第4章 第6話 竜騎兵
ユイエとアーデルフィアが率いる青種の竜騎兵50騎は、ユイエが率いる25騎とアーデルフィアが率いる25騎に別れ、翼竜より上空から索敵しつつ飛び回り、翼竜兵の小隊を見付けるごとランスを構えて突撃し、次々と討ち取っていった。
プロテイオス辺境伯領にまで浸透していた翼竜兵は10騎1小隊で活動しており、竜の気配を感じてパニックを起こす翼竜兵を各個撃破していった。
その戦いぶりははすさまじく、普段のキュアキュア鳴いている小動物感溢れる巨体からは想像できない程に苛烈で、四肢の鉤爪で翼や首を引き裂き、喉笛を噛み千切り、次々と翼竜達を屠っていく。青種に騎乗する騎士達もランスを構えて突撃し、翼竜の乗り手や翼竜を刺し、穿ち、確実に数を減らしていった。
プロテイオス辺境伯の領地まで浸透していた100騎近い翼竜兵団の駆逐を終えると、次は帝国領土側の前線に侵入し、手当たり次第翼竜兵団を潰して回った。
1週間程は前線に逗留して翼竜兵団が観測される度に出撃し、帝国の航空戦力を粗方潰し終わると、俯瞰視点で戦場を把握されていた故の不利が覆り、プロテイオス家の騎士団が前線を押し返す事に成功した。帝国内の全ての翼竜兵団を潰せた訳ではないが、少なくともこの戦線に投入された翼竜兵は潰し終えたと判断した。
「ドラグハート魔境伯!敵の空の目を潰し終えた事、誠に感謝する!後は我が領の騎士団で国境線と戦線を押し返してみせよう!リオンゲート大公閣下、エドワード宰相閣下にも此度のドラグハート魔境伯の活躍はしっかり報告させてもらおう!再度翼竜兵団が投入され我が軍が不利に陥る事があれば、その時は再び力を貸してもらいたい!」
「プロテイオス辺境伯閣下。今回は何とか上手くいきましたが、この竜達は本来、飼い馴らした物ではなく野生の魔物なのです。たまたま友誼があり、協力してくれたに過ぎません。そのため次の要請の時にも応えられるとは限りませんので、そこのところはどうかご承知おきください」
「なんと、野生なのか?!とてもそうは思えん程に懐いているではないか……」
ザヴァスと真面目な話をしていると後ろから2頭の青種が首を伸ばしてきて、左右から頭を擦りつけてくる。それを真面目な顔で撫で摩ったり、引っ掻いてやったりと、スキンシップに応える。
「えぇ、皇都の黒種の剥製のお話しはご存じですか?」
「あぁ、ドラグハート魔境伯が退治したというあの馬鹿デカいやつだろう?私も見たことがある」
「あれと戦う切欠になったのがこの子達からの応援要請だったのですよ。縄張りを荒らされて避難してきたこの子達に、連れられて倒しに行ったという経緯があったのです」
「なるほど、貸し借りを理解して恩返しをしてくれるとは頭の良い竜達なのだな!」
「そうですね、普段がこんなのなので忘れがちですが、頭は良いみたいです」
2頭が顔に顔を擦りつけようとしてくるのをやんわりと手で制して押し返しつつ答えていると、その様子にザヴァスが噴き出し、大笑いしていた。
◆◆◆◆
ユイエとアーデルフィアが率いた青種の竜部隊は、前線での仕事を終えて第5ベースキャンプ場を目指し飛んで行った。
その頃、クロイツェン帝国のプロテイオス辺境伯家と戦っていた西部征伐軍から、中央に「敵軍に竜に騎乗した騎士団が現れ、我が帝国の翼竜兵団が壊滅した」との報告が届いていた。
その竜騎士団の活躍により勢いを取り戻したプロテイオス辺境伯家の軍が、帝国との戦線を押し返しはじめ、後退を余儀なくされているという。
「……まさか竜部隊を実戦投入してくるとはな。我らが帝国の虎の子たる翼竜兵団でも分が悪い。西部征伐はしばらく様子見に切り替えるしかないか」
西部征伐軍の状況報告を読み終わるとクロイツェン帝国宰相【ヤコブ・フォン・グノーシス】が椅子に深く座り直し、西部征伐軍への伝令内容について思案するのであった。
◆◆◆◆
プロテイオス辺境伯家が押し込まれつつも何とか支えていた東部国境戦線は、ユイエ達の≪魔境伯の竜騎兵隊≫の活躍により息を吹き返した。
プロテイオス辺境伯家は続々と戦線投入されていった竜素材によって強化された戦力で荒らされていた国境線の奪還に成功し、旧国境線であった大河の対岸まで帝国の戦線を押し返し、戦線は膠着状態へと移行した。
現在は互いに大河の往来を監視しあう状態である。
「帝国の翼竜兵という目を奪い、強力な竜素材の装備も基を正せばドラグハート魔境伯の提供があってこそだ。彼にはとてつもない借りが出来てしまったな」
プロテイオス辺境伯が荒らされた前線の復興を陣頭指揮しつつ、遠くに見える大河へと目をやってそう呟いた。
◆◆◆◆
東部方面辺境伯プロテイオス辺境伯の軍がクロイツェン帝国の前線を大河の対岸にまで押し戻した事を確認し、ユイエ達竜騎兵隊は≪樹海の魔境≫北部の青種の縄張りにある第5ベースキャンプ場へと帰還した。
今回力を貸してくれた青種達には、礼として新鮮な巨獣達の焼いた肉を腹一杯喰わせてやると、皆満足そうに尻尾をびったんびったんしていた。
今回の戦争で気付いたのだが、青種達は火炎息吹を使えない。今まで火を吐いている姿を見たことが無かったが、空中戦闘中ですら吐かないとなれば、火炎息吹自体が使えないのであろう。
代わりに、水気と冷気の魔力を操っているのを目撃した。細かな氷片を含んだ高水圧の氷片吐息や、氷槍投射といったところだろうか。
肉を焼いてやると喜ぶのも、どうやら自分達で焼いて食べれない事が原因なのだろう。
黒種の竜の件以外ではユイエ達が一方的に借りを作っていると思っていたのだが、青種は青種なりに焼いた肉が喰える事を喜んでいたと分かって、対等な感覚を得る事が出来た。
鞍などの騎乗具を外してやると、腹の満足したものから順に山脈に帰って行った。何には山脈に帰るのも億劫なのか、その場で丸まって寝ているものもいた。
第5ベースキャンプ場の周辺では青種は最高位の捕食者であるため、他の魔物を気にせず寝れるのかもしれない。
◆◆◆◆
第5ベースキャンプ場で青種達を労った翌朝。
ユイエとアーデルフィア達戦争帰りの班は魔馬車の護衛を務めていた騎士達にも礼を言いつつ、共にアディーエへと帰還していった。
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