表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/294

勇者の帰還

「こら。昼寝にはまだ早いぞ。廊下に立っていろ。」

ここは、何処だ。教室のようだが・・・。

朧気ない頭のモヤモヤが、徐々にハッキリとしてきた。


突如として涙が溢れ出る。懐かしい顔ばかり。先生、クラスメート。

全てがあの当時のままだ。何も変わっていない。

男は急に駆け出しトイレに駆け込む。鏡を前に自分の顔を見つめる。俺も変わっていない。あの召喚前の俺がいる。


あれは、俺たちのクラス全員が異世界に召喚された時から始まった。


王国は魔王の蹂躙で滅亡の危機にあり、最後の望みとして [ 異世界召喚 ] が行われ、俺たちのクラス30名が、勇者として選ばれた。


召喚当初は王国とも、クラス内でも揉めにもめたが、この時から俺たち勇者の冒険が始まった。

しかし、録な訓練も出来ずに即実戦となれば、命を落とす者が出てもおかしくは無い。何人かの死亡は記憶している。

俺が生き延びたのは、偶然もしくは運が良かっただけだろう。


本当に俺は運に恵まれた。心強い仲間に出会た。その後は順調にレベルが上がり、苦闘の末とうとう魔王を倒した。



気が付けば召喚から30年の月日が流れて、初老に差し掛かる年齢になっていた。

あの頃のクラスメートの噂を聞かなくなって久しい。安否すら不明だった。


王都に凱旋。大歓声の出迎え。王からの受勲そしてパーティー。

次々と流れる行事に、漠然と乗る俺は戦いの無い日常が他人事の様に感じられ、生きている実感すら奪われた奴隷と化していた。


時より、ふと気付いたかの様に周りを見渡している。どこかに昔のクラスメートがいないか探していた。


共に祝いたかった平和の世界が訪れたこと。もう、殺しあわなくて良いことを。

召喚されてからのお互いの苦難を称え合いたかった。

だが一人として祝ってくれる者が居なかった。


俺は宰相にクラスメートの安否確認をお願いした結果、辛うじて数名の存在が確認出来たとの事。

しかし、その生存者は、戦いに傷付き、在る者は精神に異常をきたし、在る者は手足を失う惨状だった。

俺は直ぐ様に駆け出し、面会を求めた。

だが返答は「否」だった。

宰相に彼らの行く末を頼み、複雑な気持ちのままで宿舎に帰った。


俺は伯爵に任じられ、領地が与えられた。

宰相から領地経営に適した部下を薦められ、全て彼らに任せた。

結婚も勧められたが、それだけは丁重に断った。


俺は秘めた思いを胸に王都で、情報を集める毎日が続いている。

俺の思いは [ 日本に帰ること。そして、召喚されたクラスメートと共に帰ること ] その願いが叶えそうなダンジョンの情報を集めては、攻略していた。


世界各地を廻った。砂漠の中。辺境の樹海。海の底のダンジョンも。

あらゆる情報が有る限り、其処に望みが有る限り、俺は進んで攻略し続けた。

攻略したダンジョンの数は数百を越えたらしい。

幾多のドラゴンを倒し、中には次期魔王候補のも居たらしい。

だが望んだ結果は得られなかったが、俺は充実していた。生きている実感が漲っていた。そして等々、俺の満足した人生の終わりが来たらしい。

俺は静かに目を閉じた。



「ここは、何処だ。教室のようだが、朧気ない頭のモヤモヤが、徐々にハッキリとしてきた。

涙が溢れて来る。懐かしい顔ばかり。先生、クラスメート。全てがあの当時のままだ。何も変わっていない。」

俺は戻った来たんだ。クラスメートと共に、日本へ帰って来たんだ。


涙で目が霞んでいる。そして、神に感謝した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ