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第5章 第8話 皇城で打ち合わせ

 ドラグハート家の家紋入りの魔馬車は順調に進んだ。見慣れた深堀にぐるりと囲われた城壁。市街から大通りを真っ直ぐ進んでくると、皇城の南門へと辿り着く。整理された街区と大通りだけで皇城まで辿り着ける街の構造は、平和な時代を感じさせる。

 事実、この300年余りは皇都まで戦火が及んだことが無く、最後の城塞としての機能より日常的な利便性が求められてきた結果である。


 入門時に衛兵から馬車と乗車する者の検めが入り、乗車する3名の姿を確認すると直ぐに門を通された。ドラグハート家の家紋入りの馬車でユイエとアーデルフィア、カミュラの3名が登城してくる事は周知されていたらしい。


 ロータリーで下車した3名はそのまま入場し、入口で待機していた騎士の案内で奥の間の応接室に通された。ミヒャエル・ウル・レーヴェンハイト皇王やエドワード・フォン・リカインド宰相らと面会する際に通される何時もの部屋である。


「陛下と宰相閣下をお連れしますので、しばらくお待ちください」


 案内してくれた騎士に礼を言い、部屋付きの侍女が香草茶を用意してくれているのを眺める。


「今回の呼び出しは、婚約発表した件と結婚式の祭事や披露宴についての段取りと打ち合わせだよね?」


 ユイエがカミュラに向いて確認をとる。


「そうですね。リヴィオラ様から聞く限りではその予定です。祭事なので仕切り役に祭事官が同行して来るかと思います」


「祭事官……?あぁ、アーデと結婚する時も仕切り役してくれていた女性がいたね。彼女が祭事官だったのかな?」


「多分その人。男は衣装の着替えも少ないかもだけど、女子はお色直しとか色々と大変だから……。最後までお世話になってた覚えがあるよ」


 アーデルフィアもカミュラに続いて頷いていた。



 香草茶をいただきながらしばらく待つと、部屋の扉がノックされた。


「陛下と宰相閣下をお連れしました」


 扉の外から声が掛かり、ユイエ達はソファから立ち上がって扉に身体を向ける。部屋付きの侍女が一礼して扉を開け、案内の騎士が3名の男女を引き連れて入室してきた。

 予想通り、ミヒャエル陛下とエドワード宰相、そして何となく見覚えのある女性が同行している。


 予想通りであることを確認し、ユイエ達3名はミヒャエルに頭を下げて控える。


「よい、面を上げて座ってくれ」


 ミヒャエル陛下の許しを確認して顔を上げると、エドワード宰相とミヒャエル陛下が機嫌良さそうに握手を求めてきた。


「久しぶりだな?3人とも元気そうで何よりだ」


 ミヒャエルに肩を叩かれ、ユイエは微笑を浮かべる。


「陛下が文官女子隊を回して下さったお陰で、何とか領主の真似事ができています。その節はありがとうございました」


「うむ、彼女達も王宮で下働きからはじめるより、余程やり甲斐もあることだろう。あぁ、もし業務内容の転向を希望する者がいれば、できれば応えてやってほしい」


「わかりました。領都に戻った時には皆に聞いてみます」


「うむ、頼んだ。カミュラもドラグハート家に馴染めているらしいな?」


 ミヒャエル陛下がカミュラに振り向いて問う。その目は優しく、悪戯を許容する大人の表情をみせている。


「はい、お父様。文官の仕事はサリエラとアマイエを中心にして回せるようになりましたので、私はドラグハート家の嫁らしく日々武力の向上に励んでおります」


「ははは……。ドラグハート家の嫁に武力を求めているつもりは無いのですが……。ともあれ、カミュラ殿下は武才に恵まれていて、日々実力を伸ばされていますよ」


 ユイエは苦笑いしつつカミュラをみやった。カミュラはユイエの言葉に反論するような語調で応える。


「ドラグハート家に取り入ろうという動きは多いのですよ?血縁の若い女性を紹介するような手紙がどれだけ来ているのかはご存知でしょう?嫁入りの難易度を高く提示しておけば、有象無象の縁談の予防になりますよ?」


 カミュラは澄まし顔でユイエに顔を向けて見解を述べた。ドラグハート夫妻と訓練に励むカミュラ皇女殿下の姿はよく知れ渡っている。カミュラがわざと流している、「ドラグハート家の婚姻には武力が求められる」という噂に信憑性を与えていた。


「縁談の予防は後付けの思いつきじゃないですか」


 アーデルフィアが澄まし顔のカミュラにジト目でチクリと刺す。


「後付けであろうと、実際に牽制になっているのだから良いのです。武力以外の能力で側室に欲しい人材が見つかったら、その時に検討しましょう?」


 そんなドラグハート夫妻とカミュラの親し気な様子を眺め、目元を緩めるミヒャエルとエドワードだった。


「ではそろそろ本題といこうか。明日からの登城予定と衣装の発注と仕立てのスケジュール、それに祭事と披露宴の構成、やる事と覚える事は多々あるからな?」


「はい。アーデとの結婚で経験はありますので、凡そは分かると思いますが……。皇家との結婚となると、公女の時とはまた格式が違うんでしょうね?」


「そうだな。皇女の嫁入りとなれば同盟国からの来賓もある。カミュラに何度も求婚していた西の隣国の王子とかな」


 ミヒャエルが嫌そうにそう言うと、ユイエも思わず苦笑いする。


「それは……。面倒そうですね?下手したら国際問題になりそうな……」


「公の場で恥の上塗りになるような事はしてこないとは思うが、対策はエドワードと練っておくように」


「あ、はい。エドワード閣下、よろしくお願いします」

「あぁ、よろしく頼むよ」


 その後、大雑把な今後の進行についてはエドワード宰相から説明が行われ、認識合わせが出来た後はミヒャエルとエドワードは退室し、その後を侍女の案内で別室に移動して仕立屋との打ち合わせが行われた。


 身体の採寸、生地やデザイン、ボタンの材質など、詳細を指定して発注する。


 ユイエの分は祭事用に新しく1着を仕立てて、披露宴ではアーデルフィアとの式の時に仕立てた既存の1着を再び着回す予定である。

 ユイエの新しい1着についてはカミュラが細かく注文したいらしく、ユイエは採寸されるだけで詳細の決定権はもらえなかった。

 アーデルフィアとの結婚の時も同様だったため、そんなものかと思いユイエも反対はせずカミュラにお任せで納得していた。


 ユイエに新しく1着、カミュラにお色直し含めて5着、アーデルフィアも参列用の1着の追加発注を決め、準備開始の初日が終わった。


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