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第4章 第10話 譲れないもの

 文官女子軍団を受け入れた翌日。


 魔馬車団と護衛の皇国騎士団は朝のうちに出発していった。アディーレの城壁内では急ピッチで文官女子軍の仮設ではない集合住宅の建築が進んでいる。元々騎士団用に作業を進めていたため、その割当先を変更する事になった。


 騎士団の皆には悪いが、しばらく仮設で我慢してもらいたい。



 文官女子達は基本的に皇国カグツチ学園の卒業生ばかりで、年の頃は卒業したばかりの子から20代後半まで幅広くやってきている。


 皇立カグツチ学園を卒業出来ているという事で高水準の平均能力が期待できる。その上、高水準の顔の良さで篩に掛けられたのかな?という程に容姿に恵まれた独り身の女子軍団だ。

 大抵はどこかしらの貴族の娘さん達なので、彼女達を守れる環境作りは最優先事項であった。


 しかし容姿の整った女子が未婚のままで20代後半になっているのは、何かしらの原因がある可能性が高い。例えば性格に難があるとか、男嫌いの同性愛者の場合など、考えればキリがない。

 もちろん、既婚者だったが死別した者、離縁した者なども混ざっているだろう。


 ユイエとしては、女性のどこにあるか分からない逆鱗に触れぬ様、細心の注意を払ったつもりだった。



 先ず、城壁内に専用の集合住宅を建てて宿舎とし、希望者には城壁外から通えるように、城壁外の宿舎も提供した。

 城壁内の宿舎に関しては24時間シフトを組んだ女性騎士が詰め、不届き者を侵入させないように警備体制が用意された。


 宿舎の1階には大食堂が用意されており、朝、昼、夜と食堂を利用できる様にもしている。未開の田舎町としか考えていなかった文官女子達は、ユイエ達の用意した受け入れ体制が殊の外好待遇で、好意的な意見が多く聞こえた。



「なんとか無事に受け入れできた、かな?」

「そうね。想定外の増員だったから騎士団に割り当て予定だった建物を取り上げちゃったのはちょっと可哀想だったけど」

「執務室の割り当てとか配属先とか、これからなんですけどね?まぁ何とか頑張りますよ?先ずは名簿作りからですかね」


 ユイエの安堵の台詞にアーデルフィアは騎士団に同情し、イクシスはこれから自分がやる仕事を思って憂鬱になっていた。


「あら、こちらにいらっしゃっていたのですね?」


 女子宿舎から出てきたのはカミュラ皇女殿下と侍女のフィロネであった。


「カミュラ皇女殿下。昨日の今日で何とか受け入れ体制も形になったかな?という話をしていました」

 カミュラに気付いたユイエが姿勢を正してどんな話をしていたのかを説明した。


「急な対応であったでしょうに、こうも早く体制を用意して頂けた事、感謝しております。部下達にも予想外に快適な宿舎であると聞いてきたところでした」

「そう言って頂けると幸いです。工事に携わった者達も喜ぶと思います」

 ユイエはカミュラからの言葉を素直に喜び、鉱山族ドワーフや工兵科、家具や建築の職人達にも伝えてやりたいと微笑んだ。


「ユイエ様、イクシス様?この後アーデルフィア様のお時間を頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」

 カミュラがイクシスと話をするなら政務等の文官の現況確認かと思えるのだが、イクシスではなくアーデルフィアを指名だったため予想外の選択に目を瞬いた。


「それは、はい。アーデが大丈夫なら……」

 ユイエがアーデルフィアに顔を向け意向を伺う。

「では、城の応接室にでも参りましょうか?」

 アーデルフィアも特に嫌がる素振りはみせず、場所を変えようと提案する。

「そうですね……。もう少し砕けた感じでお話をさせてもらいたいので、私に割り当てられた客間のリビングではいかがでしょうか?」

「畏まりました。それでは御一緒させていただきます」


 アーデルフィアはユイエに振り返ると手を振って笑い、カミュラとフィロネを伴って城へと向かって行った。


◆◆◆◆


 カミュラが使用している客間を訪問すると、フィロネがいそいそと香草茶の用意をはじめた。カミュラはフィロネに礼を言いつつ、すぐにアーデルフィアの方に向き直り居住まいを正した。


「先ずはこのお誘いに応じて頂けたこと、感謝します」

「殿下、頭を上げてください」


 カミュラはアーデルフィアの口調に刺々しい物を感じなかった事に内心ほっと一息吐き、頭をあげた。


「私だけをお誘い頂いた事からご用件は凡そ悟っているつもりではございますが……。まずは殿下のお話から聞かせていただけますか?」

「そうですね、その方がお互い早いですね」

 アーデルフィアの問いかけに一つ頷いて答えた。


「アーデルフィア様。今回の文官女子隊を企画して実行に移したのは私が陛下に進言した事から端を発しております」


 カミュラが一旦区切り、アーデルフィアの様子を窺いつつ続ける。カミュラが指を1本立てて言う。


「目的は複数ございます。1つ目はレーヴェンハイト家の者としての務め。今後の皇国にとって必ずや要石となっていくであろうドラグハート家と皇室の結びつきを強め、毒虫の入る隙間を潰してしまいたかったという事」


 カミュラが2本目の指を立て、続ける。


「2つ目が、レーヴェンハイト家の者としての罪滅ぼし。ドラグハート夫妻は元々貴族としての生活より、探索者シーカーとしての自由な生活を選びたかったのでしょう?そこを国益のためにと騙し打ちの様な真似で曲げさせてしまったのは、陛下や宰相の我儘です。レーヴェンハイトの者として恩に仇で返すだけでは、いずれドラグハート夫妻に見放されるでしょう。ならばせめて、ドラグハート夫妻が不得手とされておられる社交、政治の面で支えられる立ち場所に立ちたいと考えました」


 カミュラが3本目の指を立て、続ける。


「3つ目は、ただのカミュラとしての思いです命を救って頂いた事、皇城前の広場の黒種のドラゴンを打倒してみせ、東部戦線では反撃の狼煙として見事に戦線を押し返した最大の立役者。そんなお二人の英雄の器への憧れです。傍で観ていたい、そう思ったのです」


 カミュラが4本目の指を立てたが、言い辛そうに口元をもごもごさせている。朱の差した困り顔でアーデルフィアに向けて声に出したのは、自信の無さそうな言葉だった。


「4つ目は、まだ私自身にも分かって居ないのですが、お二人と仲良くしたい、のだと思います。簡単に言うなら友達になりたい……という事なのだと思います」


 そこでフィロネが差し出口を挟んだ。


「姫様は友達と申しておりますが、未自覚の恋慕が一番近いかと」

「フィ、フィロネ!」

「姫様。言葉を濁されるとお気持ちが伝わりませんよ?勇気を出してください」


 自分の専属侍女に窘められ、余計に紅潮した顔で眉尻の下がった困り顔を浮かべながらアーデルフィアの様子を窺っている。


「フィロネさんの言葉から察すると殿下がユイエ君に初恋中という事ですか?」


「そこが困りどころの様なのですが、どうも姫様はユイエ様とアーデルフィア様の関係性をとても尊い物としてみているようでして。その景色の中に姫様自身も混ざりたいという想いが溢れてこんなポンコツムーブになっているのです」


「フィロネ、ポンコツとはなんですか!言い過ぎではありませんか!?」


「では姫様、想像してみて下さい。1つは恩義からお二方を社交、政治の面で支え、傍で見守るだけで自分の気持ちに蓋をする自分。もう1つは、お二方に混ざって同じ立ち位置で共に過ごし、気持ちを前面に出せる自分。さぁどうでしょうか?」


 フィロネの言葉に視線を彷徨わせ、挙げていた指も下ろし、耳の先まで真っ赤になりながら言葉を何とか振り絞る。


「……それはズルいですよ、フィロネ。そんな言い方されたら、誰だって後者を選ぶじゃないですか」


 申し訳なさそうな困り顔でアーデルフィアをみるカミュラに、アーデルフィアが指を1本だけ立てて返した。


「1つだけ。絶対に譲れないものがあります。ユイエ君の1番。正室の座は絶対に、何が何でも譲れません。それでも良いですか?」


「それは、その、側室ならお二人と一緒に居ても良い、という事でしょうか?」


 カミュラが恐る恐るといった様子でアーデルフィアに問う。


「皇女殿下が側室では体裁が悪いにも程がありますので、現実的ではないと思いますよ?それに、私が許したとしても、ユイエ君が受け入れられるかはまた別ですからね?」


「良かったですね、姫様。希望がつながったじゃないですか?」


「ありが、とう、ございます」


 カミュラはフィロネの差し出したハンカチを受け取り、目元を拭いながらアーデルフィアに感謝の言葉を紡いだ。


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