第3章 第4話 皇都の屋敷
星昌歴876年。11月上旬。
それから1ヶ月程を皇都の屋敷で過ごし、領地に帰って視察する事にした。使用人達を集めての挨拶でそのことを伝える。
「それで、領都の屋敷……いや城だな?領都と城の見学をしてみたい者がいたら申し出て欲しい。興味本位でも全然構わない。もし領都の方で働きたくなった者が居たら、配置転換も希望に添える様に検討するつもりだ」
という話をしてみたところ、ジョヴァンニとリューネ、リューネの部下二人、鉱山族の兄弟の二人が手を挙げた。思ったより少ないな、と思いつつ希望者を全員連れて行く事にした。
「それでは、出発は急で悪いが明日の午前中にでる。ジョヴァンニとリューネ、侍女二人と鉱山族兄弟の二人には魔法の鞄を貸し出す。必要な荷物をそれに入れて持って行けるようにしておいてくれ」
翌朝、魔馬の馬車2台で領都へ向かった。魔馬の馬車であれば半日程で領都に到着できる。
防壁が見えてきたところで魔馬を街道の脇に寄せて停車する。馬への補給を兼ねての休憩である。本当は休憩を挟まなくても辿り着けるのだが、領都の防壁を遠目に眺めるのも良い機会かと思って停車した。
「遠くに見える防壁が領都の外壁なんですか?王都の外壁より高くて範囲も広くみえるのですが」
皇都の屋敷の家令のジョヴァンニが訊いてきた。
「そうだね。そのくらい大きく作ってあるよ。あの壁の内側には農地も広がっていてね。農畜産業も壁の中で完結できるように目指しているんだ」
「それであの規模の壁ですか……圧倒されますね」
防壁を遠目にみてもらいつつ馬達の補給を終わらせると、再び馬車に戻って防壁を目指した。
防壁の入口で一度止められる。馬車から顔を出して門番に挨拶すると、直ぐに気付いてもらえ、馬車を通してもらえた。
防壁に入ってすぐは何もない。ただの開墾予定地である。街の中心に向かうにつれて農畜産地帯が見え始め、そこを通り過ぎていくと段々街の様相を見せ始める。
街の中心にある城が見え始めた。
「あそこがユイエ様の居城なのですね」
リューネが緊張するのか若干顔が強張ってみえる。
「そう構えなくて良いよ。今回は皆お客様だからね」
「城の大きさにも圧倒されましたが、中も彫刻とか細工物がすごいですね?」
「あぁ、ロビーや謁見の間とかのお客様が通る場所だけでもと言って聞かなくて……。もっとシンプルに質素にして良いと言ったんだけど、鉱山族達も頑固で譲らなくて」
城に着くと家令のヴィクトル、侍女長のロゼリア達が集まり、今回のお客様達を持て成すために動き始めた。宰相の仲介で所属変更してやってきた使用人達は大体が汎人種なのだが、ヴィクトルとロゼリアだけは耳長族だった。長命種はその分長く生きて経験や知識を蓄え、即戦力の優秀な者が多い。勿論アーデルフィアのように実年齢が汎人種と大差ない若い子達はそこまで優秀という訳でもないので、教育して今後長く仕えてくれる人材に育てていきたいと思っている。
「領都の屋敷の使用人達なんだ。今回は領都を見せたくて連れてきた。お客様待遇で頼むよ。それぞれ個室の客室に通してあげてね」
「「畏まりました」」
ヴィクトルとロゼリア達が礼をし、皆を連れて行く。
「さて、私達も部屋で休もうか」
「えぇ、そうね。何か用事があれば誰かが伝えに来てくれるだろうし」
◆◆◆◆
一方その頃。個室に案内されたジョヴァンニ達は客室エリアの談話室で話し合いをしていた。
「ここの騎士達の装備を見たか?」
「装備?特に気にしていなかったな」
「鉱山族なら分かるんだけどな」
「騎士達の装備、全員竜素材で作ってあったぞ」
「竜素材?それって魔鋼や天銀合金より凄いのか?」
「あぁ、すごいぞ。天銀合金より上位の素材で、それ以上ってなると神鉄鋼合金とか日緋色金合金を持ち出さないと勝負にならないくらいいに凄い」
「皇都の騎士団はどうなんですか?」
「普通の騎士達は魔鋼の全身甲冑で、精鋭部隊が天銀合金の全身甲冑かな?」
「皇都の精鋭部隊より良い装備って事ですか……。≪樹海の魔境≫では実戦相手にも困らないでしょうし、きっと練度も高いんでしょうね?」
「使用人達もどこか誇らしげに働いていたし、良い主人に出会えたんだな」
「あぁ、どんな貴族の元で働くのか内心ビクビクしてたけど。あの人達の元なら上手くやっていけそうな気がするよ」
「同感ね」
評価、ブックマーク登録、いいね などの応援をお願いします。
モチベーションや継続力に直結しますので、何卒よろしくお願いいたします。




