第2章 第2話 夏季仕事・業務委託と打ち合わせ
マインモールド領の砦に到着した1日目は、試し斬り以降は特に何もなく夕飯をいただいて終わった。
翌朝、久しぶりの早朝訓練をやってから朝食をいただいた後、ドノヴァンに呼ばれて応接室に行った。
「昨日は全然話が出来なくて悪かったな。先ずは皇都から来てる依頼について話をしようか」
「はい。お願いします」
「先ず1つ目。≪魔境伯≫の領地で鉱脈が見付かったから鉱山の開発を手伝えって話だ」
「そうですね。私達には鉱山開発のノウハウがありませんので、マインモールド領の協力が欲しいと思っています」
ドノヴァンがそれに頷き返した。
「2つ目、≪魔境伯≫の領地内に領都と≪魔境伯≫の城を作るという話しだな」
「はい。都市計画と建築ならマインモールド領に発注すれば間違いないだろうと聞いています」
「よし、話に齟齬はないな。しかしそれだけで良いのか?」
「と言いますと?」
「≪樹海の魔境≫の中にベースキャンプを沢山作りながらここまで来たんだろう?見てみなきゃ分らんが、ベースキャンプの強化や道の整備だって万全じゃねぇはずだ」
「そうですね、皇国軍の土木工兵科が頑張って作ってくれてますが、急造仕様ではあると思います」
「長く使って行くならベースキャンプを駅にして砦化はしておきたいだろう?」
「……そうですね。領都と鉱山開発が軌道に乗れば、各ベースキャンプの堅牢化をしていきたいと思っています」
「よし、マインモールド領として≪樹海の魔境≫の開発に長く協力しよう。支払いは現金でも良いが、鉱山からの鉱物支払いか、山脈沿いの竜か龍あたりの素材支払いも受け付けよう」
「ありがとうございます!そこまでしていただけるとは思っていませんでした」
「そうね、伝手だけじゃなんともできない部分だし、素直にありがたいわ」
ユイエとアーデルフィアは揃ってドノヴァンに頭を下げた。
「おう、その代わりちょくちょく我儘言うだろうから何とかしてやってくれ」
「?内容次第ですが、なんとか出来る範囲でなら協力します」
「あぁ、それでいい。鉱山族ってのは仕事と酒と肴があれば満足な生き物だ。酒樽用意するだけでも結構大変だろうがよろしく頼む」
「(酒……酒かぁ。考えてもいなかった労働条件だな)」
「(あぁ、これぞ鉱山族っていう生き様ね。すごく良い)」
「あとな、俺にお前さんらの装備を打たせて欲しい」
「装備ですか?」
「あぁ、そうだ。お前さんらの腕はみた。それに見合うだけの業物が出来たら、貰っちゃくれねぇか?何、俺はマインモールド大公でありマインモールド工房の看板鍛冶師でもある。満足いく逸品で応えるさ」
「願ってもない事です。ありがとうございます」
なお、鉱山族流の宴で歓待された開拓団一行は、二日酔いでダウンした。出発は更に翌日に延期になった。
◆◆◆◆
翌朝、痛む頭を押さえつつ開拓団はマインモールド領を出発した。
今回は開拓団総勢63名に、鉱山族の土木魔法士、鍛冶職人、建築職人、付与術師など実に総勢300名規模の鉱山族が動員された。
マインモールド領到着初日にドノヴァンが防壁に空けた大穴はすっかり補修が済み、今では立派な門が備え付けられていた。
門を開いて送り出された開拓団一行と、鉱山族の職人、魔法士、付与術師、鉱夫らは≪樹海の魔境≫に出来上がった出来の悪い道を順調に進み、およそ2週間かけて領都予定地の第3ベースキャンプ場へと辿り着いた。
「……なんだ、ここは?水場もないがホントにここに領都を作るのか?」
訝しい視線を向けられユイエは、困った顔でドノヴァンを見返す。
「東西南北を結ぶ良い場所だと思ってここのつもりだったんですけど。変えた方が良いですかね?」
「近くに清流が流れているようなベースキャンプは無いのか?」
「山脈沿いの鉱山の方にはそういった立地のベースキャンプ場がありますが……魔物が多いですよ?」
「……なるほどな。それなら鉱山近くに鉱山都市を作って採掘現場の最前線にする。それとは別に領都を構える立地について再検討だ。≪魔境伯≫。お前さんの役割は≪樹海の魔境≫の魔物の間引きと魔物の氾濫が起こった時の対処だろう?もう少し皇都近くに寄せるか、皇都方面にマインモールド領の防壁レベルの長城を築いて対処が間に合うようにしつつ、皇都に近い場所に砦を作って最終防衛ラインを用意するべきだ」
「確かに……。東西南北を結ぶ交通の要所としてしか考えてませんでした」
「まぁ、それが悪い訳じゃねぇよ?東西南北どこにでも駆けつけ易いってのはお前さんの仕事柄重要な要素だろうしな。それより近場に良い水場はないんだな?」
「そうですね。濁った水場に近寄れば水中から噛り付いてくる鰐の魔物が居るような水場ならいくつかありますが」
「んなもん却下だ」
「あー、あと西に1つ戻ったベースキャンプだと、鉱山の辺りから流れてきてる比較的綺麗な川があります。水量としてはイマイチですけどね」
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