4.思案
探偵は九尾狐がこの中にいると聞いて、内心ほくそ笑んだ。
奴を捕まえる大きなチャンスだ。警察の協力に応じて、わざわざ留置所の地下まで出向いてきた甲斐があった。結界の中という限られた範囲で奴と対峙できれば、逃がすこともない。
九尾狐は面倒なことになったと思った。
この結界の中であいつを一目見たときに、もしかしたらあの探偵ではないかと疑った(数年前に対峙したはずだが、狐に人間の顔の見分けはつき難いので、はっきりと確信してはいなかった)。依然、相対したときに比べて探偵は年を取ってはいるようだ。
さて、傷を負っている狐に、自分が九尾狐だと伝えたいが、うっかり探偵に自分の正体がばれてしまうのはまずいので、むやみに正体を明かすわけにはいかない。
探偵と九尾狐はそれぞれ、自分がどういうふうに行動しつつ、結界を脱出するのが最善かを考えた。そして、他の四人にもそれぞれ都合があって、一体どのように行動するべきなのかを考えた。
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結界の構造は下記の通り一方通行。
通路1-A 通路2-A 通路3-A
部屋1 → 通路1-B → 部屋2 → 通路2-B → 部屋3 → 通路3-B → 出口
通路1-C 通路2ーC 通路3-C
この先、結界の規則のせいで、通路は二人一組で進まなくてはいけない。つまり、二人きりで行動する機会が通路の数だけ、三回ある。
探偵は九尾狐の正体をつきとめて、どこかの機会で九尾狐と二人きりになり、決着をつけたい。
九尾狐は探偵に正体をばれないようにしつつ、妖怪狐を救出するために彼女と合流する機会を持ちたい。
刑事は妖怪狐を捕まえたいが、自分が刑事だとバレてしまえば、九尾狐に八つ裂きにされるだろう。
妖怪狐は刑事を避けつつ、九尾狐の助けを受けるように行動したい。
蛇は刑事の仲間だが、必ずしも協力する義理はない。場合によっては裏切ることも考えている。
正体不明の人物は何を考えているのだろう?
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探偵はまず、誰がどのような能力を有しているかを考えた。
九尾狐は誰よりも強い存在だが、自分とだけは互角の戦いになる。どちらが勝つとも言えないが、かといって相手を恐れるようなことはない。極端な話、状況が状況なら他の四人を無視してやり合うこともいとわない。
しかし、 ここで蛇と妖怪狐の存在が問題になる。
蛇は蛇眼を、妖怪狐は餓鬼という低級の妖怪を扱うことが出来る。
蛇眼や餓鬼に取り憑かれれば、九尾狐も自分も、本来のパフォーマンスを発揮できない。
九尾狐が蛇眼に取り憑かれれば問題なく自分が勝つだろうが、逆に自分が餓鬼に取り憑かれるようなことがあれば負けてしまうだろう。
ただし、この点について探偵は対策を立てていた。
妖怪狐が、一人正体が分からないと言ったのは、探偵の連れの術士のことだった。
術士は餓鬼を取り払うことが出来る。おそらく蛇眼も払えるはずだと探偵は考える。
つまり、この回復役がいることで、自分は餓鬼を憑けられても解除出来るし、たとえ蛇を敵に回すようなことがあっても大丈夫だろうと楽観視することができた。