第二十八話 番外
3月中旬。
土曜日。
颯太、蓮、凜の三人で、映画を見に行くことになっていた。
それは、由美が提案したものだった。
「三人で、一緒に何かをする時間を作ってみてはどうか」
その提案に、颯太は戸惑った。
だが、拒否することはできなかった。
蓮も凜も、その提案に頷いた。
映画館は、混雑していた。
土曜日の午後。その時間帯は、特に人が多い。
颯太は、映画のチケットを購入した。
三枚。颯太用。蓮用。凜用。
その瞬間、颯太は、この状況の複雑さを感じた。
蓮と凜。
二人が、自分の両側にいる。
その光景。
颯太は、何度も経験していた。だが、それでも、毎回、複雑な感情を感じていた。
「今日は、何を見るんですか?」
蓮が、颯太に聞いた。
「恋愛映画らしい。凜が選んだ」
颯太が、答えた。
その言葉を聞いた瞬間。
蓮の表情が、微かに変わった。
恋愛映画。
その映画を、凜が選んだ。
その意図が、蓮には理解できた。
凜は、この三人で映画を見ることで、何かを伝えようとしているのだ。
映画館の中。
三人は、横一列に座った。
颯太が左。蓮が真ん中。凜が右。
その配置は、誰かの指示があったのではなく。自然とそうなっていた。
映画が始まった。
スクリーン上に、物語が展開する。
それは、二人の男女の恋愛物語。
だが、その物語には、第三者の存在があった。
二人の男女を愛する、別の存在。
三角関係。
その物語が、スクリーン上で展開されていた。
颯太は、その映画を見ながら、自分たちの状況と、映画の登場人物たちを重ね合わせていた。
そのことが、颯太の心に、深い不安をもたらしていた。
蓮は、映画を見ながら、色々なことを考えていた。
映画の登場人物たちの選択。
その選択の過程。
そして、最終的な決着。
それらが、蓮にとって、現実への示唆に見えた。
凜は、映画を見ながら、完璧に沈黙を保っていた。
その沈黙の中に、凜の強い意志が隠れていた。
凜は、この映画を見ることで、何かを颯太に伝えたいのだ。
映画は、進む。
映画の中の三人目の登場人物(凜に相当する存在)は、次第に本性を露わにしていく。
その過程が、映画を見ている凜の、現実での行動と重なっているようだった。
映画のクライマックス。
映画の主人公(颯太に相当する存在)が、二人のヒロインの中から、一人を選ぶ瞬間。
その瞬間。
映画館の中は、静寂に満たされた。
そして、主人公が、第三者(凜に相当する存在)を選ぶ。
その瞬間。
颯太の心は、激しく揺さぶられた。
その映画での選択が、自分たちの現実に何をもたらすのか。
その問いに、颯太は答えることができなかった。
映画が終わった。
三人は、映画館を出た。
その時。言葉は交わされなかった。
映画館から出た後。
三人は、映画館近くの喫茶店に入った。
そこで、初めて、会話が始まった。
「映画。どうでしたか?」
蓮が、颯太に聞いた。
「複雑だった。登場人物たちの気持ちが。複雑に絡み合っていて」
颯太が、答えた。
「そうですね。複雑ですね」
蓮が、その言葉を反復した。
凜は、コーヒーを飲んでいた。
その目は、颯太を見つめていた。
その目の中には、何かの計算が映っていた。
「颯太。あの映画の主人公。誰を選ぶべきだと思いますか?」
凜が、聞いた。
その問いは、直接的だった。
映画の内容を聞いているのではなく。颯太自身の価値観を問うているのだ。
「それは。人による。登場人物たちの背景。経験。そして、心情。すべてが影響する」
颯太が、答えた。
「ですが。最終的には。選ぶ必要がある。どちらか一方を」
凜が、続けた。
その言葉は、宣言のようだった。
蓮は、その会話を聞きながら。何かを考えていた。
映画での選択。
凜の言葉。
そして、颯太の答え。
それらが、蓮の心に、別の現実を示していた。
それは、決して、蓮にとって、心地よいものではなかった。
だが、蓮は、その現実と向き合う覚悟を、すでに決めていたのかもしれない。
「そうですね。選ぶ必要がある」
蓮が、呟いた。
その呟きは、誰に向けられたのか。
颯太も凜も、それを理解することができなかった。
喫茶店での時間が続く。
会話は、映画の内容から、別のトピックへと移行した。
だが、その会話の背後には、いつも、映画の三角関係の問題が隠れていた。
やがて。
三人は、喫茶店を出た。
その時。
颯太の心の中に、ある確信が生まれていた。
映画の中で描かれた三角関係。
それは、現実の縮図だ。
そして、映画の中の登場人物たちが、どのような選択をしたのか。
その選択の過程が、自分たちの現実に対する、一つの示唆になるのだ。
帰路。
三人は、一緒に歩いていた。
その時。
蓮が、颯太に話しかけた。
「そう……ちゃん。今日は。ありがとうございました」
蓮の言葉は、感謝というより。別の何かのようだった。
「何に対して?」
颯太が、聞いた。
「映画を見てくれたこと。そして。このような時間を、三人で共有できたこと」
蓮が、答えた。
その答えは、表面的だったが。その中には。蓮の本当の気持ちが隠れていた。
それは、別れへの感謝。
あるいは、選択を促すことへの感謝。
そういった、複雑な感情が。その言葉に込められていた。
凜は、その会話を聞きながら。黙っていた。
だが、凜の心の中には。確実に何かが生まれていた。
映画の中で。第三者が選ばれた。
その映画を、凜は意図的に選んだのだ。
その意図が、どのような結果をもたらすのか。
凜は、それを注視しながら。待機していた。
映画は、終わった。
だが。その映画が蒔いた種は。三人の心の中で。これからも育ち続けるだろう。
3月中旬。
その映画館での出来事は。颯太、蓮、凜の三人の関係に。新しい局面をもたらしていた。
映画の中での選択。
それが。現実での選択を促していた。
そのプロセスが。確実に進行していたのだ。




