第3章 第8話 卒業と結婚式
冬学期の間、領都アディーエから東側へと続く道の開拓が行われる。開拓団の護衛に騎士を派遣し、騎士の配下として探索者達にも護衛に就いてもらっている。
以前と比べてあまり手伝えなかったが、投入されたマンパワーに物を言わせて工事は進んで行った。
星昌歴877年。3月中旬から月末にかけて。
春季休暇の間には開拓団にがっつりと協力し、春学期の内に何とか≪神樹の森≫への道が開拓できた。
途中に挟むベースキャンプ場は普通の馬車で一日の移動距離を目安に道の駅として設置していった。足の速い魔馬車であれば一日に2駅は進めるだろう。
≪神樹の森≫からも道をつなげてもらい、≪神樹の森≫の領都【フォレスターレ】との接続も完了した。≪神樹の森≫の領都にははじめてやってきたのだが、サイラス達がアディーエ周辺の景色を懐かしがるのが分かるくらい巨木エリアが広がっていた。
道の開拓が完了した3月末から、最後の仕上げとなるマインモールド領からの防壁の延長作業が行われた。6月中旬まで行われた防壁、あるいは長城が完成し、これで不意の魔物の氾濫で皇都方面、神樹の森方面に障害なく南下されてしまう事はなくなったと言える。
その長城の堅牢さは巨獣ですら寄せ付けないが、唯一飛行型の魔物の進軍は止める事ができない。弓や石弓、大型のバリスタなどを迎撃武装として備えたが、それだけでは心許ない。
飛行型の魔物が南下する可能性は、それぞれの隣接領に意識してもらう必要があった。
魔境伯としての領地の最低限の整備が完了した。エドワード宰相がマインモールド領へ発注していた作業も6月中旬までの契約だったので、鉱山族達はマインモールド領へと帰って行った。
嬉しい事にマインモールド領から≪樹海の魔境≫へ移り住みたいという希望者達もそれなりに居て、勝手に引き抜く訳には行かないため、ドノヴァン大公に筋を通してもらってから再訪問してくるようにと伝えていた。
増員に次ぐ増員で最後には何とか形になった事で、ユイエ達はほっと一息つくことができた。
星昌歴876年。6月中旬。
アーデルフィアとユイエの2人は何の気兼ねなく卒業式に望み、無事に魔法士科の課程を卒業した。
来賓の挨拶で学園に訪れていたリオンゲート・フォン・ウェッジウルヴズ大公と共連れされたヨハネス・フォン・アズライール伯爵に挨拶し、2人はそれぞれに深く頭を下げて感謝した。
「公爵閣下、伯爵閣下。命を救われて以降、長きに渡り温かく見守り、育てて頂いた御恩。決して忘れません。本当にありがとうございました」
「あぁ、まずは週末の結婚式で幸せそうな様子を見せてもらいたいな」
「孫も楽しみにまっているよ」
◆◆◆◆
星昌歴876年。6月下旬。
週末、新緑の宴などを行う大規模な催事場に併設された式場で結婚式と、催事場では披露宴が行われた。
アーデルフィアがデザインした純白のドレスは、背中が大胆に空き肩まで露出し、ともすれば下品な色気を出してしまいそうな意匠であるが、それを着ているのがアーデルフィアであるというだけで、この上なく清楚で上品な装いとなる清浄な空気感を放っていた。
「……私のお嫁さんが美人過ぎて目が勝手に追いかけちゃうんだけど?」
同じくアーデルフィアのデザインした白い三つ揃えの礼服に身を包んだユイエは、アーデルフィアの衣装に目を奪われていた。
「そういうユイエ君だって純白の礼服、綺麗に着れていてカッコイイわよ?素材が良いと膨張色の白でも締まって見えるものね」
若干頬を紅潮させつつお互いを見詰め合う。進行役の係員の咳払いで我に返ると、式場へと移動をはじめた。
来席者をみると年齢層が高い。同学年の友人、知人といった関係をあまり築いて来なかったため仕方がないのだが、世話になった貴族や開拓団の仲間、使用人達、無茶振りを繰り返したマインモールド領の代表車達も来席者となっていた。
「ユイエ・フォン・ドラグハートはアーデルフィア・ウェッジウルヴズを妻としアーデルフィア・ドラグハートとして迎え入れ、その生涯を共に生きる事を誓いますか?」
「はい、誓います」
「アーデルフィア・ドラグハートはユイエ・フォン・ドラグハートを夫とし、その生涯を共に生きる事を誓いますか?」
「はい、誓います」
「先祖の祖霊と来席者達への宣誓は成された。審理の契約書に署名を」
ユイエとアーデルフィアは審理契約官の差し出した皮革ファイルに挟まれた宣誓書に署名を行う。誓約書に二人の署名が並ぶ。
「ユイエ・フォン・ドラグハート、アーデルフィア・ドラグハートは誓いの口付けを」
向かい合ったユイエとアーデルフィアが照れ笑いを浮かべつつ見つめ合い、ユイエがそっと抱き寄せ、参列者達の前で誓いの口付けを交わした。
審理契約官は皮革ファイルごと宣誓書を高々と掲げ、来席者達へと告げる。
「ここに契約は成された。ユイエ・フォン・ドラグハート、並びにアーデルフィア・ドラグハートの新たな門出を祝福し、盛大なる拍手を!」
式場では割れんばかりの拍手が鳴り響き、ユイエとアーデルフィアは会場に集まった来席者達へと首を垂れ、照れ笑いを隠しきれず笑顔を溢す。
来席者達が拍手で見送る中、二人は腕を組んで式場を後にし、それぞれの控室へと向かった。
それぞれの控室で礼服を着替え、装いを新たにすると次は催事場での宴へと案内されていく。
礼儀だからと言われて用意していた皇室のテーブルも何故か埋まっており、カミュラ皇女殿下が微笑みながら手を振ってくれた。エドワード宰相とミヒャエル陛下もいつになく力が抜けた上機嫌な様子を見せている。少し離れた席ではリオンゲート大公とドノヴァン大公が談笑していたりする。皆に祝福されていると実感できて、殊の外楽しむ事ができた。
身内の席にはアズライール伯爵家の家族達と、ウェッジウルヴズ大公家の家族達も参列していた。
披露宴も終わり参列者達を見送っていると、リカインド宰相が声を掛けてきた。
「そういえばユイエ魔境伯。家紋と紋章の図案はちゃんと進めているのか?伯爵家の実家とは別の家となったのだから、ちゃんと考えねばならんぞ?」
まったく考えていなかった。「何か考えておきます」とだけ答えると肩を叩かれ、優しい目で激励してくれた。
ユイエとアーデルフィアも着替えて皇都の屋敷に帰って来た。使用人達にも改めて祝福された。
感謝の言葉を皆に返し、これからも宜しく頼むと言うと、皆が立礼を返してくれた。
◆◆◆◆
自室に戻るとリビングのソファで香草茶を飲み、2人で今日の事を振り返って談笑していた。ふと会話の途切れたタイミングで香草茶を口に運ぶ。するとアーデルフィアがユイエを見て姿勢を正して言う。
「ユイエ君。私達は成人になり、正式に結婚もしました」
「うん、そうだね。はじめてあった時から11年経ったのかな」
「15歳の誕生日から1年間、いっぱいイチャイチャして“練習”も何度もしてきました」
「う、うん……」
ユイエもアーデルフィアが何を言いたいのかを察して、姿勢を正した。
「1年かけてユイエ君に開発された私はもうとっくに我慢の限界なんですが、そこのところユイエ君はどう思いますか?」
「私だってとっくに限界だ。今までだってどれだけ必死に理性と戦ってきた事か」
「じゃあ、良いですね?」
「あ、はい。お願いします」
2人はソファでキスを交わすと、ユイエがアーデルフィアを横抱きに抱きかかえて寝室へと移動していった。
お互いに1年間焦らされてきただけあり、日々の鍛錬で体力のある2人は朝まで夢中になっていた。明け方にようやく落ち着き、長い初夜が明けて昼まで微睡んだ。
評価、ブックマーク登録、いいね などの応援をお願いします。
モチベーションや継続力に直結しますので、何卒よろしくお願いいたします。




