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第5章 第11話 披露宴再び

 ユイエは案内役に連れられてお色直しをしたカミュラ、アーデルフィア両名と合流した。


「アーデの紅いドレスとカミュラの蒼いドレス、デザインを揃えたんだ?」


 伴侶達と合流したユイエはパッと見た印象で声を掛けた。


「そうだよ。正確にはデザインは左右非対称で色も合わせて対になるようにしてみたんだけど、どうだい?」


 アーデルフィアのいう通り、アーデルフィアは左肩が露出していてスカートもスリットが左側に入っている。カミュラはその逆で、右肩の露出にスカートの右側にスリットが入っていた。その左右非対称かつ正反対の色味もあり、2人セットで目を惹く存在であった。ユイエが2人に微笑みながら2人の衣装を褒める。


「うん。2人ともとても綺麗だよ。お揃いの美女2人が揃って俺の伴侶、両手に花とか最高に贅沢だ。これから披露宴で向けられる嫉妬の視線が怖いね」


「それをいうなら私達だって。参加してくれた令嬢や若奥様達から嫉妬の視線を受ける覚悟しているよ?」


「ですね。ユイエ様はご自信の評価に無頓着ですから、気が付かないかもしれませんけど」


 女性2人の衣裳変更と共に、ユイエ自身も純白の三つ揃えから光沢のある灰色の三つ揃えに着替えていた。細かなデザインと生地はカミュラが注文した通りの出来である。この光沢は錬金術で囲うされた魔法金属繊維がふんだんに用いられていることに由来した。


「心外だな。俺宛に婚約やお見合いの類が山ほど来てることくらい知ってるさ。けど俺の一番と二番はもう埋まってるんだ。文官女子隊と組んで全部お断りしてるから、俺が恨まれてるってのもあると思う。嫌な思いをさせてごめんな?」


ユイエがアーデルフィアとカミュラを抱き寄せ、耳元で小さく謝罪の言葉を口にした。


「んぁッ、不意討ち反対!」


 アーデが身を捩らせて文句を良い、カミュラは顔を紅潮させつつユイエに抱き着いた。


「ユイエ様も私の選んだ衣装に着替えて下さり、ありがとうございます。想像した以上のかっこよさで惚れ直しました」


 カミュラはユイエに笑顔で褒め返すと、左腕にカミュラが、右腕にアーデルフィアが腕を絡めてきた。


「2人に挟まれるのも慣れてきたつもりだったけど……。緊張してきたな」

「貴族達の挨拶の対応はアーデ様と私でフォローしますから、ユイエ様は堂々と笑顔で傍にいてください」

「そうそう。変におどおどして舐められるより、歯牙にもかけず堂々としている方が格好がつくからね。魔境伯はそういう爵位なんだからさ」


 2人の言葉に気を持ち直し、ユイエは表情を改めた。


「2人ともありがとう。これからも支えておくれ」

「「えぇ(はい)」」



◆◆◆◆



 ユイエ達3人の到着を会場スタッフが告げ、催事場の大扉が開かれた。


 ユイエはアーデルフィアとカミュラの笑顔チェックに合格した余裕を感じさせる微笑を浮かべ、その実、緊張で顔が追わば理想になるのを必死で維持していた。

 それに対し、ユイエの左右についたアーデルフィアとカミュラは社交向けの笑顔に余裕が見てとれる。


「(2人ともすごいな?素直に頼りにさせてもらおう)」


  ユイエはドレスを着たアーデルフィアとカミュラの歩調に合わせ、ゆっくりと赤絨毯の上を進んで行く。


 会場出入口の大扉に近い側が小貴族縁のある平民達の円卓があり、逆に奥に向かう程に爵位の高い貴族達の円卓が並んでいる。


 探索者シーカー関係者や取引のある御用商人あたりの席からは素直に祝福してくれる様子が伺える。小貴族達の席からは、若干嫉妬混ざりの気配を感じる。


 中位貴族から高位貴族にかけての席からは殺気混じりの昏い気配が多く感じ取れた。疎まれている、あるいは恨まれているのだろう。恨みを買う程貴族と関わっていないにも関わらず、である。ドラグハート家の3人が並んで座る長テーブルに最も近いところにまで進むとウェッジウルヴズ大公家、レーヴェンハイト皇家、アズライール伯爵家と各義家族達が集まっており、友好的な空気感で、3人はほっと緊張感がほぐれるのを自覚した。


 披露宴の催事場スタッフの仕切りにより登壇して皆への挨拶が行われる。催事場スタッフからの紹介や声掛けに合わせて何度か拍手が起こった。


 スタッフに着席を促されると3人はそれぞれ席に着く。


 すると、会場に料理が運び込まれ、各円卓に次々と配膳されていく。カミュラとユイエで試食して決めたコース料理である。アーデルフィア考案の料理が中心で構成されており、催事場のキッチンのスタッフ達にレシピを渡して作ってもらった料理である。

 そのレシピは今後も催事場で利用させて欲しいと支配人から直に頼まれ、レシピを秘匿する気のないアーデルフィアによりあっさりと許可が出た。それを感謝した支配人から、式典費用からいくらかの割引で還元してくれたらしい。


 アマツハラ皇国であまり見ない盛り付けや調理された料理の数々は、異国風なメニューとして大いに受け、来場客達の顔も綻んで見えて、ユイエ達は胸を撫でおろした。


 しばらく歓談しつつ前菜から出されていく料理と酒を楽しんでいると、催事場スタッフの案内で各円卓から次々と挨拶にやってくる来場客からの酌を受けて呑むフリだけし、都度足元のバケツに廃棄する。

 儀礼的に酌を受けたら受け取らない訳にはいかない。しかしそれを馬鹿正直に呑んでいればあっという間に潰れてしまう。そのため、唇を湿らせる程度の呑んだフリで酒を廃棄していく。


「(……儀礼的に必要なのは分かるけど、やはり勿体ないな……)」


 ここで3人が廃棄していく酒の量も馬鹿に出来ない。何度かバケツの取り替えも行われている。


「(こんな儀礼で捨てるくらいなら、鉱山族ドワーフ達に楽しく飲んでもらいたいよ)」


 ちらりとマインモールド大公家の席に目をやると、彼等は彼等でいつも通り楽しく飲み食いしているのがみえた。ユイエからの視線に気付いたドノヴァン大公が、ジョッキを持ち上げて笑顔を向けてくれた。


「(裏表がない鉱山族ドワーフ達は癒しだな)」


 ユイエも手にしたグラスを軽く持ちあげ、視線と動作でドノヴァンに挨拶を返した。


 小貴族や縁故のある平民の関係者達の次は中規模の貴族達が続き、一言二言言葉を交わしてはけていった。


 大貴族達の挨拶は新郎新婦のテーブル前の目の前に皇家や大公家の席があるからか、意外と大人しく祝辞だけ述べて席へと戻って行く。


 中には大公家や皇家を背にする形での挨拶のため、口調と語調は丁寧に、しかし目だけは殺意を宿らせたような貴族もいたが、概ね問題なくスケジュールは進行していった。


 最後にドラグハート家の出自となる3家から各自の挨拶と祝辞をもらい、改めて縁戚関係となったことを意識し、そのことを嬉しく感じていた。



 因みに披露宴の主役ことカミュラは、合間合間にお色直しで衣装替えを5回もしていた。その度にユイエは誉め言葉を送るのだが、語彙力が試されている気がしてならなかった。何とかカミュラを不機嫌にさせる事無く乗り切れたことで胸を撫で下ろすのだった。



◆◆◆◆



 滞りなく披露宴も閉会し、来場客達の見送りまで終わらせると、男女別の控室で衣装を着替えて共同の控室で合流した。


「ふぅ……。なんとか乗り切れたね」


 会場で最も嫉妬混じりの殺意を浴びていたユイエが大きく息を吐いた。


「やはり最前列の最寄り席に親族を集めたのは正解でしたね。良い牽制になりました」


 カミュラが円卓席の配置の工夫が上手くはまったことを嬉しそうに話す。


「決闘だ!ってゴネる貴族も出るかと思ってたのに」


 学生時代に決闘を吹っ掛けられ慣れたアーデルフィアは、若干物足りなさそうに言う。


「魔境伯の実力は法螺や誇張の類じゃない本物だと、皆が思い知ったからかもしれませんね?」


「とはいえ、何人か俺を殺したそうな目で見てきたんだよね。搦め手の嫌がらせでもありそうで、楽観はできないかな……」


「カミュラ様や私のドレス姿を、イヤラシイ目で全身舐めるように見てきた気持ち悪い侯爵とかじゃないかな?」


「いましたね……。ガラネイサ侯爵とその派閥の方々ですね」


 カミュラもそれを思い出したのか、眉根を寄せている。


「そうなのか?そこまでは気付かなかった。すまん……」


「でも貴族なんだからさ、殺意は隠して笑顔で手を握りながらもう片手で刺すくらいの腹芸しろって話だよね」

「感情駄々洩れでしたものね」

「敵だと分かり易くアピールしてくれて、そこだけは高評価だな」


 何はともあれ、今回の式典で目を付けた貴族の動向については、諜報部にマークさせることにした。



◆◆◆◆



 催事場を後にしてドラグハート邸に帰宅すると使用人達に盛大に迎えられ、ホームの空気感に残っていた緊張感も解けていくのを感じていた。


「皆、祝辞をありがとう。これからもよろしく頼むよ。今日はジョヴァンニに伝えた通り、ダイニングを解放して皆で宴として欲しい。どうしてもやらなければいけないこと以外は今日は休みだ。俺達は私室に居るから、俺達の目を気にすることなく全力で楽しむこと。以上!」


 使用人達から歓声が上がり、ジョヴァンニが眉根に皺を寄せつつ溜息をついていた。自他共に厳しい彼からすると、こういう場でもドラグハート家の使用人として弁えた上品さを求めたいのだろう。しかしこの宴に関してはリラックスして楽しむことに重きを置くよう、口煩くしないようにと伝えていたため、ぐっと飲み込んでくれていた。ジョヴァンニにはそれがストレスになるかもしれないが、どうか彼にも楽しんで欲しいと願った。



◆◆◆◆



 使用人達に宴を任せると、3人はそれぞれ湯に浸かって疲労と緊張を解し、ユイエの私室に集合した。


「今日はお疲れ様。ようやく落ち着けたね」


 部屋主のユイエが2人を迎えると、2人からも口々に労いの言葉が出てくる。


「ユイエ君もお疲れ様。ちゃんと格好良く振る舞えていたよ」

「ですね。私のお色直しにもしっかりお声を頂けましたし、大満足でした」

「感想はあれで大丈夫だった?自分の語彙力の乏しさに呆れられていないかと冷や冷やしていたんだけど」

「気持ちを込めて下さっていたので、文句なんてありませんよ?」


 カミュラの言葉にユイエの頬が緩んだ。


「さて、ユイエ君。今日最後のお役目の時間だよ?」


 アーデルフィアがにまにました笑顔でユイエに声を掛けた。


「“練習”の成果、いよいよですね!」


 カミュラが顎の下あたりで両拳を握り、むんと気合をいれていた。


「あ~……。うん、そうだね……。どうしようか?初めてなんだし、カミュラと2人だけでシテみる?」


 可愛らしく気合を入れているカミュラに、ユイエはとりあえず確認をとる。


「2人だけで……。悩みますね。アーデ様と一緒の方が心強いですが、初めてを2人だけでというのもとても魅力的です」


「それじゃ、最初はカミュラと2人きりで。タイミングを見計らって後から私も部屋に来ようか?」


「!はい、それでお願いします!」


 カミュラはアーデルフィアの案に飛びついた。


「了解だよ。それじゃ、ユイエ君はカミュラ様をよろしくね?」


「あぁ、分かった。それじゃぁまた後で」

「うん、また後で」


 アーデルフィアが退室したところで、ユイエとカミュラは改めて顔を見詰め合うと口付けを交わした。




 翌日、3人は昼頃にようやく起床し、お互い照れ笑いしながら一緒に浴室に向かうのだった。




 本作、「顔の良い変人公女に救われたら人間やめていた件」ですが、一旦ここで完結とさせて頂きたいとおもいます。


 続きを書きたくなるだけの応援がいただければ。その時は……。


 ここまでお付き合いいただきました皆様に感謝を。


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