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不意の召喚は思わぬ人を巻き込んで
それは、突然の召喚だった。
大理石に刻まれた魔方陣には、数名の若者と1人の初老の青白い男を連れてきた。
満面の笑みで召喚者を迎える王たちと不意の出来事に理解が追い付かない召喚者。
怒号と啜り泣く声が、広間に響き渡る。
神官と宰相が、若者たちをなだめ、説得している。やがて若者たちは、説得に応じて、半ば諦めた表情ながら勇者として立ち上がる事を承諾した。
若者たちの鑑定の後、王宮で歓迎パーティーが開かれる模様だ。
王は、若者たちを誘い、騎士たちに護衛されながら大広間を去る。
大広間には、初老の青白い男がひとり残っているが、誰ひとりとして配慮すらされない。
いや、ただ1人の神官女のみが男を見詰めて、一言呟いた。
「ごめんなさい。貴方まで迷惑をお掛け致しました。此処は、貴方の世界とは異なりますが、静かに、お眠り下さい。」
彼女の頬を一粒の涙が流れ落ちた。
初老の青白い男は、頷き静かに消え去った。自分の為に、涙を流してくれた人に感謝をしながら・・・。
彼の魂は、微笑みながら異世界の女神の元へと旅立った。