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第3章 第2話 黒種討

 翌朝、朝日が昇ると4人で山脈側に移動を開始した。


 第5ベースキャンプ場と鉱山を直線で結んだ時と進行方向が少しズレているが、放置していたら鉱山開発チームにも被害が出るだろう。

 やはり、ここで仕留めておかねばならないと再度決意する。


 ユイエ達が山脈に向かっていると、キュイッ!と鳴きながら青種のドラゴンが4頭、ベースキャンプから飛んで出てきた。どうかしたのかと思って立ち止まると、ユイエの前で伏せの姿勢になってジッとユイエを見つめている。首筋を撫でてからよじ登って跨ると、伏せの姿勢から立ち上がった。


「おぉ?飛んで連れて行ってくれるのか?」

 アーデルフィアにサイラスとメイヴィルもそれぞれ青種のドラゴンが伏せの姿勢で待機するので、首筋に跨ることになった。


「わ、ドラゴンに騎乗?!良いッ!!」

 アーデルフィアはテンションが上がっているが、メイヴィルとサイラスは尻込みしつつもその首筋に張り付く。

「……鞍も鐙もないと不安になりますね」

「あぁ、せめて落ちない様に鬣を掴ませてもらおう……」


 4人を背中に乗せてしがみついたのを確認すると、4頭の青種がふわっと浮き上がり、羽ばたくと高度が上がっていく。


「魔法で飛んでる?」

「離陸の時のふわっと感は羽ばたき関係なかったし、そうかも」


 地面が遠くなる様子をみながらユイエとアーデルフィアが話をしていると、サイラスとメイヴィルは下を見ない様に引き攣った顔で頑張っていた。


 騎乗の練習もせいぜいが魔馬である。空を飛ぶドラゴンに乗せてもらえるなど、こんなに珍しい体験を楽しめないとは勿体ないと思う。


 しばらく飛んでいると、岩場で丸まって寝ている黒種のドラゴンがみえてきた。折角寝ているのなら不意討ちしたい。消音魔法で羽ばたきや足音を消して地面に降りた。青種4頭が空に戻って距離を取り、こちらを見守っている。


「(よし、やりますか)」


 ユイエとアーデルフィアが打刀を抜いて頭の左右に立ち上段に構える。メイヴィルとサイラスも大楯を前に構えつつ長剣を抜剣して構える。


 4人はアイコンタクトで互いの様子を確かめ合うと、ユイエが頷いてプラーナと魔力を【≪まとい≫】、刃筋に凝縮した魔力の刃を拡張して視えない刀身の長さを伸ばす。

 アーデルフィアも同時に魔力とプラーナを熾して魔力刃を拡張させると、ユイエと同時にその刀身を斬り下ろした。


 2人の不意討ちによる一閃は黒種の首をそれぞれ4割ずつ切断したが、即死には至らなかった。


「ゴウァアッ!!」


 不意討ちに驚いて起き、血を吐きながら慌てて飛ぼうとするが、魔力が上手く練れていないのかジタバタと地面を翼で叩きのたうつ。眼前で大楯を構えていたサイラスとメイヴィルが、すかさず大楯で殴打(シールド・バッシュ)して押さえ込む。


 パニックになっている黒種が首を振り回そうとしたが、ブチブチと自分の首の傷口を広げる事になり、声の出ない絶叫を上げる。


「頑丈すぎだろッ!?」

「おとなしく死んでちょうだい!!」


ユイエとアーデルフィアが叫びながら拡張した斬撃を再度振り回し、とうとう黒種の首が落ち、痙攣して絶命した。



「ふぅ……」

 アーデルフィアが息を吐き、ザっと血払いし納刀した。ユイエも刀身の血払いをして納刀する。

「いやー、やっておいて何だけどこれは酷いな」


「でもガチだったらヤバかったぽいよね?」

「あぁ。寝首を掻きにいって両断するつもりの全力を込めたのに、思ったより深く斬れなかった」

「うん、不意討ち出来ずしかも飛ばれていたらとおもうとゾッとするよ」


 アーデルフィアの見立てにユイエも同意し、冷や汗を拭った。


「これどうしようか?特製の魔法の鞄(マジック・バッグ)に入りきるかな?お、胴体側は入った。頭までは入らないわ、そっちで頼む」

「りょうかいだよー」

 黒種のドラゴンの胴体をユイエが、アーデルフィアが頭を回収した。


「ピュイ!キュアァッ!」

 離れて見守っていた青種の4頭が降りてきて、頭を擦りつけてきた。


「おう、なんとかなってよかったな?」

 ゴシゴシと首筋を掻いてやると、目を細めて喉を鳴らしている。


 一頻り頭を擦りつけると伏せの姿勢になったので、よじ登って首筋に跨る。


「う……また飛ぶのか」

「ありがたいが鞍と鐙が欲しい……」


 メイヴィルとサイラスが顔を引き攣らせながら首筋に張り付いた。ユイエとアーデルフィアも準備は万端で首筋を撫でてやっている。


 4頭は再び空を飛ぶと、麓の第5ベースキャンプ場にまで運んでくれた。


「クルルルァッ!!」


「「「ピュイ!!」」」


 ユイエを乗せた1頭が叫ぶと、第5ベースキャンプ場で待っていた他の青種のドラゴン達が声を揃えて叫び、翼を広げて尻尾で地面をびったんびったんと繰り返し叩いて喜んでいる様子がみえた。


 確実に鳴き声でコミュニケーションを取り合っている。知能が高い証拠だ。慣れれば人間の言葉も理解するかもしれない。


 今度、鞍と鐙を作って貰って青種に乗せてもらおう。慣れれば乗騎になってくれるかもしれない。


◆◆◆◆


 青種のドラゴン達は山へと帰って行った。残された人間4人は鉱山開発の現場へと移動することにした。


 鉱山に着くと坑道の入口から外の様子を伺っていた鉱山族ドワーフ達が現れた。黒種のドラゴンの事を口々に報告してきたが、手を上げて落ち着かせる。


「黒種のドラゴンは倒した。もういないから大丈夫だ」


 倒したという報告にぽかーんとなる鉱山族ドワーフ達。


「アーデ、首見せてやって」

「分かったわ」


 アーデが巨大な黒種の竜頭を出して討伐完了を再度報告する。


「た、たすかったー!!」

「鉱山で蒸し焼きにされるかと!!」

「これでインゴットも運び出せるぞッ!」

「魔境伯がやってくれたって皆に報告してくるぞ!」


 理解が及ぶとお互い肩を叩き合い、窮地が去った事を喜び合っていた。



 虫の知らせに従ってやってきたが、結果的に皆の命を繋ぐことができた。

 鉱山開発チームの宴会に巻き込まれ一晩鉱山で過ごすことになる。


 どうやって倒したのかは誇張なく正直に「寝首を掻いて致命傷を与え、パニックが納まる前に首を斬り落とした」と話したのだが、それじゃ面白くないと酔っ払い達が勝手に激闘シーンを脚色し、話を盛って広めて行ってしまう。何度訂正しても面白くした方が受けるという酔っ払い理論で元に戻るため、しまいには鉱山族ドワーフ達の茶番劇を見ながら肉にかぶりつくことしか出来なかった。


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