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第2章 第8話 進級と移民受け入れ開始

星昌歴せいしょうれき876年。年始。


 皇都のウェッジウルヴズの屋敷とアズライールの屋敷に新年の挨拶に回ると新年の宴への参加を強制されてしまった。皇都にいる以上、貴族家当主ならば新年の宴には出席せよ、だそうだ。


 以前作った礼服に身を包み、髪を結い上げて背中が大胆に開いた赤いドレス姿のアーデルフィアをリードする。


「アーデ、今日のドレス姿も良く似合ってる。アーデは本当に美人だなぁ」

「あら、ありがとう。ユイエ君もいつもよりかっこいいわよ」


 催事場に入ると会場の至る所から視線を浴びる。



「魔境伯が来たな。社交界嫌いでも新年の宴には出るんだな」

「魔境伯?どの人だ?まだ会った事ないんだよ」

「あの赤いドレスの女性がアーデルフィア・ウェッジウルヴズ公女殿下だ。腕を組んでるのが魔境伯だよ」

「あの方か。本当に若いな?成人は来年だったか」

「どちらも顔が良い。目が癒される」



 自然と耳に入る噂話だけでも辟易する。一挙手一投足に注目を浴びている状態は、正直居心地が悪かった。


「帰りたい……」

「陛下の新年の挨拶を拝聴するまでの我慢よ。もう少しだから頑張って」


 壁際で気配を殺して背景になろうと試みるが、隠形の効果はまったく出なかった。仕方ないので、話しかけるなよオーラを醸し出す事にした。

 ニヤついた顔で近付いてきた名も知らぬ貴族に殺気を飛ばすと、顔色を変えて方向転換していった。よし、これでいこう。


◆◆◆◆


 皇族の方々が現れるとようやく注目が軽減され、ユイエの不機嫌度合いも多少軽減された。

 壁際で背景に溶け込もうという努力は続けていたのだが、ミヒャエル陛下とカミュラ殿下にはあっさり看破され、どちらとも目が合っていた。皇族の挨拶と乾杯の音頭が取られると催事場は賑やかになった。


「(義務は果たした……はず。帰ろう)」


 ユイエがアーデルフィアのリードをしながら催事場を抜け出そうとしていると、何時の間にかカミュラ皇女殿下に回り込まれていた。解せぬ。


 捕まってしまっては仕方がない。≪樹海の魔境≫の開発状況について話題も振られてしまったので会話を続けていると、周辺の貴族達がこちらの発言に耳を澄ませているのを感じた。下手な失言はしない様にと気を遣いつつ談笑し、カミュラ皇女殿下が解放してくれたところでようやく脱出に成功した。


 やはり社交界は苦手である。まったく楽しくない。対して、領地で鉱山族ドワーフ探索者シーカー達との宴会は酒が飲めなくても楽しめる。これはもう性分なのだろう。来年から年始には領に戻っておこうと心に誓った。


◆◆◆◆


 新年の休暇が明け、しばらくは学園に通う生活を送った。3月上旬までの冬学期が終わった頃に探索者シーカーズギルドに顔を出し、ドラゴン素材の解体状況を確認した。赤種47頭、緑種27頭、黄種32頭。計106頭。完了したらしい。大容量の背嚢型の魔法の鞄(マジック・バッグ)に素材を詰め込んでマインモールド工房に顔を出し、念のため追加で欲しい竜素材がないか確認したのだが、しばらくは不要との事だった。


 仕方ないので春季休暇を使ってマインモールド領に行き、ドノヴァン大公にドラゴン素材の買取をお願いしてみた。


ドラゴン素材の買取?またか?量はどんなもんだ?」

「赤種47頭、緑種27頭、黄種32頭。計106頭」

「頭おかしいんじゃねぇか?」


 罵られた。解せぬ。それでも他国に流すのはマズいくらいの戦略物資なのは確実なので、国内で消費したい。


ドラゴン素材は性能は良いのは勿論だが、希少性もあって値段が跳ね上がってたんだ。こんなにドラゴン素材を持ってきちまったら価格の維持は無理筋だぞ?」


「あぁ、一般に流すつもりはないんですよ。ウチの領土で抱える騎士団の正式装備として使う装備が欲しいんです。全身甲冑、槍、長剣、小剣、大楯、斧槍ハルバードあたりが用意できればと思っています。素材を渡すから装備にしてくれませんか?マインモールド領としてはドラゴン素材の取り扱い経験が積めます。若手の育成ができる良い機会になるんじゃないですか?」


 ≪樹海の魔境≫で抱える予定の騎士団の統一装備として配備する。これにより≪樹海の魔境≫で抱える予定の騎士団の装備が良くなり防衛力が上がって、人的損耗率も減らせる。

 そしてマインモールド領では、ドラゴン素材を扱う経験を職人や付与師に積ませてやれるし腕を磨かせる事が出来る。


 どちらも損をしない取引に着地できたと思う。


「確かにそれなら市場価格の値崩れは起きないしマインモールド領としても良い経験を積ませる事が出来る。良いだろう、乗った。だが魔境伯のところに卸す以外で作った装備はマインモールド領でも配備させてもらいたい」


「分かりました。ありがとうございます、ジェスタ大公。それと、鉱山開発チームの提案でインゴットに加工するための精錬設備を用意する事になったんですが、炉造りの専門技術のある職人とか、任せた方が良い職人がいたら回して欲しいです」


「鉱山開発チームか。たしかに現地で精錬できれば効率は良いだろう。ちなみに石は何が出た?」

「金、天銀ミスリル神鉄鋼アダマンタイト日緋色金ヒヒイロカネが確認されています」

「何?日緋色金ヒヒイロカネも出てるのか?分かった。そっちの職人も向かわせる。代わりにマインモールド領にインゴットを流してくれ」

「それは勿論。なんだったら鉱山か領都に鍛冶場を作ってくれても良いんですよ?今なら立地も選び放題でしょう」

「うむ……。開拓作業が終わったら鉱山族ドワーフ団をそのまま囲うつもりか?条件が悪くねぇから始末に負えねぇな?」



星昌歴せいしょうれき876年。4月。


 マインモールド領を出る頃には春季休暇も終わり、春学期がはじまっていた。


 ≪樹海の魔境≫の領都に寄ると城は完成していて、後は家具や調度品を揃えるだけという段階だそうだ。家具や調度品作りの部隊と領都に構える他の設備を用意する部隊に別れ、作業を進めているという。

 家具・調度品は必要な場所から順に用意してくれているそうで、ユイエの居室と寝室は家具も置かれていつでも寝泊まりできる状態になっていた。


 折角なので自室でアーデルフィアと共に過ごし、バルコニーからみえる風景から街の発展を想像して楽しんだ。気分が盛り上がった若い二人がその後“練習”したのは仕方がない事である。


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