染まっていた。
うん。まごうことなき美少女です。
なんでこんな美少女と私が親友なのかというと、ひなたはこの施設の職員さん家の子で、私が施設に早く馴染めるようにって年の近いひなた紹介してくれたから。
前からちょくちょく遊びに来てて、明るい性格と可愛らしさでみんなの中心的存在だったから、他の子よりもひなたに任せたほうが良いと判断したんでしょう。
ひなたは面倒見がよくて、すぐに他の子達とも仲良くなれました。
今では立派に姉貴分です。ひなた様々ですね。
「ねえねえ紗蘭、今日のお誕生会楽しみにしててね?私ね、紗蘭が絶対に喜ぶ物をプレゼントにしたから」
上目遣いで期待でキラキラした瞳を向けられる。
ちょっ……可愛すぎるでしょ。役得ですね。
「本当に!毎年ひなたからのプレゼントが一番楽しみなの。的確に私のツボを押さえてるんだもん。さすが、私の親友だね」
「ふふふ。そう言ってもらえると嬉しいな。じゃあ、これ持ってそこに座って?」
そう言って手渡されたのは手鏡。
「へ?」
「だって、紗蘭ったらせっかくの誕生会なのに、全然おしゃれしないんだもん。私が可愛くしてあげる♪」
ひなたの手には、櫛と青色でリボンの形をしていている飾りのついたヘアゴム。
「や、いいですよ。めんどくさいですし」
正直、私が可愛くなるとは思えないし、どんな女の子でもひなたがいる時点で見劣りするのは決定事項です。
私は無駄な努力はしないタイプなので。
「もう、そんなこと言わない!女の子でしょ。それに、これは誕生日プレゼントの一部だから受け取ってもらわないと。私のプレゼントいや?」
形のいい眉がしゅんっと下がる。
「ずるい、いやなわけないのに」
「じゃあ、大人しく私に任せて。絶対に可愛くしてみせるから!」
にっこりと笑った顔がマブシイですね。はめられた気がする……。
大人しく座った私の髪をひなたが櫛ですく。
「紗蘭の髪はストレートで綺麗だね」
私の髪は墨のように真っ黒でストレート。髪が長いので、まるで市松人形みたいだと思ってます。自分ではいまいち好きにはたれないけれど、誉めてもらえるとやっぱり嬉しいですね。
「はい、出来たよ。確認してみて?」
鏡を見ると、いつもは背中に流しているだけの髪が編み込みをいれたハーフアップにされている。
「わぁ!さすがひなた。器用ですね。ありがとう」
「どういたしまして。あ、そういえば、この前紗蘭が勧めてくれた本面白かったよ。また、何かオススメのやつない?」
「んー、じゃあ、今から図書館に行きます?誕生会までに戻ってくればいいでしょ」
「ん。今日は紗蘭の誕生日だから、気がすむまで付き合ったげる」
「やった!借りてた本もついでに返すから、ちょっと待っててくださいね」
ひなたのお許しが出たので、はりきって本を取りに行く。私が借りてたのは『世界の童話集』。私のお気に入りの一冊なのです。それをポシェットに入れてうきうきしながら二人で出かけた。
大通りの道を通って図書館に向かう。お喋りしながら歩いていると、路地裏から一つの影が出てきて横切った。
それは、夜のように真っ黒でベルベットのような毛並みをした一匹の猫だった。
「うわぁ!黒猫だよ、紗蘭。黒猫!飼い猫かなぁ?」
つやつやの毛並み……。なでまわしたいっ!
「可愛いね!おいで、おいで」
しゃがみこんで右手を前に出して誘う。
猫はちらりとこちらを向くと、優雅な足取りでやってきた。指先を掠めるように黒い毛が触れると、するりと手の内から逃げ出して行く。
「ああっ、待って!」
思わず追いかける。黒い艶やかな毛並みを堪能したい一心で。
「紗蘭!危ない!!」
「え?」
ひなたの声で我にかえると私は道路に飛び出していて、トラックが迫って来ていた。耳をつんざくようなブレーキ音。
ドンッと衝撃が身体にはしる。
「いやあぁぁっっ」
ひなたの悲鳴が耳に届く。視界が赤く染まった。聞こえていた叫び声がだんだん遠くなり、今はほとんど聞こえない。身体はぴくりとも動かず、燃えるように熱い。視界が霞む。
霞んだ視界のなかで黒猫がニヤリと笑っているように見えた。その光景を最後に意識が闇に沈んでいく。
はじめましての方もそうじゃない方も読んでくださってありがとうございました。たくさん笑っていただける作品になるようにがんばります。