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第4章 第11話 勘違いでしたでは終われない

 カミュラがフィロネの淹れた鎮静効果のある香草茶を飲んで落ち着くのを待っていると、カミュラが自分自身に【治癒】と【清浄】の魔法を掛け、取り乱した痕跡を消して居住まいを正した。


「取り乱してすみませんでした。改めて、アーデルフィア様にお礼申し上げます」


「あくまで私にとって譲れない一線を飲んでくれて、ユイエ君自身もカミュラ皇女殿下を受け入れる意思を持ったら、の話ですよ。そこまで畏まる必要はございません」


「えぇ、それで構いません。私はユイエ様を尊敬しておりますし、多分世の男性の中では1番好き、なのかも知れませんが……。私が憧れたのは、あくまでアーデルフィア様とユイエ様のご関係性ですから」


「ん?」


 ここまできて、アーデルフィアは漸く自身の勘違いに気付きはじめた。


「(あれ?この子、ひょっとしてユイエ×アーデルフィアのカップリングオタクなのでは?)」


 気付いてしまえば早かった。


「(う、迂闊な取引した!!これ厄介オタクをその気にさせてしまっただけでは?!)」


 アーデルフィアは震える指先でティーカップを傾け飲み干すと、鎮静効果のある香草茶のお替わりをフィロネに頼んだ。



「ま、まぁとりあえず。ユイエ君には文官女子隊に無節操に手を出さないようにとは注意していますので、大丈夫だろうとは思いますが……。他の文官女子達からの誘惑も控えるようにと周知徹底しておいてもらえると助かります」


「はい、畏まりました」


◆◆◆◆


 ユイエが執務室で書類の処理をしていると、アーデルフィアが入室して来た。


「ユイえもん、助けて~!」

「?名前の後に“もん”付けたら助けて貰えるとおもってるの?」

「おもってるよ!末尾に“えもん”が付いたら便利なお助けキャラになる伝統文化だよ!」

「そんな伝統は知らない。どこの文化だよ」

「異世界の日本っていう国の伝統文化なんだよ!」

「アーデってたまに壊れるよね?壊れたら頭叩けば元に戻るんだっけ?」

 ユイエが、泣きついてきたアーデルフィアの頭に手刀を落とす。

「あぅ」

「大丈夫?もっと叩く?」

「結構です。優しくしてください」

 唇を突き出して不満顔アピールするアーデルフィアに、ユイエは思わず苦笑する。


「で、どうしたの?皇女殿下となんかあった?」

「あった。ていうかやらかした、かも」

「真面目な話?部屋、変えて聞く?」

「んー。この部屋のソファで良いかな?」


ユイエとアーデルフィアは執務室のソファに移動すると、アーデルフィアはユイエの隣に座って身体を預けてきた。


「えーとね、どういう意図と目論みで今回の文官女子隊が送り込まれたのかとか、カミュラ皇女殿下はどういうつもりなのか、とか?まぁそういう女子同士の話し合いで色々と確認していたのよ」

「うん、それで?」


「えーと、1つ目は皇室と宰相からの配慮として支援する事と、他所からドラグハート家に毒虫の入る隙間を潰したかったといった政治の話」

「うん」


 指を立てて数えながら話すアーデルフィアに相槌を打つ。


「2つ目は、皇室と宰相からのフォローというか配慮の話。元々貴族の身分をほったらかして探索者シーカー生活に進路を決めてたようなものじゃない?それを騙し打ちみたいにして貴族化した上に領地開拓と経営まで擦り付けた事の負い目があるから、政治経済に社交界、領地経営なんかの私達の不得意分野を支援して罪滅ぼししたかった、みたいな話」

「なるほど?」


「3つ目はカミュラ様の事情、かな?魔力炉融解症の治癒や魔境から持ち帰った黒種のドラゴンの事もそうだし、東部辺境戦線への介入と打開した事とかも含めて、私達に憧れて傍で力になりたくなった、みたいな話」

「それは、ちょっとこそばゆいね」


「それでね、4つ目がやらかしちゃったな~っていう話に繋がるんだけど、私達と友達になりたい、仲良くしたいっていう話だったんだ。そこにフィロネさんが茶々を入れきて、姫様はそれだけで良いんですか?って」


「うん?」


「で、フィロネさんも混ざって話す中で、姫様は傍にいるだけじゃなくて一緒に居たいのでは?それは思慕の情では?っていう指摘が刺さったみたいで、それから段々姫様もそんな気がして来たのかそうでありたいと言い始めてね?」


「えーと?まぁ、そういう話だよね?皇女殿下の立場として側室に納まるのも体面が悪いから、正室の座を渡せって言われたの?絶対嫌だよ。正室はアーデ以外絶対駄目」


「うん、ありがとう。私もユイエ君の1番だけは絶対譲れないって言ってやったの」

「それで喧嘩になった?」

「いや、それがね……。じゃあ側室で良いですって言い始めて」

「えぇ……?

 ユイエの顔には困惑しかない。


「うん、現実的じゃないと思うけど、それで良いなら後はユイエ君の意思次第かなって思って。友達になって仲良くなりましょうって話の流れになったんだけどさ?」

「うん」

「なんかね、その後聞いてると思ってたのと違う感情っぽいんだよね……」

「というと?」

「カミュラ様は私とユイエ君の関係性をひっくるめて憧れてるって言ってたのよ。う~ん、伝わるかな?私とユイエ君のカップリングを推してる、応援している、見守りたい、そういう視点っぽいんだよね」

「?つまり?」

「傍で私達を見守りたいだけだったかもしれないカミュラ様が、下手打って側室候補になっちゃった」

 アーデルフィアががくりと項垂れて答えた。


「見守りたいだけって……う~ん……。例えばサイラスとメイヴィルが付き合いはじめた、ってなったら思わず応援したくなると思うんだけど、そういう感情だったのを拗らせてきちゃったと?」

「うん。だから最初のやらかした、かもってに繋がる訳です、はい」


「う~ん。要するにアーデの自爆?まぁ、私の意思も尊重してもらえるって事ならなんとか……。穏便に勘違いだと気付いてもらって、終わりにしたい、かなぁ」


 ユイエが天井を見上げて着地点を検討していると、アーデルフィアがユイエを見上げて言う。


「勘違いからはじまっても本物になっちゃうものだってあるのだよ、ユイエ君」

「え、なにそれ女の勘?」

「そうともいう」

「参ったな、絶対揉めるやつじゃん」


  眉間に皺を寄せるユイエ。それを見上げていたアーデルフィアがその眉間の皺を指先で揉み解す。

「まぁ、悪い事ばかりじゃない、とは思うよ?カミュラ様美人だし、私達の弱点の政治経済に領地運営とかのお仕事を安心して任せられると思えば……」

「損得で決めようと考えるの、貴族に染まった感じでちょっと嫌だな」

「う……。ごめん」


「まぁ、とりあえずは第一印象的にって意味でアーデのお眼鏡には適ったという事だよね?」

「うん、話してみた感じだと良い娘っぽかったかな?」

「じゃあ、後は私との相性の問題と、皇室の子を側室にするなんて暴挙をどう通すのかって話か」

「そうだね。正室だけは譲れないし譲らないけど、側室として一緒にユイエ君を支える仲間としてなら受け入れられる、かな。私の時間が減っちゃうのはちょっと寂しいけど。でも私が上位耳長族ハイ・エルフな時点で遅かれ早かれだっただろうし」

「種族的な特徴で子宝に恵まれにくいって話?義父様の子沢山を見てきた身としては実感ないけど」

「あははは……」

 リオンゲートの場合は、その分側室が多く、それぞれの妻との子供の数自体は少ないのだが、神樹の森での話なので、ユイエには詳しい事情は分からなかった。


「あぁ、そうだ。その内カミュラ様とユイエ君に話しておかないとマズい事があるから、また今度どこかのタイミングで時間もらうね?」

「そういえばそういう話もしてたね。重要な事なんでしょ?機を見て言ってくれれば時間つくるよ」

「ありがと。その時はよろしくね」


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