第3章 第6話 ユイエの成人
収穫祭を終えた12月上旬、領都の見学を終えた使用人達を皇都へと送り届けた。
「皇都と違って田舎だっただろう?街からも出られないしな」
ユイエの言葉にジョヴァンニとリューネ達が曖昧に笑いつつ、フォローを入れてくれた。
「防壁内部だと忘れるくらいに広くて閉塞感とか無かったですし、今まさに作られているんだっていう空気感でしょうか。皆が前向いて生きてる感じは良いなと思いました」
「そうですね。伝統が、歴史が、と言いながら過去ばかりみている皇都とは、空気感が違いましたね。良い刺激になりました」
「そう言って貰えるとうれしいよ。まぁ、そういう感じであっちとこっちを行き来する生活になるので、皇都の屋敷の面倒は皆に任せるぞ?」
「「はい!」」
皇都不在の間、皇都の方で何か動きが無かったかと使用人達に聞いて回ると、皇城前の広場に黒種の竜の剥製が飾られ、一般公開がはじまったという話を訊いた。
「あのような化け物を退治されたのが旦那様と奥方様だと思うと、誇らしくなりました」
皇都留守番組の話に、領都に行ってきたメンバー達が反応する。
「それは是非見に行かねば……」
いつの間にか皇都留守番組の士気も上がっていたようで、お互いのお土産話に花が咲いていた。
◆◆◆◆
屋敷のメンバーからの話は訊けたので、ウェッジウルヴズ大公を訪ねに行ってみたが、こちらは領都に戻っていて不在であった。
翌日の火曜日から金曜日までの3日間は学校に顔を出し、水曜日から木曜日までの4日間を領都アディーエで過ごす。しばらくはその生活リズムで過ごせていた。
「おい、魔境伯と奥方様だ」
「え、うわ~、本物だ」
「黒種の竜の剥製凄かったよな」
「そうそう、あれを同級生がやったとか何の冗談かって思ったよ」
「顔の良い夫婦で腕もたつとか無敵か!ってなる」
学園で遠巻きに噂されるのは以前から変わらないが、黒種の竜の剝製の効果で好感度の高い声が増えてきたように思う。
「ユイエ君、大分モテモテね?」
「アーデ程じゃないと思うけれどね?」
アーデルフィアも遠巻きに憧れの視線を受けているが、元々そういう視線を浴びていただけに、変化は小さいように思えた。
金曜日の最後の講義を終わらせると急いで屋敷に帰り、魔馬の馬車を出して領都アディーエに移動する。
身体が大きく足も太くて頑丈、足も速ければ体力もある。普通の馬車なら第1ベースキャンプで1泊、第2ベースキャンプで2泊目、3日目でアディーエの到着する距離なのだが、この魔馬4頭立ての馬車だと、陽が短くなった冬でもこの移動だと日暮れ直後にアディーエに到着する事になる。
前方を照らす照明魔道具を使うため事故に繋がる事もなく、無事に到着できている。
そもそも≪樹海の魔境≫では魔物の動きも活発で夜行性の魔物も多く、夜間の行動は特に注意が必要なのだが、ユイエとアーデルフィアが【魔力探査】を魔力の濃度を態と上げて気付かれるように使い続けていると、大抵は魔物の方が逃げていく。
日暮れで閉じていた門も、領主権限で開けさせれば通れる。衛兵には苦労を掛けて申し訳なく思うのだが、このパターンも毎週のように発生していると衛兵も慣れて気にしなくなっていた。
防壁を越えると真っ暗闇の田舎道に点々と魔道具の街灯が立っている。馬車の方でも照明の魔道具の出力を上げて遠くまで照らし、事故を起こさない様に魔馬車を走らせる。
外周に近い畜産農業の地帯では人が歩いている可能性は低いのだが、中心部に近付いて行くにつれて建物や人工密度が増していく。魔馬車の速度も落とし、事故を起こさない様に注意して進む。
アディーエの城に着くと迎えに出て来てくれた騎士達に魔馬車を任せて、城に入って行った。
◆◆◆◆
城に着くと使用人達の報告を聞きながら自室へ向かう。
レザルタスから追加の鞍セットが納品され、計50騎分になったそうだ。それと、マインモールド領からの武具の納品も200セット届いたそうで、これで計400である。そろそろ騎士の数も増やせる土台が出来てきた。
自領で文字の読み書きや計算を教える事が出来る教師も募集していて、それなりに応募もきているらしい。孤児院兼初等教育の機関も開ける土台が出来てきた。
農畜産業のエリアに大規模な孤児院兼初等教育と農業教育の施設づくりを進めさせる事にした。
「まずは皇都のスラムね?その次が皇領の孤児院、周辺の街のスラム。それで運営のノウハウを蓄積して、無理のでない範囲で手を広げていきましょう?」
「あぁ、そうだね。文字と計算の他に、農業も教えないとな。孤児院を卒業しても直ぐに働きだせるように」
自室でこれからの事を話をしていると、日付が変わっていた。
「16歳の誕生日、成人おめでとうユイエ君」
「あぁ。もう日付が変わっていたのか」
「そうよ?日付変わるまで寝かさないつもりで頑張ったんだから」
「1番に祝辞をくれるため?」
「えぇ。私の誕生日の時もそうしてくれたじゃない」
「それは嬉しいね。ありがとう、アーデ」
気分の盛り上がった2人は、その後明け方まで“練習”に耽る事になった。
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