白将校、死後に立つ
超絶お久しぶりです。最近おもしろくない小説ばかり出して申し訳ありませんでした。ロクなアイデアが浮かんでで来ず……。ですが!
今回は念に念を重ねた、何なら最高傑作…となるはずの小説です。
これからは、これを主体に進めるとともに、今までていた三つも、ところどころで進めていく形になると思われます。
いちいち作品を作ったり消したりで忙しいやつとは思いますが、何ぞと、これからもよろしくお願いします!!
……あと、Eキーが反応しにくくなりました。
荒廃した、シベリアの戦場。
そこには、打ち捨てられた魚のように並ぶ、数多の屍があった。
ゲリラ戦で痛手を負った双方の兵の目はうつろで、すでに彼岸を見ている者もいる。
その中心。一人の青年が、必死に生にしがみ付こうともがいていた。
日本人にはめったにないほど白い肌と、彼岸花のような赤に包まれた瞳。
傍らには、彼に一目置いていた上司から授与された刀が、淋しげに転がっている。
彼の名は凶枯零 鍾といった。
鍾が次に目を覚ましたのは、天国でも地獄でもなく、ただ、純白の天井と壁が広がる部屋のような場所だった。
あたりにはいくつか質素な家具が置いてあるが、それも、周辺と同じ白色で塗装されている。
「ここは……」
彼があたりを見渡していると、ノックと共に女性が入ってくる。
歳は、おそらく20代くらいだろうか。
服は部屋の色とあった白色で、どこか神秘的な雰囲気を纏っていた。
「やっと来た…8人目」
「8人目……?僕は死んだはずじゃ…」
「いいのいいの。こっちの話。それよりもこっちに来て。話があるから」
そう言って彼女は部屋を出て行ってしまう。
知らない女性について行っていいものかと迷った鍾だったが、状況が状況だった。
部屋を出ると、そこに広がっていたのは西洋の城の大広間のような空間だった。
黄金色に光る集合灯があたりを照らし、その下にある円卓の茶色を際立たせる。
そこには先に、7人の男女が据わっていた。
「ほら。いったんここに座って?」
「…わかった」
椅子に座って、後ろの壁を見たところで、鍾は息をのんだ。
木でできた掛札の右から8番目にある彼の名前。その右側には、名だたる世界の英雄たちの名が並んでいる。そしてそれは、この円卓に座っている者たちが、その名と対応するということを示していた。
【古代の巫女】卑弥呼、【天文学の父】ガリレオ・ガリレイ、【大王】アレクサンドロス3世、【聖騎士】ジャンヌ・ダルク、【絶影の刺客】荊軻、【凶僧】グレゴリー・ラスプーチン……そして、【白い死神】という二つ名と共に、シモ・ヘイヘという猟師もいる。
「さ、これで全員揃ったよ」
将たちをここへ案内した彼女はそういうと、軽い口調で話し始めた。
「いきなりこんなとこに集めてごめんね?私の名前はリリア。信じられないとは思うけど、天界で女神をやってるの。」
その言葉に、全員が耳を疑う。
だが、死んだはずの自分が、かつて死んだはずの英雄たちと肩を並べている事実は、その言葉に、圧倒的な説得力をもたらしていた。
「知らない人もいると思うから説明するけど、今ここにいるのは、人類が歩んだいろんな時代から集めた英雄たちなの。」
「あの…」
リリアの言葉に、恐る恐る鍾は手を上げた。
「あの…僕は、皆さんのように大層なことはしていないんですが……」
「説明してなかったっけ。えぇっと……私はあなたたちを、とある目的のために召喚したわけなんだけどね?そういう魔法にはいくつか決まりがあって、いくつかのふりを背負わないといけないの。そのうちの一つが、呼び出す人間の内の一人は英雄じゃなくて、この世界で英雄になりうる人間じゃないといけないっていうルールがあるの。それで選ばれたのがあなたってわけ」
「無責任じゃないというわけね?」
鍾の向かいに座る卑弥呼が聞くと、リリアは当たり前だというように頷く。
「もしも、その英雄候補の子が何らかのせいで死んだりしたら、私も一緒に消滅する。真剣に選んだ結果だから、安心してちょうだい」
「……して、女神は俺たちに何を所望だ?人生という一仕事を終えた俺たちに薄っぺらい頼み事では、割に合わんぞ?」
「わかってるわよ。」
アレクサンドロスの質問に対して、リリアは三段になった棚を取り出してきた。それぞれの棚の上には、人間や動物などの模型が置かれている。
「これがこの世界の簡単な図よ」
「…地球のうえにこれがあるということか?」
「いえ。それぞれの世界が、互いに行き来できないように重なっているというのが正しいわね」
ガリレオの問いに答えつつ、彼女は二段目、一段目、三段目と順に説明していく。
「二段目。中央が、あなたたちの居た人間界。私たちは下界って呼んでるわ。その上。一段目は私たち神が住む天界。一番下、三段目は、魔族と呼ばれる者たちが住む魔界。あなたたちのイメージだと、悪魔なんかが一番わかりやすいかしら。」
淡々と説明していくリリアの指を、8人の目が追いかける。それは、自分たちでは気づくことがなかったであろう、この世界の形だった。
「あなたたちを集めた理由はここにあるわ。」
リリアは棚を直すと、椅子に座って話し始める。
「あなたたちは感じないかもだけど、人間や魔族の文明発展速度は、私たち神に比べて非常にゆっくりなの。元々、神と人間、魔族は同じ祖を持つから、そこについては同じはず…。でもいま、神は人間と魔族の発展速度を管理して、自分たちに追いつかせないように管理しているの。何年かに一度、天災と呼ばれる物が来るのはそれが原因よ。私は、あなたたちに協力してもらって、今の神の体制を改めさせたいの」
「……なぜ主はそのようなことを?今の体制こそ、神がこの世の頂点に君臨できる最高の状況ではないのか?」
凶僧の言葉に、リリアは静かに首を振る。
「私や、私に協力してくれてる神は、人間や魔族も神と同じように発展すべきだと考えてるの。それで、人間より魔族のほうが神に近くて、対抗できる可能性が高いから、人間の知恵と魔族の力で反抗しよう……ていう話だったんだけど」
「…何か問題が?」
心配そうな顔をするジャンヌ・ダルクに、リリアは悲しげにうつむく。
「どうやら、私たちの計画がバレちゃったみたいで。この空間では時間が止まってるからいいんだけど、今、外では私たちの拠点に攻めてきている状況なの。」
まずい状況で呼ばれてしまった。そういった表情を皆が浮かべる中、1人だけ冷静に場を見ているものがいた。荊軻だ。
「…俺たちの仕事は神を倒すこと。今なら、感覚も鈍っていない。殺された鬱憤も晴らせる。一石二鳥の、またとない機会だろう。俺は乗るぞ、その話」
その声に、ほかの英雄たちも立ち上がる。だが、鍾だけはリリアに呼び止められた。
「あなたは、わたしたちが敵をとどめている間に、魔族たちをぜんぶ率いてほしい」
「…なんで僕なんですか?」
「…日本の軍大を首席で卒業したあなたを見込んでよ。今の兵力とこのメンツなら、3年は耐えられるわ。その間に、できる限り味方を増やしてほしい」
突然のことに戸惑う鍾の肩に、シモ・ヘイヘが手を置く。
「頼まれたことは、やる。できなくても、できるだけ。……君の話は、聞いてる。君が来る前に、一通り、ここの図書館で、調べた。キミなら、できると思う。だから、頼んでる」
その言葉に、鍾の紅の目に光りが差した。
「…あなたたちに一つだけ、望むものを何でもあげる。巻き込んだことへの、せめてものお詫びよ。それと一緒に、あなたたちが持つ魔法の属性を確認させてほしい」
「魔法…いくつでも使えるのではないのか?」
「魔法と言っても、使える属性は、この世界に生まれ落ちた、もしくは召喚された時に獲得した一つの属性だけに限られるのよ」
英雄たちが欲しいものを願い、魔法を確認している間。鍾は図書館から、大量の文献を持ってきていた。
「それ、何だ?」
シモ・ヘイヘが、愛犬のハスキーを撫でながら尋ねる。
「魔族や魔法について書かれた本。これから3年でまとめないといけないなら、身に付けれる知識は全部詰め込むべきだと思ってさ」
「…さすが。勉強の仕方、違う」
「ありがとうございます」
「鍾さん。次!」
「あ、はい」
「…何が欲しい?」
「ほかの方々は、どんなものを?」
「卑弥呼さんは天照の法衣。ラスプーチンさんはヘーパイストスの篭手など…」
「神様の所有物もあるんですか」
「というよりは、私に協力してくれている神様、が正しいね」
「…なら」
「?」
「日の下を歩ける体…で」
「…アルビノか」
「はい」
「日本人には珍しいな。完全に色素が抜けるタイプは」
「…はい」
「……わかったわ」
リリアが鍾の額に触れると、そこから金色の粒子が舞い散り、彼の体に吸い込まれていく。
純白の肌はそのまま、だがそこに、日の光に耐えうる膜のようなものが出来上がりつつあった。
「これで完了っと」
「ありがとうございます」
「このくらいお安い御用よ。それで、魔法も確認させてもらうね」
彼女はそういって、彼の左手を取って、そこに小さな円を描く。
周りの英雄たちは、左の手の甲に魔法の紋章が浮かんでいる。光、炎、水、雷、毒…。
「ん~と、これで……よし!」
彼女が手を離した瞬間、鍾の手の甲に文様が浮かび上がるとともに、彼の足元から、どす黒い炎のようなものが噴き出した。
「…英雄唯一の闇属性持ち……やっぱり、あなたが魔物たちをまとめるのに適任みたいね」
「…闇属性の方がいいんですか?」
「魔界の環境でも生きていけるわ。言語については、私のバフで分かるようになってるし、いつも通りしゃべれば通じるから」
「……ここでは、時間は経たないんですよね」
「そうよ。私たちはもう行くから、好きにして。食べ物も、願ったものが出てくるようにしてあるわ」
「ありがとうございます」
「いいのよ。無理難題を押し付けちゃってるのは私の方だから。じゃ、頼んだわよ」
そう言って、リリアと7人の英雄たちは、天界へと続く扉を開けて出て行った。
「…さて」
それから、1年。
鍾はこの部屋にこもり、魔界について、すべて知り尽くした。
魔物や魔族の祖は、人間に力を与えたがために天界を追放された神であったこと。
それが理由で、魔族たちは神を恨む気持ちが強いこと。
特徴の違う13の種族、魔族たちが創設した9つの国、それらがひしめき合う5つの大陸で構成されていて、それぞれの国が同盟関係にあること…。
「よし。これで十分か」
長い勉強を終え、彼は立ち上がる。
傍らに置いた愛刀、幽冥・魄桂玄を携え、左半身を隠す用に袖なし外套を羽織り、軍帽を深くかぶる。
目の前には、魔界へと通ずる門が、大きく口を開けていた。
「……陸軍将校 凶枯零 鍾。いざ、征かん!」




