第3章 第9話 家紋と紋章
学園を卒業したことで、皇都に用事がない限りは領地に籠れるようになった。
早速皇都から領都に戻ろうとかとも思ったのだが、リカインド宰相からの催促で家紋と紋章を考えねばならなかった。
家紋はこれから代々魔境伯のドラグハート家を示して引き継いでいく紋様で、封蝋に押したりするため簡単な図案化を求められる。アズライール家の馬車や騎士達の装備にも付与し、ドラグハート家に連なる者である事をアピールする紋様となる。
一方、紋章は貴族個人を指し示す物で、戦時の御旗として何処の誰かを見て分かるように図案化を求められる。つまり家紋とは別にユイエ・フォン・ドラグハート個人を示す紋章が求められる。
紋章学は1年生の時に必修の教養科目で学んでいる。武門の家系は剣や弓、楯、槍などの武装を象徴にする事が多く、学閥の家系は本や筆、杖などを象徴に使う事が多い。動物を使う場合、獅子や虎、竜や龍、グリフォンなどが好まれ、家門の歴史的に竜を退治した、等の逸話に絡めた紋章作りがなされるようだ。
また、毛色の違う紋章作りの方法だと、領土に関連する草花を意匠化した物などもある。
「うちの起源を考えれば確実に武門の家だと思われてるよね」
「そうね。皇都でも黒種の竜の剥製の展示の効果で、平民までそう思っているはずよ」
「だよなぁ……。でもさ?魔力炉融解症の治療方法を見付けたアーデの功績も必要だと思うんだ」
「交差する剣に開いた本の図案とか?」
「と思ったんだけど、どこかの貴族家と被ってそうだし幾つか考えておかないとね」
「あ、楯のモチーフも入れた方が良いんじゃない?魔境伯は魔境から国を守る剣であり楯である、というアピールで」
「剣と楯と本?とっ散らかるな」
紙とペンで落書きのような図案をあれこれと並べて書いて行く。そのうちふと本を削って竜の心臓と羽ペンの図案が浮かんだ。
竜の心臓と羽ペンの図案の描かれた楯を前面に出し、後ろに剣を交差させる。楯の上から竜の頭部がのぞく。そんなデザインを作ってみた。
「こんなものかな?」
「うん、良いと思うよ。魔境伯に望まれている役割と、魔力炉融解症の功績もアピールしてあるし」
出来上がった図案をみて二人共それに満足すると、次はドラグハート家の家紋を検討する。
家紋に関しては前から考えていたのか、アーデルフィアがささっと意匠化した彼岸花を描きあげた。
「彼岸花?」
「うん。ドラグハート家に敵対するモノには等しく彼岸送りとなるだろう。ていう感じで。あと私達のパーティ名の≪黒彼岸花≫とも絡めてみた」
「おっかない家紋だね。でも良いんじゃない?この図案もかっこいいよ」
翌日には皇城に登城して家紋と紋章の原案を提出した。後は紋章官が提出された図案をチェックし、丸かぶりする図案がないことを確認すると、図案を清書した物を描き上げて持って来る。この段階までに数日かかるため、一旦皇都の屋敷に戻り、皇城からの連絡を待つ。
3日後、皇城からの呼び出しに応じて向かうと、紋章官から清書された紋章を見せられた。その出来は流石は紋章のプロという感じで、満足できる意匠に仕上がっていた。
家紋の彼岸花は白い背景に黒いインクで描かれていて、さしずめ【≪黒彼岸花≫】といったところだろうか。こちらも大変よい出来で文句なしで採用となった。
「ありがとうございます。この意匠で登録をお願いいたします」
「畏まりました。家紋と紋章の旗章も数点仕立ててご用意いたしますので、もう1週間程お待ちください」
「よろしくお願いします」
皇都の屋敷でのんびりと過ごす事数日。
再び皇城に呼び出され登城すると、出来上がった家紋と紋章の旗章をそれぞれ数点ずつ渡された。軍事行動の際に槍先に付けて所属を表すのに使う、楯型の旗章、謁見の間などに飾る縦長の大型の旗章、城等で掲揚する四角い大型の旗章などが用意されていた。
皇城で仕立てられた物は祭事用として取って置き、紋章官に紹介してもらった家紋や紋章の製作を請け負う仕立屋を紹介してもらい、普段使いするための複製を多数仕立ててもらった。
出来上がった複製の旗を皇都の屋敷にも掲揚したり魔馬者にも家紋を描いたりさせつつ、皇都で家紋と紋章を必要とする箇所に設置し終わると、ようやくアディーエに帰る事になった。
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