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第3章 第5話 騎乗具制作

星昌歴せいしょうれき876年。11月上旬。


 城の自室に着いたユイエとアーデルフィアは、何時もの習慣でバルコニーに出て街を見下ろした。


「また家や店舗が増えたみたいだね」

「そうね。あ、農地の方も開墾範囲が広がってる」


 しばらく領地の推移をみて楽しみ、部屋へと戻ると、ソファに並んで座り、自然とイチャイチャして“練習”に移っていく。


「アーデは明日で16歳、成人だね」

「そうね。明日から1ヶ月くらいは“おねぇちゃん”よ」

「そうだね。そんな“おねぇちゃん”に誕生日は何をしてあげようか悩むんだけど?」

「別に欲しいものなんて……あ、相談したいのがあったわ」

「なに?」

「青種のドラゴンの鞍と鐙、手綱とか。あの子達なら乗せて飛んでくれそうじゃない?」

「あ、それは私も考えていた。青種のところに鉱山族ドワーフ連れていて、騎乗具作りに協力してもらおう」

「良いわね!明日から迎えに行ってみましょう?」

「あぁ。そうしてみようか」

「うん、でも今は……“練習”の続きが良いな?」

「仰せのままに」


 その日は1日イチャイチャして過ごし、日付が変わるとアーデルフィアの16歳の誕生日を祝ってから、また“練習”した。


◆◆◆◆


 翌日、ドラーゲンに相談して鞍や鐙、手綱などが得意な皮革と木工の職人、レザルタスを紹介してもらった。マジックバッグに魔馬具一式と騎乗具作りに仕えそうな素材を用意してもらって、一緒に北へと向かって行った。


 第4ベースキャンプ場で1泊してから、第5ベースキャンプ場までの道を行く。最近、開拓した道沿いには巨獣もあまり近寄らなくなっていた。


 たまに横切るような事はある様子だが、生活圏としては定期的に道沿いの魔物の駆除を行っているため、危ない場所だと認識するようになったのかもしれない。


 第5ベースキャンプ場で1泊する準備をしていると、空から「クルァ!クルッ!キュィィ!」と青種の鳴き声がした。見上げてみると、2頭の青種がベースキャンプ内に降りてきた。


 革職人の鉱山族ドワーフのレザルタスは青種と初対面のため緊張しているが、ユイエとアーデルフィア、サイラスとメイヴィルは青種に笑顔を向けている。やってきた青種に頭を擦りつけられ、それを撫で回してやっていると、はじめてみた鉱山族ドワーフに首を傾げていた。


「この人はレザルタスさん。ちょっと道具作りを手伝ってもらおうかと連れてきたんだ」

「あなたは腹這いになって頂戴?先ずは魔馬用の鞍を乗せてみて、様子をみるから」


 何をいっているのかは分かっていない気配だが、首筋を押さえて下へ力を入れると、素直に腹這いになってくれた。そこに魔馬の鞍を乗せてみると、やはりサイズ違いでぽっかりと間が空いてしまう。

 それを確認したレザルタスが計測道具を出して大きさや幅、奥行きなど調べてメモに記録を書き起こしていき、持って来た皮革で型取りをして被せてみせる。すると大体の大きさが決まったかのか、アーデルフィアに跨ってもらい、鐙の位置をどのあたりにするか、計測してこれもメモを残す。


 計測が済むとベースキャンプ内にある小屋に行き、そこで作業に取り掛かっていた。

 作業に入った鉱山族ドワーフの集中力は分かっているので後を任せて、日暮れまで青種と遊んですごした。陽が落ちてくると青種の2頭も山へ帰って行った。


 翌朝、早朝訓練をベースキャンプ周辺で行い、見付けた魔物を狩って持って帰る。レザルタスに朝飯を差し入れに行くと、徹夜したのか作業中であった。見た感じでは鞍も鐙も完成していそうに見えるのだが、固定するための帯などは仮の状態だろう。指示出しのための手綱とはみくつわのベースも出来ていそうだが、頭部の固定帯をどう巻くかがまだ決まっていないようだった。この後はきっと実際鞍を乗せて手綱と銜を噛ましてみてから調整が入るのだろう。


 翌日も青種が4頭遊びに来た。朝方狩ってきた肉を焼いて出してやると嬉しそうに食べていた。

青種のドラゴンたちの声が聞こえたのか、レザルタスが道具を抱えて出てきた。


「仮作成のが出来やした。後は付けてみて固定具の付け方を考えますんで、明日には完成するかと」

「徹夜したんだろう?急がせはしないから今日はちゃんと寝てくれよ?」


 そう宥めつつ持って来た鞍を受け取り1頭に取り付けてみる。すると、すかさず帯の付け方をメモに残していく。


「鞍にのって銜も噛ませて手綱を握ってみてくだせぇ」


 青種のドラゴンが大人しく鞍を背負って口にも銜を噛み、キリっとしてみせる。


「やっぱり実物見ながら考えた方が楽ですな」


 くつわの巻き方、思懸おもがい固定の仕方をメモに起こしていくと、作業小屋に引き上げていった。


「あれはまた徹夜しそうじゃない?」

「ちゃんと寝てくれた方が良いのにな」

 レザルタスの様子を見送ってからアーデルフィアが言い、ユイエが同意した。


鉱山族ドワーフは自重がぶっ壊れてる人が多いですね」

「確かに」


 メイヴィルとサイラスも大体同じ意見のようだった。


 今日は鞍なしの裸で背中に乗せてもらうと、青種のコロニーに連れて行ってくれた。すわ餌かと思う程一斉に青種が寄って来るが、頭を擦りつけたり撫で返す手をべろんと舐められたりするだけで危険はなかった。本当に人懐っこいと思う。悪い密猟者に狙われないか心配になる。



 翌日、レザルタスが鞍と鐙、くつわなどの道具を一式揃えて現れ、再設置を試した。今度は丁度よく設置できた。試乗を試そうとしたところ、サイラスが立候補した。


「先に私が安全性を確認してきます」

「おう、わかった」


 サイラスが鐙に足を掛けて鞍に跨り、手綱を手に持つ。


「よし、飛んでくれ!っていっても分からないか?」


 サイラスを乗せた青種がきょとんとした顔で背中を振り向く。調教なんて受けた事ないのだから、どの合図で何をすれば良いのかが伝わらない。手綱と両足の鐙で色々試していると、何となく飛んでくれて、空をぐるっと旋回してから降りてきた。


「鞍と鐙のおかげで大分安定しました。合図を覚えさせるのには時間がかかるかもしれないですね」


 サイラスの体験談を聞き、次はメイヴィルが飛んでもらって戻ってきた。


「乗せてもらってる感がすごいですけど、安定性は間違いなく効果ありです!」


 メイヴィルもレザルタスの仕事に満足のいく答えを返す。


 アーデルフィア、ユイエと続いて試乗させて貰う。これなら馴らせば騎士団の強い味方になりそうだと感じた。


「レザルタス。この鞍をベースに、【自動サイズ調整】を付けた物を幾つか用意してくれ。勿論今日じゃないぞ?領都に帰ってからだからな?」

「合点だ」


 その後、馬車で睡眠をとるレザルタスを連れて第5ベースキャンプ場を後にした。


 11月の下旬、収穫祭休暇が終わった頃にレザルタスが部下達の手を借りつつ20セットの完成品を持って来てくれた。

ユイエ達はありがたく受領し、今後の竜騎士計画に思いを馳せていた。


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