第2章 第9話 人材紹介の相談と日緋色金《ヒヒイロカネ》の刀達
後日、鉱山チームに追加メンバーが派遣されてきた。最先端の炉造りが出来る職人だそうだ。精錬所を作り、頑強な倉庫保管設備なども増強し、そのままインゴット作りの要員として居付いた。
春学期になってから1ヶ月半経った5月の半ば。皇都に戻ってきてウェッジウルヴズ家に顔を出した。
「おひさしぶりです、ウェッジウルヴズ大公閣下」
「なんだ仕事の話か?家族の団欒じゃないのか?」
「すみません、まずは仕事関連の話で……。そろそろ領都に人が欲しくなりまして。使用人や内政向けの人材、騎士なんかも用意したいと思っています。こういう時、何か伝手ってありませんか?」
「あぁ、もう人手が欲しいくらいになったのか?≪神樹の森≫から≪樹海の魔境≫に行っても良いという者を募ってみよう。それだけじゃ不十分だろうから、リカインド宰相にも相談が必要だな。皇城から転居してもいい者を募ってくれるだろう」
「分かりました。≪神樹の森≫の方の募集、お願いいたします。リカインド宰相には経過報告を兼ねて相談に行ってみます」
皇城に登城しリカインド宰相に領地の事で相談したいという用件で打診してもらい、都合の良い日時を確認してもらって予約を取り帰ろうと思っていたところ、執務室に通してもらえた。
「飛び込みなのに対応して頂きありがとうございます。エドワード・フォン・リカインド宰相閣下」
「よい。そろそろだろうと待っていたが来ないので気になっていた」
「と申されますと、私の要件の方も大方察しがつかれているようですね?」
「人材だろう?侍女、執事、内政官、それに騎士。その後には住民も欲しかろう?」
「はい、仰る通りでございます。≪樹海の魔境≫に赴いても良いという信用できる人材をご紹介頂きたいと思っておりました」
「異動希望者なら募ってある」
エドワードが引き出しから紙を取り出して見せてくれた。
「侍女10名、執事5名、内政官10名、騎士152名。それぞれの家族が移民可能だ。いずれも貴族家出身の者達故、身元は保証されている」
「ありがとうございます。助かります」
「平民の登用は自己責任で募ると良い。農地開墾と農畜産業の従事者は必要だろう?領地の経営状態が悪い領地で募れば、移民も集まり易いだろう。そういう領地の心当たりも紙にまとめてある。だが貴族家が移民を許すかどうかは貴族家次第だ。あぁ、スラムの民なら本人達の承諾だけで連れて行っていい。農畜産業でも仕事に就けるとなれば力になってくれるだろう」
「……流石です。リカインド宰相は私が困る事とその解決策について、予め当たりを付けていてくれたんですね」
「なに、開墾となればどこでも同じ事で悩むというだけだ。他の貴族より贔屓しているのは認めるがね?」
「ありがとうございます。魔境の安定化に尽力いたします」
「6月の初旬、学園の終業式の翌日から移民する手配を進めておく。管理層が落ち着いたら順次平民を募っていくといい」
「はい、ありがとうございます!」
「あぁ、それと。これは私事だがね?甥っ子が皇立カグツチ学園の政経科で君達と同学年にいる。実務経験を積ませるのに使ってやってくれないか?名はイクシス・ワトソンだ」
「ありがたい申し出ですね。イクシス殿には事前にお話はされておられますか?」
「あぁ。魔境伯の開拓で経験を積めと伝えてある。会えば分かるはずだ」
星昌歴876年。6月。
エドワード宰相との会談から半月後、6月の初旬となり終業式が行われた。
学園が夏季休暇に入る際、出席日数で心配していた進級も座学のテストと実技の成績で何とか叶った。夏季休暇が明ければ3年生への進級が決まり、ほっと一息吐けた。
しかしこのタイミングで皇都からの移民を開始する事になっている。177人とその家族を含め約400人規模の集団である。
とてもではないが1度で運べる人数ではないため、10台の荷馬車に家族単位でのせられるだけ乗せて、領都と皇都を何度も往復した。家財道具の運搬には背嚢型魔法の鞄を貸し出した。
移動させるのは侍女と執事、内政官を最優先に運び、次に騎士達を運んだ。騎士達は移民が終わった順から移民者の護衛、引率に回ってもらう。
「ん?内政官が11名……?予定より多いな?」
「あ、はい。多分私です。イクシス・ワトソンです。叔父から話は通ってると聞いてやってきました」
「あぁ、君が……。叔父上にはいつも大変お世話になっているよ。3年生の単位の予定は大丈夫かい?」
「はい。2年生までに卒業まで必要な単位を取り終えましたので、3年生の間に実習でお世話になろうかと思っていました。よろしくお願いいたします」
「はい。よろしくお願いします。改めて。私がユイエ・フォン・ドラグハート魔境伯です」
「その妻予定のアーデルフィア・ウェッジウルヴズよ。よろしくね」
「はい。他のメンバーと同様に接していただければ幸いです」
「わかった」
この夏季休暇に合わせて領都側で受け入れできる仮設住宅も用意してあり、続々と個別の住宅建設も進んでいたのだが、“魔境伯の領民になれる”というのは殊の外パワー・ワードだったらしく、探索者家族や農畜産業従事者と商業従事者も続々と集まって来た。
こうなってくると鉱山族部隊と土木工兵科だけでは建築が追いつかなくなり、移民者の建築業経験者などが手伝いに入っていった。
初期の移民受け入れ対応と管理層の体制作りで夏季休暇が順調に潰れて行く。剣を振らずペンをとる戦の様相を呈していた。
この間、マインモールド領に建築関係の増員を依頼をしており、到着した順に戦場の如き建築現場へと投入されていった。
夏季休暇も8月に入り残り1ヶ月。日々建物が増えていく。城のバルコニーからみえる景色が日々変化していくのを眺めるのが好きになっていた。
この頃になると、開拓団の護衛だった探索者達から騎士への転属願いが出て来て、特に問題がなければ受け入れて行った。道を開拓して魔物と戦い守ってきた街が発展しはじめるのをみて帰属意識に気が付き、ここの領民になりたいと思うようになったらしい。Aランク探索者のヴィックスが真っ先に手を挙げてくれたので、後が勢いで手を挙げた様にも感じた。
これは探索者に限らず鉱山族団にも発生していた。気持ちとしては即答で受け入れたかったが、そこはドノヴァン大公に筋を通してからだと答えていた。
また、鉱山族達が移民してくるなら酒作りの設備も必要になるだろう。酒のための穀物作りもまた然りである。
8月上旬にドノヴァン大公に会いにマインモールド領に行った。
鉱山族増員のお礼、鉱山で産出した魔法鉱石のインゴットの売り込み、出来上がっている竜素材の騎士団装備の受領、鉱山族の移民希望者の受け入れについての許可取り、鉱山族の受け入れに応じて必要となる酒造りの環境の発注である。
「鉱山族の移民者のために酒造りまではじめるのか?流石だな!その一手は鉱山族心を仕留める一手になるぜ」
ドノヴァン大公としても領民を他所に流出させるのは面白いはずがないのだが、本人達の意思を優先としてくれた。
酒造りの設備作りのための職人達も貸し出してくれた。初対面の時から世話になりっぱなしである。ユイエとアーデルフィアは深く大公に頭を下げて礼を述べた。
礼を述べると「そんなことより試し斬りに付き合え」と誘われ、新作の試し斬りを頼まれた。
前回の日緋色金合金の剣より更に斬れ味が良くなり、外観も美術品の様な美しい出来に磨きがかかって仕上がっていた。大公として領土を納めながら職人としても突出、更には成長し続けている。
この日、日緋色金合金の脇差と打刀は2セット用意されており、アーデルフィアに1セット、ユイエに1セットを頂いた。
「まだまだ腕を上げてもっとすげーのを作ってやる。そしたらまたやるから楽しみにしといてくれ」
との事だった。ウェッジウルヴズ大公より付き合いは短いが、同じくらい世話になっているのではないだろうか。得難い知己を得たものである。
・日緋色金合金の脇差 2振
【強度強化】、【斬れ味強化】、【魔力伝達率強化】、【氣伝導率強化】、【自動洗浄】、【自動修復】、【魔法耐性】
・日緋色金合金の打刀 2振
【強度強化】、【斬れ味強化】、【魔力伝達率強化】、【氣伝導率強化】、【自動洗浄】、【自動修復】、【魔法耐性】
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