第4章 第8話 皇都にお呼ばれ
召喚状が届いてから三日後、魔馬車で着いた皇都は、久しぶりにみる本物の都会である。
アディーエを含めサテライト1とサテライト2も立派な防壁は皇都以上であるし、都市インフラの出来だって決して負けてはいない。
そこで暮らす人々も、今まさに自分達で街を作っているという自負と活気は中々のモノである。
しかし、発展途上の樹海の魔境領では、上物となる建築物の密度も歴史も全く歯が立たない。
馬車の中から眺める皇都を眺めていると、樹海の魔境では娯楽や嗜好品に関する店が少ない事に気付いた。
「こうして観ていると、うちの領都にはもうちょっと酒場とか食事処、それに歓楽街的な物も必要なんじゃないかとか思うね?」
ユイエが皇都の活気に触れながらそう言うと、アーデルフィアも同意する。
「治安の問題も増えちゃうとは思うけど、しっかり管理された歓楽街は必要ね。娼館とか需要に対して店舗が少ないって苦情も来てたし」
「娼館かぁ……。後にも先にも縁は無さそうだけど、発散する場は確かに必要だろうね?ねぇイクシス君」
ユイエに差し向けられてサッと顔を背けるイクシス君は
「その手の話題はとてもデリケートです。上司とはいえハラスメントに該当しますよ?」
馬車の外を観ながら出来るだけ平静を保ったイクシスの苦情を受け、ユイエが悪い顔でニヤニヤとイクシスを眺める。
「何ですか。プライベートまで踏み込むのは止めませんか?その妻帯者の余裕ぶった綺麗な面に一発ぶちこんでやりたくなるんですけど?」
これ以上いじると後で復讐されそうなので居住まいを正して謝っておく。
「ごめんて。その手の話題は控えるから機嫌直して?」
それから馬車を降りるまで、イクシスは口を開いてくれなかった。機嫌を損ねると面倒な奴だと言う事が露見した一幕であった。
皇城に直接は向かわず、先ずは皇都の屋敷に寄る。
屋敷の面々と話をする。最近の皇都での話題や事件など、皇都に住んでるからこそ知っている話というのを事前に仕入れて行くためである。
以前は着替えて向かう事もあったが、今はジェスタ大公が作ってくれた騎士服が普段着兼正装として汎用性が高く大変重宝している。
使用人達としばし会話して情報を入手すると、再び魔馬車に乗って皇城へと登城した。今回はユイエとアーデルフィアの他、イクシスも連れて行く。開発状況など聞かれた時に最適な回答をしてもらう予定である。
成人して独立した貴族家となったユイエとアーデルフィアには、以前のようにアズライール伯爵やウェッジウルヴズ大公が同席する事はなくなった。今回も二人とイクシスの3名での登城である。
待合室で待機している間に、イクシスだけは更衣室で着替えをして戻ってきた。
「お待たせしました。私も何か正装になりそうな着替えを持ち歩くようにした方が良いですかね」
「仕立てるなら皇都に居る内に屋敷に仕立屋を呼ぼうか?」
「……そうですね、そうして頂けると助かります」
合流してしばらく待つと、近衛騎士が迎えにやってきた。
「ドラグハート魔境伯御一行様、時間となりましたので謁見の間までお願いします」
3人はソファから立ち上がると、案内の近衛騎士に着いて移動する。謁見の間の重厚な扉をノッカーで叩くと一拍溜めてから
「ドラグハート魔境伯、御一行様をお連れいたしました!」
と、声を張り上げた。
謁見の間の扉が開かれると近衛騎士は扉の横で畏まり、一行が通り過ぎるのを待つ。通り過ぎると黙って扉を閉めた。
見慣れてきた赤絨毯の向こう、玉座のある一段段差のある位置から2メル程離れたところで足を止めると、片膝を着いて臣下の礼をとる。
「面をあげよ」
ミヒャエル陛下からのお声がけに礼をしてから頭を上げ、視線は陛下の足元へと合わせる。
次にリカインド宰相が口を開いた。
「ユイエ・フォン・ドラグハート並びにアーデルフィア・ドラグハート。東方辺境戦線への戦略物資の輸送およびクロイツェン帝国の翼竜兵を叩き、見事東方辺境伯プロテイオス家が失地を奪い返す反撃の狼煙と成った事を表し、神鉄鋼剣翼勲章を授与する」
「「ハッ!ありがたき幸せでございます!」」
「また、辺境伯からの感謝の言葉を預かっている。こちらの書状を後程受け取るように」
「「ハッ!」」
「ドラグハート夫妻ならびにイクシス・ワトソンに問う。領地運営に関し政務官をはじめ文官は足りておるか?」
「……いえ、正直に申し上げますと、人手不足の一言に尽きます」
ユイエがリカインド宰相の問いに応えると、アーデルフィアとイクシスもそれに首肯して同意見である事を
「で、あるか」
ミヒャエル皇王が重々しく口を開き頷くと、エドワードに視線を向けた。エドワード・フォン・リカインド宰相はその視線を受けると一礼し、口を開く」
「では、これまでの功績を讃え、皇室より文官の増員50名をを約束しよう」
「「「ッ!?(ご、ごじゅうにん!?マジか、ありがたい!!)」」」
片膝を着く3人の肩がピクリと動き、思わず再度頭を下げ礼を述べる。
「ハッ!我が領地の経営にまでご配慮いただきまして、誠に感謝が尽きません。ありがたく受け入れさせて頂きたいと思います」
代表してユイエが返答する。
「うむ。言質はとった。カミュラ、行ってくるが良い」
「(言質?何か失言しただろうか?それにカミュラ皇女とは……)」
「はい、陛下。カミュラ以下50名、文官のお役目を承りましてございます」
「「「(え?カミュラ皇女殿下が直接来るって事??)」」」
それ以外に解釈のしようがない会話の流れなのだが、想定外過ぎて上手く呑み込めなかった。
謁見が終わると通された応接室で、ミヒャエル陛下、カミュラ皇女殿下、エドワード宰相の3名と話し合いの時間となった。
「まぁ、つまりだ。カミュラがカミュラの息の掛かった20代までの文官女子達を引き連れて、≪樹海の魔境う≫領へと出向、協力するというだけの話だ」
ミヒャエルは気軽そうに言うが、「文官女子」と口にした。カミュラ率いる文官女子50名がアディーエにやってくるとなると、城の地獄のような執務の場も華やぐ事は確実である。
「イクシスも顔に疲労の跡が色濃い。人手が欲しかったのは事実であろう?」
「はぁ、確かにその通りなのですが……」
叔父のエドワードの真意を計り切れず、イクシスも首を傾げている。
その中で唯一状況と狙いまで悟ったアーデルフィアがカミュラ皇女殿下に問う。
「つまり、ドラグハート家の有効性を確認した以上、早くもお世継ぎ問題がきな臭くなり始めた。諸貴族の今後の動きを牽制する意味も込めて、カミュラ皇女殿下とその配下で蟲の入る隙間も埋めてしまおう、という事ですか」
「有体に言えばその通りでございます。更に奥までをお話しするのであれば、アーデルフィア様と友誼を深められ認められる者が居りましたら、側室にでも迎え入れてやって欲しいという思いもあります」
「子宝を授かり難い上位耳長族の私だけでは、ドラグハート家の将来が不安という事ですね」
「話が早くて助かります」
女子二人の会話にギョッとして口を挟めなくなったユイエが視線を彷徨わせる。実に居た堪れない。
「思うところはありますが、私とてウェッジウルヴズ家の娘です。その様な未来も理解できますので、お話をお受けする方針でよろしいかと」
ユイエは隣に座るアーデルフィアの放つ圧に口を開けずにいると、女子同士の話し合いで受け入れ態勢をとる方向で合意されてしまった。
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