第3章 第10話 ドノヴァン謹製の新防具
二人は家紋入りの魔馬車で第1ベースキャンプ場へと向かった。
第1ベースキャンプ場も探索者ギルドの出張所とアディーエへの不定期便を目当てに人が集まるようになり、ちょっとした宿場町からそれなりの街に成長しつつある。
アディーエに続く2つ目の街として整備する頃合いかもしれない。
第1ベースキャンプ場周辺では現れる魔物も初級レベルで危険度は低いため、最初に作った防壁で十分対応できている。ただ防壁内に入りきらない難民キャンプの様相を呈したテント暮らしの様な者も増えているため、いずれ被害者が出る事が懸念された。
防壁の外で寝泊りさせるのも何かと不安なため、最初の防壁を取り囲むように2つめの防壁で街を拡張する方向で指示を出すことに決めた。その際は、街の周囲に農業エリアを作る想定で大きくまるごと壁内に納めるつもりである。
第1ベースキャンプ場で一晩明かし、第2ベースキャンプ場を経由して領都アディーエに到着した。アディーエの城に戻ると、領内の土木工兵科や土木をやれる鉱山族、その他の土木経験者達の頭数を確認するように指示を出す。
鉱山族達がマインモールド領に戻ったのと同じように、土木工兵科もまた任期が終わって皇都に帰っている。何人かは異動願いを出して戻って来てくれるらしいのだが、皇都で筋を通して承認されるまでにはもう少し時間が掛かるであろう。
分かっていた事ではあるが、第1ベースキャンプ場の工事をはじめるにしても頭数が足りなかった。
「ぐぬぬ」
マインモールド領からの戻り待ちと、不足分は作業の追加発注が必要そうである。
工事関連はすぐに動けないという事が分かったので、次は別の事に着手する。
皇都で作って正式に決定された家紋と紋章を公開し、アディーエの城や外門の入口、ドラグハート家の所持する魔馬車などに家紋を入れて行った。家紋は彼岸花の意匠をくりぬいた金属板をサイズ違いで用意し、テンプレートとして使用できるようにした。試しに既存の正式騎士鎧の肩や胸にテンプレートをおいて上から色付けをしてみたのだが、付与効果の【自動清浄】で綺麗にされてしまい失敗した。
この問題の対策と工事の追加発注など、相談したい事が多く、ドノヴァンに会いにマインモールド領へと向かった。
アディーエから魔馬車で移動すること5日間でマインモールド領に入り、そこから事故防止のためスピードを出し過ぎないようにして領都、【工房都市ダンゲル】に向かった。
ダンゲルに着くと身分証となる家紋と紋章をみせるが新し過ぎて伝わらず、探索者プレートの本人認証でやっと通じて、すぐに貴族用の出入口から通してもらえた。
「おう、ドラグハート魔境伯!また何か相談事か?」
「披露宴ぶりですね、相変わらずお元気そうで何よりです。実は家紋と紋章が決まったので家紋を騎士達の鎧に入れたいのですが、【自動清浄】で綺麗に“汚れ”として取れてしまうため定着に失敗しまして。こういう時の対応についてお知恵をお借りできればと思ってまいりました。他にも工事の発注がしたいとか、相談事があります」
「家紋か。甲冑の上から羽織るサーコートに家紋を入れる、とかじゃ駄目か?」
「【自動清浄】の抜け道がないなら最後はそれかなと思っています」
「ない事はない。簡単なのは金属板かなにかに家紋を刻むか塗るかして、それを鎧に貼り付ける方法。鎧板を貫通させてビス止めする感じだな。【自動修復】されないようにやるには腕が必要だ。面倒な方法だと、工房で一時的に付与効果を停止して家紋を入れ、付与を再発動させる方法だ。これは付与師と工房の合作だから、環境を用意するところからだと大変だぞ?やるとしたら一旦マインモールド領に持って来させて、家紋を描き入れて返すのが確実だな」
話を聞いて静かに悩む。
「サーコートや部隊章みたいな別の物で対応した方が良さそうですね。次にまた装備の制作を頼む時には、家紋入れをして欲しいです。家紋の複製を置いて行くので、何か制作を発注した時には入れてください」
「あぁ、分かった。装備の制作で思い出したが、ドラグハート魔境伯夫婦に新作の装備を作らせてくれねぇか?魔法金属での全身甲冑で、今のより高性能なのを用意するぞ」
「あ、それは嬉しいですね。是非頼みます。インゴット支払いしましょうか?」
「私のもユイエ君とお揃いな感じでお願いします」
「まだ竜素材の借金が残ってるからなぁ、借金からの差し引きでいい。で、工事の発注、だったか?そっちの件はどうする?」
「今1番皇都に近い第1ベースキャンプ場で、防壁から人が溢れて避難民みたいに壁外にテント生活してるようなのが出てきまして。それなら防壁を拡張して農地とかも囲い込んでしまった方が良いかなと思っています。その街としての拡張作業をお願いしたいのが1点と、第2ベースキャンプ場でも同じ工事をして欲しいのが2点目、3点目が領都の街づくりに土木建築に強い鉱山族達をまた貸して欲しいです」
「1個目、2個目は見積り易いが、3個目は期間で区切った派遣で良いか?」
「えぇ、その方が良いですよね。リカインド宰相が出していた仕事の見積り書とかって残ってますか?それを参考に発注書を考えたいのですが」
「おう、持ってこさせよう。食料と酒樽の定期便もはじめから見積りに入れてくれよ?」
「それは勿論。行商も評判良いのでまたお願いしますね」
その後、城の客間に案内され、泊まり込みで2週間程かけて契約までの作業依頼書、見積書、発注書と続き、契約成立まで通すことができた。
ちなみに支払いは竜素材の売却額が相当量残っているため、そこからの差し引きでお願いしてある。とはいえ人件費はそれで良いが資材費用は別途捻出が必要になると思われた。
因みに≪樹海の魔境≫に納品された装備セットに使用した竜素材の余りは、マインモールド領の戦士団の装備を竜素材にアップグレードするのに使われたそうだ。
契約が成立したところでホッとして帰ろうかと思ったのだが、ドノヴァンから待ったが掛かった。
「もうちょっとで甲冑も完成するから、帰るのはその後にしてくれ」
との事であった。
それから“もうちょっと”のはずが更に2週間経過し、その間は城で世話になり続けた。
完成した魔法金属製の全身甲冑は全体的に艶のない黒とチャコールグレーに塗装されて大人しい色合いに纏まっている。その中で胸元には黄金を溶かして描いた彼岸花の家紋が目に映える。こちらの好みのツボをしっかり押さえた流石の出来であった。
≪彼岸花の全身甲冑≫ 2セット
【強度強化】、【魔力伝達率強化】、【氣伝導率強化】、【環境適応】、【自動サイズ調整】、【自動清浄】、【自動修復】、【魔法耐性】、【疲労回復】、【魔力回復】
また、全身甲冑を着る程ではない時の騎士服も用意してくれていた。こちらは竜の皮革材と編み込んだ魔法金属繊維で作られており、服とは思えない強度に仕上がっている。軍服らしい上着はお揃いのデザインで、ユイエの分はズボンとブーツ、アーデルフィアの分はミニスカートにホットパンツ、膝上丈の長靴である。スカートの下にホットパンツを穿いてると分かっていても視線が素肌の太腿に吸い寄せられてしまう、恐ろしい吸引力である。普段使いに大変便利な装備であった。
≪彼岸花の騎士服≫ 2セット
【強度強化】、【魔力伝達率強化】、【氣伝導率強化】、【環境適応】、【自動サイズ調整】、【自動清浄】、【自動修復】、【魔法耐性】、【疲労回復】、【魔力回復】
「予定外に1ヶ月近く拘束されちゃったけど……。これだけ良い物を用意してくれたなら、もう何も文句は言えないわ」
と、アーデルフィアにも大変喜ばれたのであった。
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