第1章 第26話 夏季仕事(4)山脈沿いの開拓
皇都を出て24日目。
4一行は第4ベースキャンプ場から北西に向かう道の開拓を進めていた。第4ベースキャンプ場から北西に向かうという事は山脈へと向かう事と同義である。
結構な頻度で翼竜や竜種が飛んでくるが、探索者部隊とウェッジウルヴズ家の一同で全て返り討ちにしていた。
「ウェッジウルヴズ家の騎士の練度もすげーけど。若と奥方は別格だな。人類ってこんなに強くなれるんだっけ?」
「そういや、ウェッジウルヴズ家の騎士の若と奥方と同じ甲冑着てる二人に聞いたんだけどよ、若と奥方とあの二人は探索者資格持ってる現役の探索者らしいぞ。それも皇都のギルド所属で」
「まじか、知らなかったな。ランクは聞いたか?」
「それがな?Cランクだそうだ……」
「はぁ?!ランク詐欺じゃねぇか!!」
「なんでもBランク以上になった時の義務を嫌がって昇格してないらしい。若と奥方、まだ学生さんだからな」
「あー……。それじゃ、学園を卒業するまでは仕方ねぇな」
「しかし、あれだけ強ければもっとギルド内でも噂になりそうなもんだけどな?」
「あれだよ、いつも認識阻害のフード被ってる4人組。≪黒彼岸花≫だったか」
「あぁ!!あのやべぇ奴らか!!腑に落ちたわ」
皇都を出て25日目。
一行は5番ベースキャンプ場の整地に取り掛かっていた。≪樹海の魔境≫の中にあって清流が流れる好立地である。川の氾濫でキャンプ地がやられぬよう、高台を作りその外周に堀と防壁を強固に作っていた。外枠が完成すると土木工兵科のメンバーが頑丈な建造物を瞬く間に建てていく。
この辺りの魔物で厄介なのは、やはり飛行する魔物が多い事である。上空からのカモフラージュのため生木をベースキャンプ内に敢えて放置したり、草木で屋根の上をカバーするなど、目立たぬ様に工夫していた。
皇都を出て26日目から30日。
5番ベースキャンプ場を前線基地として、山脈に土木工兵科の面々を連れて入り、試し掘りを繰り返した。試し掘りをして回った結果、見事に鉱脈に当たった。付き合ってくれた土木工兵科の面々に礼を言い、5番ベースキャンプ場へと帰還した。
本来なら山麓に作ったこの5番ベースキャンプも非常に危険な立地のはずであったが、このあたりが縄張りの青種の竜が何故か友好的で、人間に襲いかかってこなかった。それどころか、肉を焼いてやると喜んで食べていた。他色種の竜肉はユイエとアーデルフィアが同族喰いさせるのに忌避感を覚えたため、与える肉は専ら獣系の魔物の焼いた肉のみにした。
今は友好関係が築けた事を喜んでいるが、将来的に青種の竜と共生関係を築きたい。青種の竜を乗騎にした偵察隊や航空戦力、空輸便なども展開出来るのではないかと、ユイエとアーデルフィアが夢を語っていた。
皇都を出て31日目から34日。
5番ベースキャンプ場から鉱脈周辺の調査と害獣駆除も済み、更に西を調べるか、東を調べるかで一時悩んだが、まずはこのまま西へ向かってみる事にした。先行偵察として最小限の人員4名で向かい、様子を窺ってから道を作るかどうかを判断するという計画だった。
西側へ進んで行くと山清水が川となった清流もあり、ここでもアーデルフィアが鉱物反応を見付けて思わずガッツポーズをしていた。山脈側からは青種の竜が様子を窺いに降りて来るのだが、ここでも戦闘にはならなかった。基本的に人間に友好的な種族なのかもしれない。
最初に見つけた鉱脈を掘り尽くしたら西の鉱脈を開拓する計画を立てる事を計画しておく事にした。5番ベースキャンプ場に戻ると一旦西側の様子を窺った結果を共有し、今度は東側への先行偵察を出した。
皇都を出て35日目から40日目。
5番ベースキャンプ場を出て東へ向かうと、好戦的な緑種と赤種、黄種の竜が住むエリアに入る。近付く度に襲ってくるため背嚢型の魔法の鞄も直ぐに満タンになってしまい、鞄を取り替えるのに5番キャンプ場に戻るという行ったり来たりを繰り返す羽目になった。ここに来て持って来た大型魔法の鞄の殆どが満タンになってしまった。
ユイエ達一行は仕方なしに5番ベースキャンプ場から皇都へと一度帰還することにした。
皇都を出て40日目から45日目。
行きに作った道を通って帰ったため帰りは順調に進み、5日と半日程で皇都へと帰り着いた。これが魔馬車ならもっと早く到着できるのだが、数を揃えるために普通の馬も使っているため各ベースキャンプ場で停車する進行である。
先ずは探索者ギルドに寄って生ものである竜達の解体依頼をし、マインモールド工房が欲しがる鍛冶素材だけ受け取りとする。時間の経った肉は内臓抜きや血抜きをしてしまっているが、その他の比較的新鮮な状態で持って帰れた竜の肉や内臓系などは探索者ギルドに売却を頼んだ。解体手数料はその売上から差し引いて振込んでもらい、鍛冶素材になる部位はマインモールド工房に卸してもらう前と同じ手続きとした。
今回の遠征に付き合ってくれた土木工兵科の面々と探索者達にあれこれ口止めはしてあるが、漏れる時は漏れるだろう。
とりあえず彼らの今回の働きに報いるために、今日は参加者一同に飲み放題・食べ放題、緑種の竜肉も捌き次第で1頭分を食べ放題として提供した。ギルドのスタッフにも緑種の竜肉を捌き次第食べ放題の仲間に入ってもらう様に取り計らうと、竜種の山をみて絶望していた解体場のスタッフ達も俄かに活気づいていた。こんなもので士気が上がってちゃんとした仕事をしてもらえるのであれば安い物である。
それらの手配が済むと、次はマインモールド家の工房に顔を出した。すっかりVIP扱いとなっており、ユイエ達を見付けた店員がゼッペルとライゼルリッヒを呼び出して応接室に通された。
「お久しぶりでございますね。夏季休暇の遠征はどうでしたか?」
「あぁ、お土産を大量に持って帰って来たよ。先にギルドで解体を依頼してきたから現物は持っていないが、マインモールド工房で欲しがる素材はすべて素材の状態での引き渡しを依頼したので、前と同じくらいは納品できる見込みだよ」
「前と同じくらい……ですか?ちなみに如何ほど……?」
「赤種、緑種、黄種で全部で多分100頭以上だろうか?」
「ひゃ、100以上ですか?!」
ライゼルリッヒが開いた顎が閉まらない様子になり、ゼッペルは慌てて退室すると、職人のガイエンと付与師のアウルクを連れて戻ってきた。
「おう、作った装備はどうだった?良い出来に仕上がっていただろう?」
マインモールド領の工房から出張できている職人のガイエンと付与師のアウルクがにこやかにやってきた。
「お二人ともその節は大変お世話になりました。お陰様で満足のいく武装を整えられ、今回の遠征で大活躍でした」
「おう、そうかそうか!」
いい仕事が出来たとガイエンとアウルクは職人冥利に尽きるとばかりに喜びを現していた。
「今回、赤種、緑種、黄種で合計100頭以上は狩って来たので、探索者ギルドの解体が終わったらまたお持ちしますね」
「は?ひゃ、ひゃく以上?また??」
ライゼルリッヒと似たような呆けた顔になっている。アウルクは無に至った表情をしている。
「ははは、気持ちよく取引させてもらったお礼ですよ?もしご迷惑だったり不要なのであれば、売却先は他の系列に当たってみることにしますので、その時は仰ってください」
ユイエ一行が退店すると、領都のマインモールド工房に更なる職人と付与師の応援派遣の嘆願が早馬でマインモールド工房の本店へと向かって行った。
『竜素材供給過多につき、すぐに追加の職人と付与師を増員して欲しい。でなければ我々は過労死するであろう』
嘆願というよりかは悲鳴であった。
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