猫と季節と
冬の間スッカリ忘れているのだが、ご近所さんの猫、ミイコと久しぶりに会った。段ボールを資源ごみに出す日の話だ。
「あっおいコラ……それ回収用の一升瓶だからトイレにすんな」
雨除けだけしてあるごく簡単な物置き。ミイコはどうにもガラス製品に小用を足す変な癖がある。べつに住居のなかにまで臭いがはいることは無いから良いのだが、分別に出すとき臭うのでなるべくやめてほしい。
ミイコは冬毛で、もともと毛足が長いのがさらにふわふわモコモコになっている。
「着膨れしたなオメーも」
半笑いで茶化してやる。着膨れしているのはこちらも同じで、灯油が高いので重ね着するかと外套を家の中でも着ていたりする。しゃがもうとすると膝回りにもさもさっと布地が渋滞してきてとてもしゃがみにくい。ミイコは相変わらずミステリアスな感情の乏しさで、聞こえるか聞こえないかの声で、ミャ。と返事をする。抗議しているようにも聞こえるし、久しぶり。と言っているようにも聞こえる。こっちをいつまでも見てくるので、敵意はないよ、と、私はたっぷり3秒目をつぶって見せてやる。ミイコは安心したのか、すすす……とこちらに出てきて座る。
「あーそうだ、お前日向ぼっこしに来るんだっけなあ」
雲が切れてきて、日差しが差し込んでくる。乾いたコンクリートの床は、冬は極寒だが春からは熱を吸収して周りより暖かくなる。ミイコの黒い毛が太陽の光に当たってツヤツヤと光る。
不思議なのだがミイコの長い毛は、完全に無彩色で真っ黒なところと、わずかに赤みがあって太陽の光が当たるとチョコレート色に見えるところと2種類の毛がある。より黒い毛は背中から胴の中ほど、チョコレート色なのは腰と後ろ脚、尻尾まで。それに首から耳、頭もダークチョコレート色で、かと思えば口元は真っ黒のようだ。
ミイコを知っている大概の人は黒猫と信じて疑わないのだが、快晴の空の下でよくよく見るとコントラストのごく弱いツートンカラーなのである。不思議だ。ミイコはどんな縁でこの毛色を親からもらったのだろう。冬は寒いくせに、ここの夏はひどく暑いから、この毛色には困ることもたくさんあるだろう。でもミイコが自分の毛色を自慢気にするところも不自由そうにするところも、見たことがない。ミイコは生まれたものは生まれたまま、日々をただ生きるために生きている。
「……俺が意気地なしみたいじゃないかよ、なあ」
文句を言ってみる。暇庭はこんなふうに、よく言葉でミイコに八つ当たりをかます。それは言わずもがな、自分の情けないところをミイコと見比べて見つけてしまうからだ。
私と違ってミイコは絶対にへこたれない。私と違って絶対に過去を恨まないし、今いる場所、環境へのたらればで不貞腐れるということがない。だから暇庭はミイコが羨ましくて、ミイコに変に気後れしたりして、そうしてミイコを少し、尊敬している。
また、ミイコの我が家に来る季節が始まる。ミイコは今年も多分、何を思っているのかよく分からないポーカーフェイスでいつの間にかうちに来るのだろう。いつでも来るといい。私はお前を歓迎するほど猫好きでは無いけれど、追い出すほど嫌いでもない。たまたま近くに生きるもの同士。お互いに好きにやろう。なあ。ミイコ。




