第2章 第7話 想い出作りはプライスレス
星昌歴875年。11月。
ドノヴァンと一頻り笑い合い、新しい剣の作成を予約して工房前を後にした。
第3ベースキャンプ場は上下水道に更に浄水設備がほぼ完成したようで、城の建造に着手しはじめていた。まだ土台を作っている段階のようではあるが、かなり広そうな作りになっている。
“辺境伯と同格だとされた≪魔境伯≫に相応しい城”と言われても、ユイエの感覚ではイマイチ分からない。皇都のウェッジウルヴズの屋敷でも十分すぎるくらいに大きいと思っているのだから、それが自分の家になると言われてもピンと来なかった。
鉱山に作られた鉱山族の集落に移動して酒の事をドラーゲンに情報共有をしておく。
「ドラーゲンさん。ドノヴァン大公と話をつけてきました。これから定期的にマインモールド領の酒が届くようになります。酒屋も出張して来てくれるらしいので、良い酒は酒屋の方で買うようにしてくださいね」
それを聞いていた周りの鉱山族達も喝采をあげた。酒の残量が気になり皆テンションが下がっていたらしいので、これで士気が上がって良い仕事をしてもらえるなら安い物だと考える事にした。
鉱山の開発チームでもこれなのだから、領都の開発チームも似た状況であろう。酒が届くようになる事を伝えたところ、そこでも喝采があがっていた。
鉱山族にとって酒は文字通り≪いのちの水≫なのだろう。
ここまで仕事を終わらせて皇都に戻ると、秋学期もあと半月くらいになっていた。公休に次ぐ公休で果たしてちゃんと単位が取れるのか?不安しかないが通える時には通っておくと決めていた。
「アーデ、そろそろ誕生日だね?15歳か。何か欲しい物ある?」
「んー?ん~。難しいね?指輪はお揃いでもう付けてるし、武器はドノヴァン大公の仕事待ちだし、防具も今のところ間に合ってる」
欲しい物と聞かれて武装が候補に上がるあたり、流石は≪魔境伯≫の婚約者である。
「無くて欲しいなと思ってるのは皇都に私達の屋敷が欲しいくらいかな?」
「それは誕生日プレゼントとは違う気がするね?」
「でしょ?あっ、高級ホテルで2人っきりの甘い夜、想い出はプライスレスってどう?」
「なんか言い方がやらしいよ?」
「誘ってんだよ言わせんな恥ずかしい」
「お、おぉ……。ほんとに?」
「ユイエ君顔真っ赤。おかわいいこと」
「アーデも耳まで真っ赤だけどな?」
「ま、まぁちゃんとしたのは結婚してからね?とりあえず“練習”って事で」
アーデの提案通り、皇都の高級ホテルでプライスレスな想い出作りをした。
◆◆◆◆
星昌歴875年。11月下旬。
収穫祭休暇を挟んで12月から冬学期がはじまった。
冬学期の期間は、農産物の収穫が終わり一息つける貴族家当主達にとって、政治と社交の期間である。
話題の≪魔境伯≫を社交の場に呼ぼうと、あちらこちらから声が掛かりまくっていた。しかしユイエもアーデルフィアも社交界嫌いは治らない。全ての誘いを蹴っていつも通りの生活を続けていた。
12月のユイエの誕生日プレゼントをアーデルフィアも検討したが、物に関してはユイエもアーデルフィアと似たような状態のため特に浮かばず、再び高級ホテルでプライスレスな“練習”という想い出作りをした。
練習とはいえ一度覚えてしまえば愛しさもより一層増してくる。異性で身を持ち崩すというのも案外他人事じゃないと思うようになってきた。
12月の中旬になると、再び公休を取って≪樹海の魔境≫に帰る。領都の開発状況も気になるし、危険を伴う鉱山チームの様子も心配である。ドノヴァン大公に依頼していた酒の件もどうなったか把握しておきたい。
領都の開発状況は、城の外観と城壁、外堀などは完成していた。今は城の内部の作業をやっているらしい。城主であるユイエとアーデルフィアの居室や寝室などの居住エリア、大会議室、謁見の間、厨房、浴場などの最低限の必要な施設は完成しているらしく、いつでも移り住めるようになっている。
マインモールド領からの酒の供給が追いつき、鉱山族達が活き活きと働いていた。
城の中を軽く中を覗いてみたが、ロビーからして豪華過ぎた。柱や壁の彫刻など、意匠に凝り過ぎている。時間的リソースの配分を間違っている気がする。作り終わってしまった部分はもう仕方がないが、未完成のところでは華美な装飾は避け、質実剛健に頼むという舵取りをした。
「鉱山族の友たる≪魔境伯≫の居城で手を抜けるかってんだ!」
と言ってなかなか妥協してくれなかったが、来客の目に触れない部分については質素に頼むという事でなんとか妥協してもらった。
鉱山開発チームの方も順調で、天銀や神鉄鋼、日緋色金まで出てきたらしい。魔境の奥深く、魔素の濃ゆい霊脈沿いともなると、長い年月魔素を浴び続けて変質した魔法金属が蓄えられていたらしい。
鉱山チームからの提案で、取れた原石を精錬するための炉の設置を許可した。原石のまま領都に運ぶよりインゴットの状態に精錬した物の方が嵩張らず後の作業もし易い。初期投資以上のリターンがあると判断した。
領都と鉱山の様子見が終わると、今度は山脈沿いに東へ向かった。攻撃的な赤種、緑種、黄種の竜の駆除と食材および素材の調達である。
竜種を狩り殺す様を見ている翼竜達は、最早ユイエ達に近付いて来なくなっていた。道を開拓したお陰で奥地にも馬車を運びやすくなっており、馬車に積めるだけ背嚢型の魔法の鞄を積み込んで鉱山開発チームに赤種を1頭、領都開発チームと土木工兵科、探索者達による開拓団のチームにも赤種を2頭配った。
自分達で捌いてもらう必要はあるが、年末年始の前祝いとして高級な竜肉を楽しんで欲しい。
配って減った容量の分は再び山脈沿いで竜を狩って補充し、馬車に積み込むと皇都へと帰った。
大量の竜素材を持って皇都に帰ると、いつも通り探索者ギルドに解体依頼を出しておく。自分達で食べるための食肉と工房で使う素材は回収するが、残りの肉や内臓は探索者ギルドに卸す。解体費用は肉や内臓の売上から差し引いてもらういつもの注文だった。
次は解体に回した竜の受取明細証を持ってマインモールド工房を訪ねると、すぐに店長のライゼルリッヒがやってきた。工房の稼働状況を聞いてみると、これまでに卸した竜素材が使い切れていないらしい。念のため竜素材の追加の事を話してみたが、表情が無になったライゼルリッヒにマインモールド領の本店に卸して欲しいと頼み込まれた。
仕事に追われていると気が付いたら年が明けていた。
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