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ラブソングス

今日も私の婚約者の勇者様は、私との約束よりも、元パーティーメンバーとの遊びを優先した

作者: 間咲正樹
掲載日:2026/08/21

「では、行ってきます、アヴリル様」

「はい……。ダニー様、どうかご無事で」


 今日私は、魔王討伐へと旅立つ勇者のダニー様を、見送りに来ていた。


「大丈夫ですよ、俺には頼りになる味方がいるんですから。なあ、キャスリン、スティーヴ?」

「ええ、もちろんよ」

「必ずやこの命に代えても、ダニー様をお守りいたします」


 魔法使いのキャスリンさん、騎士のスティーヴと肩を組むダニー様。

 魔王討伐のため、我がニャッポリート王国で実力トップの魔法使いと騎士を、ダニー様のお供につけた。

 本当はもっと大人数で行ければ心強いのかもしれないけれど、それだと今度は我が国の守りが手薄になってしまうので、少数精鋭が最適だと判断されたのだ。


「……スティーヴ、私はあなたにも死んでほしくはないのよ。決してその命を粗末にするような真似だけはしないでね? 必ず生きて帰って来てちょうだい」

「――! ハッ、承知いたしました」


 スティーヴはこの勇者パーティーに選ばれる前は、私の護衛騎士として、文字通り命を懸けて私のことをずっと守ってくれていた。

 半年ほど前、暗殺者に襲われた私を助ける際に負った左頬の傷は未だ生々しく、スティーヴのこの傷を見るたび、私は胸が締め付けられる……。


「ダニーよ、お前には期待しているぞ。見事魔王を討伐した際は、アヴリルと結婚させることを改めてここに約束しよう」

「ハッ、全身全霊を懸けて、尽力いたします!」


 私のお父様である国王陛下が、ダニー様を激励する。

 ダニー様が勇者に選ばれた際、魔王を討伐した暁には、国王の一人娘である私と結婚し、王位を継がせるという契約を結んだのだ。


 ――こうして全人類の期待を一身に背負った勇者パーティーは、雄々しく旅立って行った。




 それからの私の日々は、期待と不安が入り混じった、実に複雑なものだった。

 勇者パーティーが順調に旅を進めているというニュースを聞くたび、ホッとすると共に、どんどんと苛烈になっていくであろう旅路を思うと、胸が張り裂けそうになり眠れない夜もあった――。


 そんな生活が一年ほど続いた、ある日のこと――。


「ア、アヴリル様……!!」

「――!」


 メイドのベアトリスが、大層興奮した様子で駆けて来た。

 ま、まさか――!


「勇者様が、勇者様が戻って来られました――!!」


 ……嗚呼、ダニー様――。




「ダニー様!」

「よっ、久しぶり」


 城門に着くと、そこには全身ボロボロのダニー様とキャスリンさんが佇んでいた。

 それがここまでの、過酷な旅を物語っているようだった。


「……倒したよ、魔王」

「あ、あぁ……」


 そうですか……!

 見事やり遂げたのですね、ダニー様……!

 だが、何だろう……?

 ダニー様の様子に、どこか違和感がある。

 それに――。


「……ところでスティーヴは?」

「「……」」


 途端、お二人が無言で俯かれた。

 この瞬間、最悪の予感が頭を掠め、後頭部を鈍器で殴られたような感覚がした。


「……スティーヴは……魔王との戦闘中に…………死んだよ」

「――!!!」


 そ、そんな……!!

 スティーヴ――。

 スティーヴスティーヴスティーヴスティーヴスティーヴ――!!


『そんなに泣かないでくださいアヴリル様。こうしてアヴリル様をお守りすることこそが、私の仕事なのですから』


 私を暗殺者から守ってくれた際、左頬に大きな切り傷を負いながらも、春の陽だまりみたいな笑みを向けてくれたスティーヴの顔が浮かぶ――。

 嗚呼、私はもう二度と、スティーヴのあの笑顔を見ることはできない……。

 そう思った途端、身体が自分のものではなくなったかのように重くなり、私はその場で倒れた。


「ア、アヴリル様ッ!!?」


 ベアトリスの叫び声が私の鼓膜を揺らしたが、私の意識は次第に遠くなっていった――。




「――ハッ」


 そして目が覚めると、見慣れた自室の天井が見えた。

 どうやら誰かが自室のベッドに運んでくれたみたいだ。


「嗚呼、アヴリル様! よかった! お目覚めになられたのですね!」


 ベアトリスが今にも泣きそうな顔で、私を覗き込んできた。


「え、ええ、ごめんなさいね。ベアトリスが私をここまで運んでくれたの?」

「はい! 今、皆様をお呼びして参りますね!」

「あ、ええ」


 慌てて部屋から出て行くベアトリスの背中を、私はまだどこかぼんやりした頭で見ていた。




「おお! 心配したぞアヴリル! もう気分はいいのか?」


 程なくして、お父様が現れた。


「あ、はい。もう大丈夫……です」

「おっ、ホントに起きてるじゃん、アヴリル」

「もう、突然倒れるから、ビックリしちゃいましたよー」


 続いて、ダニー様とキャスリンさんが入って来られた。

 この時、ずっとダニー様に抱いていた違和感の正体がわかった。

 この国を出発する前と比べて、ダニー様の私に対する態度が、あまりにもフランクすぎるのだ……。


「ゆ、勇者様! 王女であるアヴリル様を呼び捨てにするなんて、不敬ですよ!」


 ベアトリスがダニー様に喰って掛かる。


「アァン? 不敬なのはどっちだよ? ――俺はこの世界を救った英雄だぞ? それに、俺はアヴリルと結婚して、このニャッポリート王国の国王になる男なんだ。自分の妻になる女を呼び捨てにして、何が悪いんだよ」

「そ、それは……!?」

「そうですよね、陛下? そういう約束でしたもんね?」

「あ…………うむ、そうだな。……ダニーの言う通りだ」


 明らかに釈然としない様子だが、一度約束した手前、頷かざるを得ないお父様……。

 それに、ダニー様の仰る通り、今やダニー様は世界の英雄。

 もしもダニー様に対して恩を仇で返すような真似をしたら、他国からどんな非難を浴びるか……。


「そういうわけだ。これからは婚約者としてよろしくな、アヴリル」


 ダニー様が屈託のない笑みを、私に向ける――。


「あ、はい……。こちらこそよろしくお願いいたします、ダニー様」


 私はダニー様に、深く頭を下げた。


「……クッ!」


 私の横でベアトリスが、奥歯をグッと噛んでいた。




 ――そうして、数ヶ月の時が過ぎた。


「ダニー様、遅いわね……」


 今日はこれから王家主催の大事な夜会があるのだ。

 婚約者であるダニー様にエスコートしていただかないと、私は会場に入れないのだけれど、約束の時間になっても、一向にダニー様は現れる様子がなかった。

 王女である私が遅刻するわけにはいかないのに、困ったわね……。


「ア、アヴリル様、大変です!」


 その時だった。

 ベアトリスが真っ青な顔をしながら駆けて来た。

 この瞬間、私の胸がどんよりと重くなった。

 嗚呼、これは、()()なのね……。


「何があったの?」

「それが……勇者様が、やっぱり夜会には参加できないと……」

「……そう」


 予想した通りの答えに、私は心の中だけで溜め息を吐いた。


「私からも事情をお訊きするわ。ダニー様はお部屋?」

「は、はい、そうだと思われます」

「ありがとう」


 私はドレスの裾を上げ、城内に誂えたダニー様の自室へと急いだ――。




「――! ダニー様!」


 ダニー様の自室の前に着くと、ちょうどダニー様が廊下に出て来られたところだった。


「おお、アヴリル、ベアトリスから聞いただろ? 大事な用事が入っちゃったからさ。悪いけど夜会の参加はキャンセルさせてもらうよ」

「……いったいどんな用事か、伺っても?」

「ん? ああ、それがさ、キャスリンが推しの劇団の公演チケットが、特別に取れたって言うんだよ。そのチケットが二人分あるみたいでさ。一人で観ても面白くないからって、俺も一緒にこれから観に行くことになったんだ」


 ……またこれだ。

 この数ヶ月、こうしてダニー様は、事あるごとに私との約束よりも、元パーティーメンバーであるキャスリンさんとの遊びを優先してこられた。

 先日などは、とあるレストランで二人でディナーの約束をしていたのに、いつまで経ってもダニー様はレストランに現れず、閉店間際になって、今キャスリンさんと酒場で飲んでいるという連絡が、人伝てにきた……。

 だが、世界の英雄であるダニー様には誰も文句が言えず、私はその日も、暗澹たる思いを必死に飲み込んだのだ――。


「いい加減にしてください勇者様! 今日はこれから王家主催の夜会なのですよ!? あなた様はいずれこの国を背負って立つお方なのですから、ご自分の責任くらいは果たしてください!」

「……! ……ベアトリス」


 ベアトリスがまた、ダニー様に喰って掛かった。


「アァン? この俺に向かって、随分ナメた口を利くじゃないかメイド如きが。――不敬罪で、その首刎ねてやろうか?」

「っ!?」


 ダニー様が腰に差している剣を、ゆらりと抜く。


「――ダニー様、大変申し訳ございませんでした。ベアトリスは私にとって家族も同然の、大切な存在なのです。どうかこの場は私に免じて、ご容赦願えませんでしょうか」

「ア、アヴリル様……!」


 私はダニー様に、深く頭を下げた。


「フン、しょうがねえなぁ。今回だけだぞ。メイドの躾くらい、ちゃんとしておけよな」

「……はい」


 ダニー様は剣を鞘に収めると、肩で風を切りながら去って行った。


「アヴリル様……、申し訳ございませんでした……。私なんかのために、頭を下げさせてしまって……」


 ベアトリスは目元に涙を浮かべながら、エプロンの裾を震える手で握り締めている。


「いいのよベアトリス。あなたは私のために怒ってくれたんだもの。……でも、もうあんな風にダニー様に喰って掛かるのはやめてね。もしもあなたまで死んでしまったら、今度こそ私、胸が張り裂けてしまうわ……」


 ただでさえ私は未だ、スティーヴの死を受け入れられてはいないのだから……。


「……! ……承知いたしました、アヴリル様」


 何かを察したように、ベアトリスは私に頭を下げた――。




 そんなある日のこと――。


「よし、完成、と」


 私はダニー様へのプレゼントとして、ハンカチにダニー様のお名前を刺繡してみた。

 こんなものでダニー様との仲が深まるとは思えないが、何もしないよりはマシだろう。

 私たちはいずれ夫婦になるのだから、少しでも心の距離を縮めておかないと。


「善は急げね」


 私はその足で、ダニー様の自室へと向かった。




「ダニー様、少し今、お時間よろしいでしょうか?」


 ダニー様の自室のドアをノックする私。


「ん? アヴリルか? オウ、いいぜ、入れよ」

「失礼いたします」


 ドアを開けて中に入ると、そこには――。


「――!!」

「やっほー、アヴリルちゃん、久しぶりー」


 ()()ダニー様とキャスリンさんが、ベッドで横になっていたのである――。

 あ、あぁ……。


「……ダニー様、これは、どういう……」

「どうって、見ての通りだよ。俺とキャスリンは、前からこういう関係だったんだ」


 ダニー様は悪びれもせず、しれっとそう言った。

 そんな……。

 ……いや、本当は私は、心のどこかでこの事実に気付いていた。

 だが、現実を認めるのが怖くて、ずっと目を逸らしてきたのだ……。

 でも、どうやら覚悟を決める時がきたみたいね――。


「……左様でございますか。――承知いたしました。では、私たちの婚約は、破棄されるということですね?」

「は? いやいや、何言ってんだよアヴリル。()()()()()()()()()()()()から、安心しろよ」

「…………え?」


 ダニー様の言っていることを理解するのに、私は数秒の時を要した。

 私とは、結婚する……?

 ずっとキャスリンさんと浮気していたのに……?


「で、では、キャスリンさんは……」

「もちろんキャスリンとも結婚するよ。俺は博愛主義者だからな」

「えへへー、流石勇者だね、ダニー」


 キャスリンさんがダニー様に抱きつく。


「い、いえ! それは無理です! 我が国は、()()()()()なのですからッ!」

「その辺は俺が国王になったら何とかするよ。――今後は、()()()()()()()()()()()、一夫多妻制を許可する法律を制定しよう」

「……!」


 な、何を言っているの、この人……。


「前から思ってたんだよ。俺みたいな優秀な男の遺伝子を、一人の女にしか残せないのって、人類の損失じゃね? って。大昔は一夫多妻制の国が多くて、それで人類はここまで発展してきたんだ。だからここらでいっちょ原点に戻って、一夫多妻制でやってこうぜ」

「アハハー、そんなこと言ってー。ダニーは単に、いろんな女とやりたいだけじゃーん」

「バーカ、俺だってちゃんと選んでるっつーの。――お前のことは心から愛してるんだぜ、キャスリン」

「……へへ、ありがと」


 ハチミツみたいに甘ったるい空気を醸し出した二人に、私は思わず吐き気を催した。


「し、失礼いたしますッ!」


 私は二人に背を向け、部屋を飛び出した――。




「う、ううぅ……! うううぅぅ……!!」


 そして誰もいない中庭で一人、声を殺して泣いた。

 酷い……!

 こんなのあまりにも酷すぎる……!

 いくら世界を救った英雄だからって、あそこまでの横暴が許されていいの……?

 ……あんな人が私の夫になり、この国の王になる――。

 ……そんなの、魔王がいた時よりも地獄じゃない――!


「ア、アヴリル様、大変ですッ!!」

「――!?」


 その時だった。

 ベアトリスが大層興奮した様子で駆けて来た。

 もしかして、ベアトリスもダニー様とキャスリンさんの浮気現場を見たのかしら……?

 でも、その割には随分嬉しそうに見える。


()()()()()()()が! スティーヴさんが帰って来ましたッ!」

「――!!!」


 ………………え?




「……お久しぶりです、アヴリル様」

「ス、スティーヴ……!!」


 ベアトリスと共に城門に行くと、そこにいたのは紛れもない、スティーヴ本人だった。

 全身傷だらけで立っているのもやっとといった風貌だけれど、その陽だまりみたいに優しい眼差しだけは、あの日のままだった――。


「そ、そんな……。夢じゃないわよね、これ? あなたは、魔王との戦いで命を落としたって聞いていたから……」

「……! なるほど、ダニー様はそう仰っていたのですね」

「ス、スティーヴッ!?」

「そんな!? どうして!?」

「おお、スティーヴ……! スティーヴではないか……!」


 騒ぎを聞きつけたのか、ダニー様とキャスリンさん、それに私のお父様もこの場に駆け付けた。


「……これはどういうことなのですかダニー様? スティーヴが死んだというのは、噓だったのですか?」


 私はダニー様に詰め寄る。


「い、いや、それは……」

「はい、私はこの通り生きています。――危うく死にかけはしましたが。何せ、魔王との戦闘中に、ダニー様とキャスリンさんは、()()()()()()()()()()のですから」

「「「――!!!」」」

「……クッ!」


 そ、そんな――!!


「……魔王は強大な存在でした。そのあまりの戦力差に、お二人は怖気づいたのです」

「ち、違うッ!! 俺は、一旦退いて、戦況を立て直そうとしただけだッ!」

「そ、そうよそうよ!」

「……その割には、逃げ出す際魔王に、『スティーヴ(この男)の命は差し出すから、俺たちだけは見逃してくれ!』と叫んでいたではないですか」

「っ!?」


 なっ――!!

 何て酷い――。


「一人残された私は、そのまま一晩中魔王と一対一で戦い続けました。そして一瞬の隙を突き、何とかこの剣で魔王の首を刎ねたのです」


 スティーヴは愛剣を感慨深く見詰める。

 スティーヴ、凄いわ――!!


「……ですが、私が魔王の城から出ると、そこにはダニー様とキャスリンさんが待ち構えていました」

「そ、そうだよ! だから言ったじゃないか! 俺たちは逃げたんじゃなく、一旦体勢を整えてただけなんだよ!」

「そ、そうよそうよ!」

「……では、何故私が魔王を倒した旨を告げたら、()()()()()()()()のですか?」

「「「――!!!」」」


 そんな――!!!


「そ、それは……」

「あなた方は、敵前逃亡したことを、私が世間にバラすのを恐れたのです。だから私を殺して、口封じしようとした。そうして魔王を倒した功績を、横取りしたのです」


 何て卑劣な――!!

 むしろ、魔王よりも醜悪だわ……!


「満身創痍の私では、二人には勝てませんでした。私は大怪我を負い、そのまま谷底に落ちました。――ですが、奇跡的に生きていたのです。とはいえ、暗い谷底で一人で傷を癒すのに、これだけの月日がかかってしまいましたが」


 嗚呼、スティーヴ……。

 凄いわスティーヴ……。

 そんな地獄と形容するのすら生温い苦境を、一人で乗り越えたなんて――。


「う、嘘だッ!! 俺たちがスティーヴを攻撃したなんて証拠は、どこにもねーじゃねーかッ!」

「そ、そうよそうよ!」


 この期に及んで――!

 往生際が悪いわね――!


「証拠ならここにありますよ」

「「……え?」」


 スティーヴが上着を脱いだ。

 すると――。


「「「――!!」」」


 スティーヴの右脇腹には、夥しい火傷の跡があり、更に左胸から右脇腹にかけて、鋭い切り傷もあった。


「この火傷は、キャスリンさんの炎魔法で負ったものです。鑑定魔法をかけていただければ、キャスリンさんの魔力反応が出るはずです」

「あ、あぁ……」


 キャスリンさんのお顔が、絶望に染まる。


「そしてこの切り傷は、ダニー様の剣で斬られた際のものです。ダニー様のその剣に鑑定魔法をかけていただければ、私の血液反応が出ることでしょう」

「ヒッ……!?」


 スティーヴはダニー様の腰に差してある、愛剣を指差す。

 これはもう、言い逃れできないわね。


「何という非道だ……! とても許されるものではない。オイ、この二人を、今すぐ捕らえろ!」

「「「ハッ」」」


 お父様の命令で、周りの兵士たちが一斉に、ダニー様とキャスリンさんを拘束した。


「ま、待ってくれッ!! 俺の話を聞いてくれッ!! これには訳があるんだッ!!」

「イヤああああああ!!! 放してよおおおおおおお!!!」


 抵抗虚しく、二人は連行されていった。

 ……自業自得ね。

 地獄でじっくりと反省するがいいわ。

 さて、と。

 私は改めて、スティーヴと向き合った。


「おかえりなさい、スティーヴ」

「はい。只今戻りました。……あの、アヴリル様、本当にありがとうございました」

「え?」


 私、スティーヴにお礼を言われるようなことしたかしら?


「魔王と戦っている最中や、谷底で死にかけている時、何度ももう無理だと諦めかけました。――ですが、そのたび私が出発するあの日、アヴリル様が私に仰ってくれた、『必ず生きて帰って来て』という言葉が、私を奮い立たせてくれたのです――」

「……!」


 スティーヴ……。


「ですから、私が今生きてここにいられるのは、あなた様のお陰なのです、アヴリル様」


 スティーヴはいつもの、春の陽だまりみたいな笑みを向けてくれた。


「ふふ、こちらこそ。私が今生きてここにいるのは、あなたのお陰よ。改めて、ありがとうね、スティーヴ」

「勿体ないお言葉でございます」


 ――そう、私にとっては、あなたこそが真の勇者なのよ、スティーヴ。


「ふむ、これは、アヴリルの婚約者は、考え直す必要があるようだな」


 お父様が、顎を撫でながらニヤリとした。

 お、お父様……!?


「余は、魔王を討伐した者とアヴリルを結婚させると約束したのだ。――だが、実際に魔王を倒した真の勇者は、ダニーではなくスティーヴだった。ということは、アヴリルの結婚相手は、スティーヴこそが適切だとは思わんか?」


 お父様……!!

 急に何を……!!


「わあ! 仰る通りですね! 私も賛成です!」


 ベアトリスまで!?


「とはいえ、余としても、当人たちの想いは、なるべく尊重したいとは思っておる。――どうだ、スティーヴ? アヴリルのことは、どう思っておるのだ?」

「――はい、陛下。私はアヴリル様のことを、心の底から愛しております」


 ――なっ!?

 ス、スティーヴ……!!


「ホッホッホ。なるほどな。まあ、お主の態度を見れば、バレバレだったがなぁ」

「ですよねー」


 え!?

 そうだったのですか??

 もしかして気付いてなかったのって、私だけ……?


「で? アヴリル、お前はどうなのだ? スティーヴのことを、どう思っておる?」

「わ、私、は――」

「――アヴリル様」

「……!」


 スティーヴに名前を呼ばれ、互いに見つめ合う、私とスティーヴ。

 ――この瞬間、私の中から、想いが溢れ出てきた。


 ――いつだって、身を挺して私を守ってくれていたスティーヴ。

 ――私が差し入れた手作りクッキーを、美味しそうに頬張るスティーヴ。

 ――猫が大好きで、じゃれ合う野良猫を見て、目を細めるスティーヴ。

 ――そして、一心不乱に、ひたすら剣を振るスティーヴ。


 ……ああ、そうか。

 今やっとわかった。

 私も本当は、スティーヴのことが――。


「――私も。私もスティーヴのことを、心の底から愛してるわ」


 私はスティーヴの手を、そっと包み込むように握った。


「ア、アヴリル様……!」


 感極まったスティーヴの瞳から、一筋の涙が零れた。


「ホッホッホ。これにて一件落着」

「おめでとうございます、お二人ともおおおおおおお!!!!」

「うふふ、ありがとうございます」

「あはは、ありがとうございます」




 ――こうしてニャッポリート王国の姫は、世界の英雄である勇者と、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。


 めでたしめでたし



拙作、『戦争から帰って来た婚約者が愛人を連れていた』がコミックグロウル様より2026年3月6日に発売された『選ばれなかった令嬢には、本命の彼が待っています!アンソロジーコミック』に収録されています。

よろしければそちらもご高覧ください。⬇⬇(ページ下部のバナーから作品にとべます)

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ニャッポリート王国バンザイ!(ニャと入力するとすぐニャッポリートが出てくる調教された予測変換w) 嘘つきの裏切り者は、生まれてきたことを後悔するような酷刑に処してやりたいと思います!皆さん奮ってレッ…
(;◇;) 絶対、帰ってくるって信じてたよ!スティーヴ~~!!!!! ダニーを「ぶべらっ!」殴りしないスティーヴ……ここに紳士がいます!! 映画の宣伝でよくある『全米が涙した』や『感動の涙が止まらな…
めでたし、めでたし(人*´∀`)。*゜+ スティーヴ、凄いわー!! 良かったー!! ダニーとキャスリンは想像以上にクズでしたヽ༼⁰o⁰;༽ノ 悪事が露呈して良かった! 面白かったです♪ アヴリル、幸せ…
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