第1章 第28話 夏季仕事(6)夏の終わり
場所を謁見の間から応接室に移し、皇王陛下と宰相閣下にウェッジウルヴズ大公、アズライール伯爵、そしてドラグハート魔境伯となったユイエとその婚約者アーデルフィアが呼ばれていた。
「陛下、サプライズが過ぎるのではありませんか?物事には順序がありましょうに」
ユイエを≪魔境伯≫に任命する件を、事前に知らされていなかったウェッジウルヴズ大公とアズライール伯爵が困った顔をみせた。
「うむ、本当は≪樹海の魔境≫の開拓状況に合わせて陞爵させていく予定だったのだがな?いきなり山脈沿いにまで開発を進めるとは、こちらこそ聞いておらんと言いたい気分だったのだぞ?」
「その件はその……ご心労をお掛けしてしまいすみませんでした」
ユイエも困った顔でミヒャエルとエドワードに頭を下げた。
「まぁよい。縦断は終わったのだから次は横断してルートを切り拓いてみせよ」
「ハッ」
ユイエは背筋を伸ばし胸に手を当て応えた。
「……それと、ご報告が上がっているか分からないのですが」
アーデルフィアがちらりとリオンゲートとヨハネスをみて口を開いた。
「北の山脈に鉱脈の存在を確認いたしました。鉱山開発に信用をおける者をご紹介頂けないでしょうか?」
「鉱脈か。埋蔵量が如何ほどかは分らんが、まぁ鉱山開発ならマインモールド領の右に出る者はおるまい。協力について打診しておこう」
「よろしくお願いいたします」
二人はほっと肩の力を抜いたが、話しはそこで終わらず続いた。
「≪樹海の魔境≫を領土とする以上、ベースキャンプだけでは済まされんぞ?きちんと居を構えた、領都を拵えよ。これもマインモールド領に打診しておこう」
「ハッ。何から何までありがとうございます」
「なに、その代わりお主は≪樹海の魔境≫を切り拓き多くの資源をもたらすのだ。お主にしか頼めない仕事ぞ?」
「そうですな。夏季休暇はまだ1ヶ月と少し残っているだろう?明日から開拓団を再度率いて、西方への道を切り拓く様に。前回同様北門広場で午前中に集合で手配済みだ。マインモールド領と道で繋がれば、その後の話も早かろう」
やはりこの宰相、先手で手配済みの動きを事後承諾の流れでさらっと出してくる。
「……ハッ。承知いたしました」
◆◆◆◆
皇城を後にして、ウェッジウルヴズ大公家の屋敷へと戻ってきた後、探索者ギルドに顔を出して解体の進捗確認をする。まだまだ残っているらしいので、解体した素材が揃ったらマインモールド工房に渡して欲しいと一筆書いて搬送先をマインモールド工房に指定しておいた。
「いきなり振興貴族家の当主になった上に、夏季休暇がずっと仕事漬けになっちゃったわね?」
「そうだね。まぁ半分趣味みたいなものではあるけど」
「明日からまたあの面子と一緒に開拓作業でしょう?今夜は二人でゆっくり過ごしましょうよ」
「ん、良いね、そうしようか」
その後、二人は同じベッドで話しをしながら、寝落ちるまでゆったりとした時間を楽しんだ。
◆◆◆◆
翌朝、早朝訓練を済ませて朝食を済ませると北門広場へとやってきた。
土木工兵科からの21人は揃っていた。
「キンバリーさん、今回もよろしく」
「あぁ、こちらこそよろしく頼みます。≪魔境伯≫閣下」
キンバリーがにやりと笑って揶揄う。
「昨日の今日でもう広まってるんですか、それ」
「すごい勢いで広まってますよ?探索者ギルドの連中も知ってるかもしれませんね」
そんな事を話していると、なんと今回は探索者組36名が早々に全員揃っていた。
「ヴィックスさんもまたよろしく」
「わかりやした、≪魔境伯≫閣下!」
似合わない敬礼までして揶揄って来る。
「ははは……。本当に探索者にも話しが伝わってるんですね」
今回は朝の内に出発できたので、余裕をもって第1ベースキャンプに到着した。ここで1泊し、3日かけて第3ベースキャンプ場を目指す。第3ベースキャンプにまで着いたら西方方面への開拓をはじめる。第3ベースキャンプ場まで来ると大樹地帯である。大樹の伐採を考えていたが、土木工兵科のキンバリーが別の手段を見せてくれた。
樹魔法による樹木操作である。大樹が樹形霊になったように自ら這いずる様な速度で移動し、道を開けて行った。
「おお、これなら無駄に樹を切らずに開拓も出来て良いですね」
「その代わりこれを使える隊員が半分しかいませんので、負担が大きいんスよ」
と、キンバリーがぼやいていた。
大樹地帯を西へ進むにあたり、こうやって大樹を退かせて道を拓き進んで行った。大樹地帯は樹は大きいが樹の数自体は通常エリアよりずっと少ない。そのため、作業効率としてはいつも通りなペースで進んで行く事ができた。
4日道を拓いて1日ベースキャンプ作りをして1日休む。6日単位で1つのベースキャンプ作りが進むという感じである。西1番ベースキャンプ場作りからはじまった作業である。
星昌歴875年。9月の月初。
西5番ベースキャンプ場までが拓かれたところで、ユイエ達の夏季休暇が終了してしまった。
「夏季休暇が終わってしまった。学園の新学年がはじまるというのに仕事である。国家事業みたいなもんだから、きっと公休扱いだよね?単位足りずに留年とかないよね?」
ユイエがアーデルフィアに学園の不安を語ると、変なモノを見る目でみられた。
「もう現役の≪魔境伯≫当主でしょ?仕事優先で良いんじゃない?」
「だよね?はー、マインモールド領遠いなぁ」
現時点で皇領の西の端の方を通り過ぎたあたりだろうか。そろそろマインモールド領と隣接するあたりに来たはずだが、道はもう少し奥まで通してから南下する計画になっていた。
そこから更にベースキャンプを西に4つ進め、西9番ベースキャンプ場からようやく南下しに掛かった。南下をはじめると西南1番ベースキャンプ場から4つ目の西南4番ベースキャンプ場までが完成した次の進行で森を抜け、とうとうマインモールド領に到着した。
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