6.通路1-A
部屋の左手のドアを開けて進んだのは、髪留めの女と妖怪狐だった。
通路も部屋と同じく壁も天井も床もむき出しのコンクリートだった。幅は広く、
二人が両手をいっぱいに伸ばして並んでも届かないほどだった。
二人は通路を進んだ。
「私が起こした事件の話を知っているのか?」妖怪狐が言った。
「探りを入れているのかしら?」髪留めの女は答えた。
「ただの世間話だ」妖怪狐は答えた。
「町外れの死体安置所から、死体の首を盗んだらしいわね」
「そうだ」
「大きな袋を抱えた奴が、そこから逃げ出そうとして、職員に取り押さえられたって聞いたわ」
「さすがに七対一では逃げきれなかった。犬もいたし」
「妖怪狐が人間に化けるのに必要なのは、しゃれこうべと大気中に充満する月の光だったわね」
「そうだ。しゃれこうべを頭の上に乗せて月に祈り、その力を吸収して変化する」
「どうやって死体安置所に忍び込んだの?」
「簡単なことだ。死体に化けた」
髪留めの女は驚いた顔をした。
「つまり、死体安置所へ、死体として運び込まれたということ?」
「ああ」
「そこにいた人間はびっくしたでしょうね。死体が生き返って、他の死体の首を切り取って持ち帰ろうとした。捕まえてみたら持っていた袋の中からごろごろと生首が出てきて」
狐はくっくっくっと笑った。
「まったくその通りだ。よく分かっているじゃないか」
狐は面白がっているような口調になった。
「一つクイズを出してやろう。私はこうして人間に変身している。つまり、私は自分の分のしゃれこうべを既に持っているわけだ。そらなのに、なぜ、さらに沢山のしゃれこうべを必要としたのか分かるか?」
「その質問に正確に答えられたのなら、信用してくれるかしら?」
「信用?」
「実を言うと」髪留めの女は言った。「私はあなたが言ったことを全て知っているし、あなたには隠すことは何もないわ」
「ほう? とすると、つまりはあんたが……」
「そういうこと。私が九尾狐です」
「そうだとしたらずいぶんと私は運がいいな」 しかし妖怪狐は警戒するようなそぶりを見せた。「だが、それが虚言だとしたら? 話が上手すぎて罠のように思える。私のクイズに正解するのは、探偵や刑事なら造作もないしな」
「それなら、お互い変身を解いてしまえばいいわ」
「月の妖力がないと、元には戻れないだろう」
「いいえ、きっと妖力に満ちているこの結界の中なら、元に戻れるでしょう」
髪留めの女はそう言うと右腕を持ち上げて目を閉じた。
空気が震えるような、びりびりとした小さな音がした。
やがて、その腕が小麦色の毛に変化して 鋭い爪を持った指先が現れた。
「ほらね」
それを見て、妖怪狐は警戒を解いた。
「九尾狐に早速会えた! これは運がいい!」
「全然」九尾狐は言った。「事態は非常にまずいのよ。あの探偵がいるわ」
「奴とは面識があるのか?」
「ええ」
九尾狐は妖怪狐に誰が探偵かを教えた。
「私が餓鬼を探偵につけてしまえば、九尾狐は奴に勝てる。探偵が誰かは分かった。しかし、私は狐だとバレているから、奴には警戒されているだろうな」
「戦わないでここを抜けられれば一番いいのよ」九尾狐は言った。「けれど、奴は私を捕まえようとするでしょうね。何がまずいって、もしも探偵が誰かから情報を得た場合、私が九尾狐だとバレてしまう可能性があることなのよ。正直なところ、早めに何か策を講じなくては私の身が危ないの。何かこの場をさらに混乱させるようなやり方ないかしら?」
■□■□■□ NOTICE ■□■□■□
メガネの男/?
髪留めの女/九尾狐
オールバックの男/?
ブレザーの男/?
白シャツの女/?
傷だらけの女/妖怪狐
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