第4章 第1話 親睦を深めよう
マインモールド領で長期間拘束されつつも、最終的には大満足の装備を受け取ってアディーエに帰還した。
執事からの報告によると、マインモールド領からの土木建築集団が既に第1ベースキャンプに向かったらしい。鉱山族達の仕事は確実なので、第1ベースキャンプの課題が解決するのも時間の問題だろう。
「第1ベースキャンプ場と第2ベースキャンプ場にちゃんと街の名前を付けないといけないわね」
「第1ベースキャンプ場は【サテライト1《ワン》】、第2ベースキャンプ場は【サテライト2《ツー》】、で良いんじゃない?」
「……名前決めるのは相変わらず下手ね。まぁいいけど」
「じゃあ、それに決定で……」
マインモールド領から鉱山族達によるサテライト1の防壁の増強と街化が終われば、サテライト2も防壁の増強と街化に取り掛かってもらう。
サテライト2までは中堅どころの探索者に護衛してもらえば辿り着けるだろう。
そこまでいけば領都アディーエで街の発展に協力してもらおう。
アディーエ側で受け入れ準備が進み次第、移民の受け入れも再開していく予定である。
「内政回りも住人が増えすぎる前に手を入れないとね。とりあえず戸籍管理くらいはしておかないと」
「コセキ?」
「人頭税って1人当たりの税金でしょ?年齢とか支払い能力の有無とか関係なく」
「そうだね。だから家族の人数の誤魔化しとかで正確な住人の数が分からないとかなるんだっけ」
「そう、税を払えない赤ちゃんが増えたら一家の生活が困難になるとか。単純計算は簡単だけれど虚偽も増えて実態が掴めなくなる訳。そこで戸籍管理をする」
「具体的には?」
「何処に住んでる誰さんの一家の名前、性別、生年月日、生死や健康状態に問題があればそのあたりも記録して、税金の支払いは労働力になる歳になってから始めるとか。逆に、歳や怪我で働けなくなったら税金の支払い義務を手加減してあげられるとか」
「単純な人数計算じゃなくて実態の把握を優先するってこと?」
「簡単にいうとそういうこと。あとは収入の多寡に応じて税金の支払い額を変える。すごく簡単に言うと、持ってる人から多く貰ってもってない人が生活困難者にならないように保護するための情報管理。≪樹海の魔境≫にはスラムは要らないでしょ?」
「まぁ、確かに。全領民の管理か。文官足りなくない?収入額だって虚偽報告通っちゃいそう」
「そうね。全部を一度にやるのは無理だろうから、とりあえず戸籍を管理する。それをどう活かしていくかはその後で考える。というか、文官達に考えてもらう方が良い」
「まぁ、それなら。税の軽い住みやすい領地ってなれば良いかな」
「うん、それは絶対の基準。ユイエ君は重税を課して搾取するような事は考えないと思うけど、かといって税を取らなきゃ領土の運営費用が賄えない。今みたいにユイエ君と私の稼ぎで住民を養い続けるのは無理があるし不健全」
「まぁそうだね。孤児院兼初等教育、農業教育の施設も自弁してる状態だしね」
「あそこは農業が回る様になれば自分達の食い扶持は自分達で稼ぎながら暮らせるようになるとは思うけど。そうなるまでは支えないとね」
「政治は難しいね。何も考えず魔物狩りする方が性に合ってるよ」
「良いのよ、そういうのは適材適所。ユイエ君と私は魔物狩りの御旗で十分。難しい事はイクシス君達に片付けてもらいましょう」
◆◆◆◆
文官達に戸籍管理を説明して準備を任せると、ユイエとアーデルフィアは騎士を30人連れて樹海の北側を目指し移動していた。空間拡張された魔馬の馬車2台でゆったりとできる移動である。
第5ベースキャンプに着き今日の移動はここまでという段階で山から何時もの青種が何匹か飛んできた。
はじめて青種と遭遇したメンバーは思わず身構えていたが、ユイエやアーデルフィア、サイラスとメイヴィルあたりは慣れたもので、擦りつけて来る頭や首筋を掻いてやる。
「キュァァ!キュァァ!」
初見のメンバーでも喉をならして目を細めている青種の姿をみると、懐いている事が分かって緊張感を解いていた。
「事前に話は聞いてましたが、本当に馴れてますね」
「だな。デカい図体なのにペット感覚だ……」
「野生のままペット化ってやっぱ魔境伯夫婦、変わってるわ」
遊びに来た青種達に肉を焼いて食べさせてやると、尻尾をびったんびったんと地面に打ち付けて喜んでいた。
折角なので2頭の青種に鞍をはじめ騎乗用具を付けさせてもらい、跨って鐙で合図を出すとふわりと浮き上がって、上昇しはじめた。
そのまま手綱で進路を変えつつ山脈沿いを飛んでみる。東側へ進むと前はすぐに翼竜や赤種、緑種、黄種あたりが迎撃に出てきていたが、今回は姿を隠しているのか顔を出して来ない。
「今日は竜種が大人しいね」
「うん、居ない訳じゃ無いみたいだけど」
しばらく山脈沿いを散策し、手綱で旋回させると第5ベースキャンプ場に戻って着陸した。
手綱捌きは乗り手が向かって欲しい方角が伝わりやすいのだが、鐙で出す指示はあまり伝わってなかった。低速あるいは滞空、通常飛翔、高速飛翔あたりまで違いを仕込めれば良いのだが、これからの訓練次第だろうか。青種達は基本的に同種でコミュニケーションを取り合っているのである程度賢い生き物なのだろう。黒種の竜の時など、助けを求めに来ていた程だ。慣れれば人間の言葉もある程度覚えてくれそうな下地は感じる。
とりあえずそろそろ陽も落ちるため、騎乗具一式を取り外してやる。
「また明日にでも皆を乗せて飛んでくれ」
「キュルゥックゥッ!」
返事らしき鳴き声を挙げると青種達は山に帰って行った。
「という感じだね」
青種達を見送ったユイエとアーデルフィアが振り返り、同行してきた騎士達に笑顔を向けた。
「背中に乗せてもらえるとは聞いてはいましたけど……」
「青種の竜の迫力も、喉を鳴らして心地よさそうにする姿も、聞くのと見るでは違いますね」
「青種達は地頭は良さそうなんだよね。同種で鳴き声でコミュニケーション取っているし、慣れた人間とそうでない人間の区別もついてるみたいだし」
「うまく仕込めれば人間の言葉での指示にも反応するようになるかもですね」
「うん、そうだね。今のところ鐙での指示がイマイチ伝わらないんだよ。馬に鐙の指示を覚えさせてる調教師とかすごいんだなと思った。竜の騎乗も専門家を育てないと駄目かね?」
「共通の指示で共通の結果を出せるように専門家の協力を得たいところですけど……帝国に翼竜兵の部隊があるらしいですが、その調教が一番近いのかもですね」
「帝国……山脈の向こう側からぐるっと東側で国境を接しているクロイツェン帝国だよね?友好国って訳じゃないし協力を仰ぐとかちょっと無理かな……」
「鐙の指示は、青種の竜の防御力が高すぎて違いが分からないとかかもですね?」
「あぁ……そうか、そういう可能性もあるね。手綱での操作は意図を汲んでくれるのも分かりやすいからかな?」
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