7.通路1-B
中央の通路を進むのは、メガネの男とブレザーの男。
「彼女、かなりの怪我をしていましたけれど」ブレザーの男が言った。「刑事が随分とひどいことをしたんでしょうか?」
「ああ」メガネの男が答えた。「内容はだいたい想像がつく」
「いったいどんなことを……?」
「留置所の地下は薄暗くて誇りっぽい。石壁に囲まれていて、音が通らない。妖怪専用の取調室とされているが、独房、と言えばまだいいもので、実際は拷問部屋だ」
ブレザーの男がごくりとつばを飲み込む音がした。
「まず、狐の両腕を鎖で拘束して吊るす。拷問に使うのは、先を犬の唾液で湿らせた針だ。それは元々はただの針にすぎないのだが、知っての通り犬は狐の天敵だ。それで突かれると、もちろん突かれることそのものも痛さもあるが、狐にとってはそれ以上に、生理的な嫌悪感を催すらしい。例えば、潰れたゴキブリの腸を肌に擦り付けられるとでも考えれば、気持ちも分かるか? その針を狐の腕や顔に突き刺してやる。もちろん狐は酷く顔を歪める。大声で呻き、罵声を吐き、呪言を唱え、容赦を願う。けれど、狐の奴は、マゾヒストかと思うくらい、なかなかに我慢強い。だから、刑事たちも執拗に責める。馬鹿が針を突きすぎて、殺しやがったこともある」
「詳しいんですね」ブレザーの男が言った。
「ああ」メガネの男が言った。「同業だからな」
「つまり、あなたが新しくここへ来た刑事?」
「そう」
「随分と気軽に明かすんですね」
「俺が警戒しなくてはいけないのは九尾狐だけだ。妖怪狐は、この、犬の唾液で湿らせた針があれば怖くはないからな」
刑事はそう言って、スーツの内ポケットから革のケースを半分抜き出して、ブレザーの男にちらりと見せた。
「お前は九尾狐じゃないよ。あの妖怪狐が言っていただろ、俺が情報屋として使っている蛇がいるって。あいつは目がいいんだ。どいつが九尾狐が化けた姿なのか、アイコンタクトで教えてくれたよ。で、それはお前じゃなかった。それなら何も怖くない。質問されたら知っている範囲で答えるさ」
「じゃあ、もう少し質問してもいいですか?」ブレザーの男は言った。
「ああ、いいぜ」
「あなたの話だと、狐が人間に化けた姿のまま拷問しているようですが、それはなぜですか?」
「ん、ああ。狐の変化の持続時間は妖力によるらしい。短くても数週間、たいてい、ひと月は続く。満月の時期は妖力が高まるから、変化の期間も長くなるという。変化はいつでも任意にできるらしいが、地下や窓のない密閉された部屋では、月の力が取り入れられずに、変化ができないらしい。つまり、地下で監禁されている限り、狐の姿なら狐のまま、人間の姿なら人間のままだ」
「でも月の光を浴びせれば元に戻るのですよね? なぜ、人に化けたままにしておくのです?」
「きっと、そのほうが拷問が楽しいからだろう」
「あなたも手を出したことがあるのですか?」
「いや、俺は手出ししていない。ただ、見ていただけだ」
■□■□■□ NOTICE ■□■□■□
メガネの男/刑事
髪留めの女/九尾狐
オールバックの男/?
ブレザーの男/?
白シャツの女/?
傷だらけの女/妖怪狐
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