今日も私の婚約者の勇者様は、私との約束よりも、元パーティーメンバーとの遊びを優先した
「では、行ってきます、アヴリル様」
「はい……。ダニー様、どうかご無事で」
今日私は、魔王討伐へと旅立つ勇者のダニー様を、見送りに来ていた。
「大丈夫ですよ、俺には頼りになる味方がいるんですから。なあ、キャスリン、スティーヴ?」
「ええ、もちろんよ」
「必ずやこの命に代えても、ダニー様をお守りいたします」
魔法使いのキャスリンさん、騎士のスティーヴと肩を組むダニー様。
魔王討伐のため、我がニャッポリート王国で実力トップの魔法使いと騎士を、ダニー様のお供につけた。
本当はもっと大人数で行ければ心強いのかもしれないけれど、それだと今度は我が国の守りが手薄になってしまうので、少数精鋭が最適だと判断されたのだ。
「……スティーヴ、私はあなたにも死んでほしくはないのよ。決してその命を粗末にするような真似だけはしないでね? 必ず生きて帰って来てちょうだい」
「――! ハッ、承知いたしました」
スティーヴはこの勇者パーティーに選ばれる前は、私の護衛騎士として、文字通り命を懸けて私のことをずっと守ってくれていた。
半年ほど前、暗殺者に襲われた私を助ける際に負った左頬の傷は未だ生々しく、スティーヴのこの傷を見るたび、私は胸が締め付けられる……。
「ダニーよ、お前には期待しているぞ。見事魔王を討伐した際は、アヴリルと結婚させることを改めてここに約束しよう」
「ハッ、全身全霊を懸けて、尽力いたします!」
私のお父様である国王陛下が、ダニー様を激励する。
ダニー様が勇者に選ばれた際、魔王を討伐した暁には、国王の一人娘である私と結婚し、王位を継がせるという契約を結んだのだ。
――こうして全人類の期待を一身に背負った勇者パーティーは、雄々しく旅立って行った。
それからの私の日々は、期待と不安が入り混じった、実に複雑なものだった。
勇者パーティーが順調に旅を進めているというニュースを聞くたび、ホッとすると共に、どんどんと苛烈になっていくであろう旅路を思うと、胸が張り裂けそうになり眠れない夜もあった――。
そんな生活が一年ほど続いた、ある日のこと――。
「ア、アヴリル様……!!」
「――!」
メイドのベアトリスが、大層興奮した様子で駆けて来た。
ま、まさか――!
「勇者様が、勇者様が戻って来られました――!!」
……嗚呼、ダニー様――。
「ダニー様!」
「よっ、久しぶり」
城門に着くと、そこには全身ボロボロのダニー様とキャスリンさんが佇んでいた。
それがここまでの、過酷な旅を物語っているようだった。
「……倒したよ、魔王」
「あ、あぁ……」
そうですか……!
見事やり遂げたのですね、ダニー様……!
だが、何だろう……?
ダニー様の様子に、どこか違和感がある。
それに――。
「……ところでスティーヴは?」
「「……」」
途端、お二人が無言で俯かれた。
この瞬間、最悪の予感が頭を掠め、後頭部を鈍器で殴られたような感覚がした。
「……スティーヴは……魔王との戦闘中に…………死んだよ」
「――!!!」
そ、そんな……!!
スティーヴ――。
スティーヴスティーヴスティーヴスティーヴスティーヴ――!!
『そんなに泣かないでくださいアヴリル様。こうしてアヴリル様をお守りすることこそが、私の仕事なのですから』
私を暗殺者から守ってくれた際、左頬に大きな切り傷を負いながらも、春の陽だまりみたいな笑みを向けてくれたスティーヴの顔が浮かぶ――。
嗚呼、私はもう二度と、スティーヴのあの笑顔を見ることはできない……。
そう思った途端、身体が自分のものではなくなったかのように重くなり、私はその場で倒れた。
「ア、アヴリル様ッ!!?」
ベアトリスの叫び声が私の鼓膜を揺らしたが、私の意識は次第に遠くなっていった――。
「――ハッ」
そして目が覚めると、見慣れた自室の天井が見えた。
どうやら誰かが自室のベッドに運んでくれたみたいだ。
「嗚呼、アヴリル様! よかった! お目覚めになられたのですね!」
ベアトリスが今にも泣きそうな顔で、私を覗き込んできた。
「え、ええ、ごめんなさいね。ベアトリスが私をここまで運んでくれたの?」
「はい! 今、皆様をお呼びして参りますね!」
「あ、ええ」
慌てて部屋から出て行くベアトリスの背中を、私はまだどこかぼんやりした頭で見ていた。
「おお! 心配したぞアヴリル! もう気分はいいのか?」
程なくして、お父様が現れた。
「あ、はい。もう大丈夫……です」
「おっ、ホントに起きてるじゃん、アヴリル」
「もう、突然倒れるから、ビックリしちゃいましたよー」
続いて、ダニー様とキャスリンさんが入って来られた。
この時、ずっとダニー様に抱いていた違和感の正体がわかった。
この国を出発する前と比べて、ダニー様の私に対する態度が、あまりにもフランクすぎるのだ……。
「ゆ、勇者様! 王女であるアヴリル様を呼び捨てにするなんて、不敬ですよ!」
ベアトリスがダニー様に喰って掛かる。
「アァン? 不敬なのはどっちだよ? ――俺はこの世界を救った英雄だぞ? それに、俺はアヴリルと結婚して、このニャッポリート王国の国王になる男なんだ。自分の妻になる女を呼び捨てにして、何が悪いんだよ」
「そ、それは……!?」
「そうですよね、陛下? そういう約束でしたもんね?」
「あ…………うむ、そうだな。……ダニーの言う通りだ」
明らかに釈然としない様子だが、一度約束した手前、頷かざるを得ないお父様……。
それに、ダニー様の仰る通り、今やダニー様は世界の英雄。
もしもダニー様に対して恩を仇で返すような真似をしたら、他国からどんな非難を浴びるか……。
「そういうわけだ。これからは婚約者としてよろしくな、アヴリル」
ダニー様が屈託のない笑みを、私に向ける――。
「あ、はい……。こちらこそよろしくお願いいたします、ダニー様」
私はダニー様に、深く頭を下げた。
「……クッ!」
私の横でベアトリスが、奥歯をグッと噛んでいた。
――そうして、数ヶ月の時が過ぎた。
「ダニー様、遅いわね……」
今日はこれから王家主催の大事な夜会があるのだ。
婚約者であるダニー様にエスコートしていただかないと、私は会場に入れないのだけれど、約束の時間になっても、一向にダニー様は現れる様子がなかった。
王女である私が遅刻するわけにはいかないのに、困ったわね……。
「ア、アヴリル様、大変です!」
その時だった。
ベアトリスが真っ青な顔をしながら駆けて来た。
この瞬間、私の胸がどんよりと重くなった。
嗚呼、これは、またなのね……。
「何があったの?」
「それが……勇者様が、やっぱり夜会には参加できないと……」
「……そう」
予想した通りの答えに、私は心の中だけで溜め息を吐いた。
「私からも事情をお訊きするわ。ダニー様はお部屋?」
「は、はい、そうだと思われます」
「ありがとう」
私はドレスの裾を上げ、城内に誂えたダニー様の自室へと急いだ――。
「――! ダニー様!」
ダニー様の自室の前に着くと、ちょうどダニー様が廊下に出て来られたところだった。
「おお、アヴリル、ベアトリスから聞いただろ? 大事な用事が入っちゃったからさ。悪いけど夜会の参加はキャンセルさせてもらうよ」
「……いったいどんな用事か、伺っても?」
「ん? ああ、それがさ、キャスリンが推しの劇団の公演チケットが、特別に取れたって言うんだよ。そのチケットが二人分あるみたいでさ。一人で観ても面白くないからって、俺も一緒にこれから観に行くことになったんだ」
……またこれだ。
この数ヶ月、こうしてダニー様は、事あるごとに私との約束よりも、元パーティーメンバーであるキャスリンさんとの遊びを優先してこられた。
先日などは、とあるレストランで二人でディナーの約束をしていたのに、いつまで経ってもダニー様はレストランに現れず、閉店間際になって、今キャスリンさんと酒場で飲んでいるという連絡が、人伝てにきた……。
だが、世界の英雄であるダニー様には誰も文句が言えず、私はその日も、暗澹たる思いを必死に飲み込んだのだ――。
「いい加減にしてください勇者様! 今日はこれから王家主催の夜会なのですよ!? あなた様はいずれこの国を背負って立つお方なのですから、ご自分の責任くらいは果たしてください!」
「……! ……ベアトリス」
ベアトリスがまた、ダニー様に喰って掛かった。
「アァン? この俺に向かって、随分ナメた口を利くじゃないかメイド如きが。――不敬罪で、その首刎ねてやろうか?」
「っ!?」
ダニー様が腰に差している剣を、ゆらりと抜く。
「――ダニー様、大変申し訳ございませんでした。ベアトリスは私にとって家族も同然の、大切な存在なのです。どうかこの場は私に免じて、ご容赦願えませんでしょうか」
「ア、アヴリル様……!」
私はダニー様に、深く頭を下げた。
「フン、しょうがねえなぁ。今回だけだぞ。メイドの躾くらい、ちゃんとしておけよな」
「……はい」
ダニー様は剣を鞘に収めると、肩で風を切りながら去って行った。
「アヴリル様……、申し訳ございませんでした……。私なんかのために、頭を下げさせてしまって……」
ベアトリスは目元に涙を浮かべながら、エプロンの裾を震える手で握り締めている。
「いいのよベアトリス。あなたは私のために怒ってくれたんだもの。……でも、もうあんな風にダニー様に喰って掛かるのはやめてね。もしもあなたまで死んでしまったら、今度こそ私、胸が張り裂けてしまうわ……」
ただでさえ私は未だ、スティーヴの死を受け入れられてはいないのだから……。
「……! ……承知いたしました、アヴリル様」
何かを察したように、ベアトリスは私に頭を下げた――。
そんなある日のこと――。
「よし、完成、と」
私はダニー様へのプレゼントとして、ハンカチにダニー様のお名前を刺繡してみた。
こんなものでダニー様との仲が深まるとは思えないが、何もしないよりはマシだろう。
私たちはいずれ夫婦になるのだから、少しでも心の距離を縮めておかないと。
「善は急げね」
私はその足で、ダニー様の自室へと向かった。
「ダニー様、少し今、お時間よろしいでしょうか?」
ダニー様の自室のドアをノックする私。
「ん? アヴリルか? オウ、いいぜ、入れよ」
「失礼いたします」
ドアを開けて中に入ると、そこには――。
「――!!」
「やっほー、アヴリルちゃん、久しぶりー」
裸のダニー様とキャスリンさんが、ベッドで横になっていたのである――。
あ、あぁ……。
「……ダニー様、これは、どういう……」
「どうって、見ての通りだよ。俺とキャスリンは、前からこういう関係だったんだ」
ダニー様は悪びれもせず、しれっとそう言った。
そんな……。
……いや、本当は私は、心のどこかでこの事実に気付いていた。
だが、現実を認めるのが怖くて、ずっと目を逸らしてきたのだ……。
でも、どうやら覚悟を決める時がきたみたいね――。
「……左様でございますか。――承知いたしました。では、私たちの婚約は、破棄されるということですね?」
「は? いやいや、何言ってんだよアヴリル。お前とはちゃんと結婚するから、安心しろよ」
「…………え?」
ダニー様の言っていることを理解するのに、私は数秒の時を要した。
私とは、結婚する……?
ずっとキャスリンさんと浮気していたのに……?
「で、では、キャスリンさんは……」
「もちろんキャスリンとも結婚するよ。俺は博愛主義者だからな」
「えへへー、流石勇者だね、ダニー」
キャスリンさんがダニー様に抱きつく。
「い、いえ! それは無理です! 我が国は、一夫一妻制なのですからッ!」
「その辺は俺が国王になったら何とかするよ。――今後は、一部の優秀な人間に限り、一夫多妻制を許可する法律を制定しよう」
「……!」
な、何を言っているの、この人……。
「前から思ってたんだよ。俺みたいな優秀な男の遺伝子を、一人の女にしか残せないのって、人類の損失じゃね? って。大昔は一夫多妻制の国が多くて、それで人類はここまで発展してきたんだ。だからここらでいっちょ原点に戻って、一夫多妻制でやってこうぜ」
「アハハー、そんなこと言ってー。ダニーは単に、いろんな女とやりたいだけじゃーん」
「バーカ、俺だってちゃんと選んでるっつーの。――お前のことは心から愛してるんだぜ、キャスリン」
「……へへ、ありがと」
ハチミツみたいに甘ったるい空気を醸し出した二人に、私は思わず吐き気を催した。
「し、失礼いたしますッ!」
私は二人に背を向け、部屋を飛び出した――。
「う、ううぅ……! うううぅぅ……!!」
そして誰もいない中庭で一人、声を殺して泣いた。
酷い……!
こんなのあまりにも酷すぎる……!
いくら世界を救った英雄だからって、あそこまでの横暴が許されていいの……?
……あんな人が私の夫になり、この国の王になる――。
……そんなの、魔王がいた時よりも地獄じゃない――!
「ア、アヴリル様、大変ですッ!!」
「――!?」
その時だった。
ベアトリスが大層興奮した様子で駆けて来た。
もしかして、ベアトリスもダニー様とキャスリンさんの浮気現場を見たのかしら……?
でも、その割には随分嬉しそうに見える。
「スティーヴさんが! スティーヴさんが帰って来ましたッ!」
「――!!!」
………………え?
「……お久しぶりです、アヴリル様」
「ス、スティーヴ……!!」
ベアトリスと共に城門に行くと、そこにいたのは紛れもない、スティーヴ本人だった。
全身傷だらけで立っているのもやっとといった風貌だけれど、その陽だまりみたいに優しい眼差しだけは、あの日のままだった――。
「そ、そんな……。夢じゃないわよね、これ? あなたは、魔王との戦いで命を落としたって聞いていたから……」
「……! なるほど、ダニー様はそう仰っていたのですね」
「ス、スティーヴッ!?」
「そんな!? どうして!?」
「おお、スティーヴ……! スティーヴではないか……!」
騒ぎを聞きつけたのか、ダニー様とキャスリンさん、それに私のお父様もこの場に駆け付けた。
「……これはどういうことなのですかダニー様? スティーヴが死んだというのは、噓だったのですか?」
私はダニー様に詰め寄る。
「い、いや、それは……」
「はい、私はこの通り生きています。――危うく死にかけはしましたが。何せ、魔王との戦闘中に、ダニー様とキャスリンさんは、私を置いて逃げ出したのですから」
「「「――!!!」」」
「……クッ!」
そ、そんな――!!
「……魔王は強大な存在でした。そのあまりの戦力差に、お二人は怖気づいたのです」
「ち、違うッ!! 俺は、一旦退いて、戦況を立て直そうとしただけだッ!」
「そ、そうよそうよ!」
「……その割には、逃げ出す際魔王に、『スティーヴの命は差し出すから、俺たちだけは見逃してくれ!』と叫んでいたではないですか」
「っ!?」
なっ――!!
何て酷い――。
「一人残された私は、そのまま一晩中魔王と一対一で戦い続けました。そして一瞬の隙を突き、何とかこの剣で魔王の首を刎ねたのです」
スティーヴは愛剣を感慨深く見詰める。
スティーヴ、凄いわ――!!
「……ですが、私が魔王の城から出ると、そこにはダニー様とキャスリンさんが待ち構えていました」
「そ、そうだよ! だから言ったじゃないか! 俺たちは逃げたんじゃなく、一旦体勢を整えてただけなんだよ!」
「そ、そうよそうよ!」
「……では、何故私が魔王を倒した旨を告げたら、私を攻撃してきたのですか?」
「「「――!!!」」」
そんな――!!!
「そ、それは……」
「あなた方は、敵前逃亡したことを、私が世間にバラすのを恐れたのです。だから私を殺して、口封じしようとした。そうして魔王を倒した功績を、横取りしたのです」
何て卑劣な――!!
むしろ、魔王よりも醜悪だわ……!
「満身創痍の私では、二人には勝てませんでした。私は大怪我を負い、そのまま谷底に落ちました。――ですが、奇跡的に生きていたのです。とはいえ、暗い谷底で一人で傷を癒すのに、これだけの月日がかかってしまいましたが」
嗚呼、スティーヴ……。
凄いわスティーヴ……。
そんな地獄と形容するのすら生温い苦境を、一人で乗り越えたなんて――。
「う、嘘だッ!! 俺たちがスティーヴを攻撃したなんて証拠は、どこにもねーじゃねーかッ!」
「そ、そうよそうよ!」
この期に及んで――!
往生際が悪いわね――!
「証拠ならここにありますよ」
「「……え?」」
スティーヴが上着を脱いだ。
すると――。
「「「――!!」」」
スティーヴの右脇腹には、夥しい火傷の跡があり、更に左胸から右脇腹にかけて、鋭い切り傷もあった。
「この火傷は、キャスリンさんの炎魔法で負ったものです。鑑定魔法をかけていただければ、キャスリンさんの魔力反応が出るはずです」
「あ、あぁ……」
キャスリンさんのお顔が、絶望に染まる。
「そしてこの切り傷は、ダニー様の剣で斬られた際のものです。ダニー様のその剣に鑑定魔法をかけていただければ、私の血液反応が出ることでしょう」
「ヒッ……!?」
スティーヴはダニー様の腰に差してある、愛剣を指差す。
これはもう、言い逃れできないわね。
「何という非道だ……! とても許されるものではない。オイ、この二人を、今すぐ捕らえろ!」
「「「ハッ」」」
お父様の命令で、周りの兵士たちが一斉に、ダニー様とキャスリンさんを拘束した。
「ま、待ってくれッ!! 俺の話を聞いてくれッ!! これには訳があるんだッ!!」
「イヤああああああ!!! 放してよおおおおおおお!!!」
抵抗虚しく、二人は連行されていった。
……自業自得ね。
地獄でじっくりと反省するがいいわ。
さて、と。
私は改めて、スティーヴと向き合った。
「おかえりなさい、スティーヴ」
「はい。只今戻りました。……あの、アヴリル様、本当にありがとうございました」
「え?」
私、スティーヴにお礼を言われるようなことしたかしら?
「魔王と戦っている最中や、谷底で死にかけている時、何度ももう無理だと諦めかけました。――ですが、そのたび私が出発するあの日、アヴリル様が私に仰ってくれた、『必ず生きて帰って来て』という言葉が、私を奮い立たせてくれたのです――」
「……!」
スティーヴ……。
「ですから、私が今生きてここにいられるのは、あなた様のお陰なのです、アヴリル様」
スティーヴはいつもの、春の陽だまりみたいな笑みを向けてくれた。
「ふふ、こちらこそ。私が今生きてここにいるのは、あなたのお陰よ。改めて、ありがとうね、スティーヴ」
「勿体ないお言葉でございます」
――そう、私にとっては、あなたこそが真の勇者なのよ、スティーヴ。
「ふむ、これは、アヴリルの婚約者は、考え直す必要があるようだな」
お父様が、顎を撫でながらニヤリとした。
お、お父様……!?
「余は、魔王を討伐した者とアヴリルを結婚させると約束したのだ。――だが、実際に魔王を倒した真の勇者は、ダニーではなくスティーヴだった。ということは、アヴリルの結婚相手は、スティーヴこそが適切だとは思わんか?」
お父様……!!
急に何を……!!
「わあ! 仰る通りですね! 私も賛成です!」
ベアトリスまで!?
「とはいえ、余としても、当人たちの想いは、なるべく尊重したいとは思っておる。――どうだ、スティーヴ? アヴリルのことは、どう思っておるのだ?」
「――はい、陛下。私はアヴリル様のことを、心の底から愛しております」
――なっ!?
ス、スティーヴ……!!
「ホッホッホ。なるほどな。まあ、お主の態度を見れば、バレバレだったがなぁ」
「ですよねー」
え!?
そうだったのですか??
もしかして気付いてなかったのって、私だけ……?
「で? アヴリル、お前はどうなのだ? スティーヴのことを、どう思っておる?」
「わ、私、は――」
「――アヴリル様」
「……!」
スティーヴに名前を呼ばれ、互いに見つめ合う、私とスティーヴ。
――この瞬間、私の中から、想いが溢れ出てきた。
――いつだって、身を挺して私を守ってくれていたスティーヴ。
――私が差し入れた手作りクッキーを、美味しそうに頬張るスティーヴ。
――猫が大好きで、じゃれ合う野良猫を見て、目を細めるスティーヴ。
――そして、一心不乱に、ひたすら剣を振るスティーヴ。
……ああ、そうか。
今やっとわかった。
私も本当は、スティーヴのことが――。
「――私も。私もスティーヴのことを、心の底から愛してるわ」
私はスティーヴの手を、そっと包み込むように握った。
「ア、アヴリル様……!」
感極まったスティーヴの瞳から、一筋の涙が零れた。
「ホッホッホ。これにて一件落着」
「おめでとうございます、お二人ともおおおおおおお!!!!」
「うふふ、ありがとうございます」
「あはは、ありがとうございます」
――こうしてニャッポリート王国の姫は、世界の英雄である勇者と、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし
拙作、『戦争から帰って来た婚約者が愛人を連れていた』がコミックグロウル様より2026年3月6日に発売された『選ばれなかった令嬢には、本命の彼が待っています!アンソロジーコミック』に収録されています。
よろしければそちらもご高覧ください。⬇⬇(ページ下部のバナーから作品にとべます)




