8.通路1-C
右手の通路を進むのは、オールバックの男と白シャツの女。
「お前は溝口が呼んだって言う探偵だろ?」オールバックの男が言った。
「溝口さん? 誰ですか?」白シャツの女は言った。
「しらばっくれるな。溝口刑事のことだよ」
「どうしてそう思うんですか?」
「知っている奴にはバレバレだろ。その肩に背負っているラクロスのラケットだとか言うケース。中に入っているのは、対九尾狐用の妖刀だろ?」
「まあ、そうですよね。分かりますよね」
「バレても、あっさりしているな」
「私は誰に自分の存在をバレたところで困ることはありません。戦闘になったとしても、誰とでも渡り合える自身がありますし、まあ、やっかいなのは、妖怪狐が使う低級妖怪の餓鬼ですが、妖怪狐が誰かははっきりしてますから、彼女に気をつければいいだけです。『ある対策』もしていますし」
「余裕綽々なんだな」
「それに、蛇が刑事の味方なら、私が蛇眼をかけられる心配もないでしょう?」探偵は言った。「まあ、あなたが変な気を起こさなければ、ですけれど。ねえ、蛇さん?」
探偵はそう言うと、背負った細いケースを肩からずらして、オールバックの男に向かって斜めに構えた。
「なぜ、わかった?」オールバックの男は目を細めて聞いた。
「単純な消去法です。妖怪狐が、一人分からない奴がいると言っていましたよね。その人は私の連れなんです。ブレザーの彼です。結界で気がついたとき、とっさに目配せして他人の振りをしました」
「俺と刑事も一緒のことをしたな」
「妖怪狐、ブレザーの彼、探偵の私、あと、メガネの人も蛇じゃないと断言できます。蛇眼使いがわざわざメガネをかけたりはしません。つまり、あなたは九尾狐か蛇と推測できますが、九尾狐は私の顔を知っているはずですから、すんなり私と一緒になるとは思えません。くじ引きなんてあんなやり方、難癖つけようと思えばいくらでもつけられるんですから。もちろん、腹を決めて私と一緒に進むことを決めたとしても、わざわざ妖刀のことを指摘して、私を挑発したりはしないでしょう。で、あなたに『蛇ですか?』ってカマをかけてみたら、あっさりと反応した、それだけです。どうも私が先に探偵だと明かしたことで、あなたの警戒が薄れたようですね」
「ふん、少し軽率だったか」
蛇は舌打ちして靴の先を床に擦りつけた。
「それで、その構えは俺を脅しているつもりか?」蛇は言った。
「いいえ、警告です」探偵は言った。
「あんたとやり合うつもりはないよ。……むしろ、提案がある」
「提案ですか?」
「俺の蛇眼で九尾狐の力を抑えてやろう」
「なぜ、私に協力してくれるんですか?」
「恩は多く売っておいた方がいい。いずれ見返りを求める。それに俺は刑事の連れだ。狐の敵に回ることはおかしくないだろう?」
「……ええ」探偵は思案しているようだ。
「今、お互いの正体が分かっている。そして、ブレザーの男はあんたの連れ、一人ははっきり妖怪狐。残りは髪留めの女とメガネの男だが、俺はどちらが刑事か知っている。だから、俺の助言があれば、あんたは誰が九尾狐か分かる、好都合だろ?」
それを聞いた探偵は妖刀の入ったケースを肩に背負いなおした。
「そうですね。私に理がありそうです。協力しましょう」
「よし。素直ないい子だ」蛇は満足そうに頷いた。
■□■□■□ NOTICE ■□■□■□
メガネの男/刑事
髪留めの女/九尾狐
オールバックの男/蛇
ブレザーの男/術士
白シャツの女/探偵
傷だらけの女/妖怪狐
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