封印
「何かが、俺を呼んでいる様な気がする・・・。」
辺境の農家の三男に生まれた俺は、口減らしの為、成人すると追い立てられる様に村を出た。
特別なスキルも無い俺は、冒険者になる目的で近くの町を目指している。
辺境の町は、ダンジョンと魔物退治目的で冒険者が集まり、活気に満ちており、田舎者の俺には眩しい世界でもある。
早速ギルドで冒険者登録を行い、初心者Eクラスで冒険者生活がスタートした。
薬草採取から町の雑用まで行い、実績は確実に積み重なっており、一年後には、EからDへと順調に昇格して、小型の魔物退治も許可された。
しかし、初めての魔物に対峙した時は、焦りと不安ながらどうにか倒し、初めての解体で血を見た時に、何故か喜びを感じる妙な体験をした。
それ以降、何処かで俺を呼ぶ夢を度々と見る様になった。
その後は、クラスもDからCへと進み、護衛任務や盗賊退治と経験をこなし、ベテラン冒険者と呼ばれる立場となった。
その頃に、町の娘を見初めて結婚。そして子供を授かると生活面でも順調に進んでいた。
だが、魔物を倒して流れる血を見る度に、動悸が早くなり、気分が高まり、知らぬまに頬が緩んでいた。
そして、とうとうその日が来たのだった。
その日は、朝から頭が重く、体も少しだるく、風邪でも引いたかな位にしか思っていなかったが、気にもかけずに何時もの様に、ギルドで魔物退治の依頼を受けて、森に向かった。
森に入ったが、頭がボャしており、集中力に欠けていた俺に、横から不意にビックボアに突進されて、俺は身構える事無く、大木に向かってはね飛ばされた。
大木に頭を打ち付けた時に、記憶の封印が解かれたのだろう。
俺が誰なのか。
俺を呼ぶ声が誰なのか。
全てが記憶として流れ込んできた。
俺は、魔王だった事を。
勇者に倒された記憶とその後は女神達に封印された事を・・・・・苦しみを悲しみを思いだした。
だが、同時に人として生きた記憶。
妻や子供達に愛された記憶。
辛かった事、苦しかった事、そして楽しかった事。
ギルドでの共に乗り越えた仲間達の記憶もある。
俺の苦しみは、これから始まるだろう。
一層のこと、封印が解けなければ、この命を断つ事が出来れば・・・人として一生を終えたのに。