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カップ&ソーサーで

マリアンとフレッド




街も城も、いまだ朝霧に沈む夜明け前。

地下にあるこの部屋から外の様子は分からないが、携帯端末が示す時刻はリミットを示している。

マリアンは静かにベッドから抜け出した。

柔らく暖かなベッドは、いつもマリアンを甘く、またときには荒々しく包み込んで欲を拭い去っていく。

脱ぎ捨てた服を探そうと、サイドテーブルのスタンドを点けた。オレンジの光の中に、用意されたまま手を付けられなかったコーヒーカップが二客、浮かび上がる。

いっそ、小娘のような恋心も、冷めたコーヒーと一緒に捨ててしまえたらと思い、できるはずのない考えに自嘲した。

「もう行くのかい?」

まどろみの中から囁く声に、マリアンはシャツの襟を正して振り返る。

「じきに夜が明けるわ、フレッド。戻らないと」

「王に?」

「そうよ、陛下」

たおやかな手が、波打つシーツの間から伸びてきた。ベッドの端に跪いて、マリアンはその繊手に唇を捧げる。

「ほんの一時、ぼくの傍に引き留めても、君はそうしてぼくを置いていく」

「わたしは酷い女ね」

「でも、ぼくの光だ」

体を起こしたフレデリクが、手首を返してマリアンを引き寄せた。

暫時の包容と口付けを交わし、彼の手は離れる。

「マリー、愛すべき民。君を光の中へ帰そう」






年老いた侍従長に見送られ、マリアンは小さなエレベーターに乗り込んだ。二つのフロアを結ぶだけの箱には、階数表示も無駄な装飾もない。

光沢のある壁に体を預け、マリアンは目を閉じた。

「お姫様の魔法は十二時で解ける。……夜明けまで魔法にかかっていられるだけ、まだマシなのかしら」

でも結局、別れを未練がましく引き延ばしているにすぎない。

マリアンがフレデリクの隣にいられるのは、見る者のいない夜だけ。残す靴がなければ、陽の下でその手を差し伸べられることもない。

「酷い王だわ、フレデリク」

初めから分かっていて、終わりが見えないふりをして、マリアンに愛しいと囁く。

置いていかれるのは、マリアンの方だ。







そして、また一日が始まる。


三通りの、コーヒーを挟んだ距離感のおはなし。


次回から本編に入ります。

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