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第1章 第25話 夏季仕事(3)竜《ドラゴン》ステーキ

 ベースキャンプに着くと探索者シーカー組と土木工兵科の皆が出迎えてくれた。


「留守の守り、ご苦労様。今日の戦果は魔法の鞄(マジック・バッグ)8個分だ」


 皆が見守る中、魔法の鞄(マジック・バッグ)からドラゴン種の死骸を取り出して積み上げていく。


 赤種22頭、緑種14頭、黄種34頭、計70頭が本日の成果だった。留守番組だった皆がどよめきをあげる中、ユイエが探索者シーカー達に訊く。

 

ドラゴン種を捌ける者はいるか?」


 訊いてみると、ヴィックスをはじめAランクの探索者シーカー達が手を上げたので、捌くのを任せた。


「緑種のドラゴンの肉を1頭分、捌き終わったら皆でドラゴン肉のステーキで宴会だ」


 高級食材のドラゴン肉のステーキを皆に振る舞い、楽しんだ。


ドラゴン肉はじめて食べました」

「生きてる時はあんなに硬くて喰えたもんじゃない雰囲気なのに。なんで食材になるとこんなに蕩ける柔らかさなんだろうな?」

「ウェッジウルヴズ家にカンパーイ!」

 今日の不寝番は酒を禁止したが、不寝番のない物はドラゴン肉のステーキを食べながら酒を飲んで御機嫌になっていた。


 皆が楽しく宴会をしている中、アーデルフィアとユイエは場を抜け出してベースキャンプの外にやってきた。そこには森の中からこちらを窺う青い鱗のドラグーンがいる。


「お前まだいたのか?ドラゴン肉あるけど喰うか?」


 皿に乗せたドラゴン肉のステーキを出してやると、スンスンと匂いを嗅いでペロリとたいらげた。

 青い鱗のドラグーンは鬣がぶわっと逆立ったようになりながら肉のなくなった皿を舐めていた。


「美味かったか?お替わりも持って来てやろう」


 ユイエが宴会場と化したベースキャンプに戻り、手つかずだった巨大な肉塊を魔法の鞄(マジック・バッグ)にしまって戻り、青いドラグーンに焼いて出してやった。


 ドラグーンも嬉しいと尻尾を振るんだなぁと思いつつ嬉しそうに食べる姿を眺めていると、肉を食べ終わったドラグーンは森の奥へと飛んで帰って行った。


◆◆◆◆


 翌朝、馬車で目覚めたユイエが起きると、アーデルフィアにホールドされていた。顔が接するほどに近い位置にあり、改めてこの幼馴染は美人だなぁ、と感じていた。

 いや、今は幼馴染でありつつ婚約者でもあるのか。そう思うと急に意識しだして心臓が破裂するんじゃないかという程に鼓動が早くなった。自分自身で熱を感じる程に顔が赤くなっていることを自覚する。


 すると、胸元に張り付いていた幼馴染の手がピクリと動き、薄っすらと目を開けてにやりと笑った。


「おはようございます。旦那様?動悸が激しくお顔も真っ赤ですよ?」

「生理現象です。気にしないでください」

「口調」

「魅力的な婚約者にくっつかれてるんだ、仕方ないだろう」

「ん、まぁ合格かな?ユイエ君はいくつになっても可愛いねぇ。おねぇさんドキドキしちゃうわ」

「1ヶ月しか変わらないでしょうに……」

「口調」

「1ヶ月しか変わらないだろう?」

「あー、そうだ。愛称で呼んでくれない?」

「愛称?アディ?アーデ?」

「んー、家族からはアディだから、ユイエ君はアーデって呼んでよ」

「わかったよ、アーデ」


◆◆◆◆


 昨日の戦果となったドラゴンの死骸は別の背嚢型の魔法の鞄(マジック・バッグ)にすべて移し、空になった魔法の鞄(マジック・バッグ)を背負って森に入っていく。


 開拓中のベースキャンプではヴィックスをはじめドラゴンの解体を任せられる者達に血抜きと内臓抜き、魔法で出した氷水で肉を冷ましてなるべく良い鮮度で皇都へと持ち帰る事が出来るように仕事を頼んでいた。


 昨日は真っ直ぐ北に向かった場所で戦ったが、今回は西側の方へと足を向けてみた。すると、山脈から流れてくる澄んだ清流に行き当たった。この川辺には魔物の反応が無かったため、川辺でしばらく食事休憩をとっていると、アーデルフィアが唐突に立ち上がり、川辺を覗き込んだ。


「やー、これは朗報だよユイエ君」

 何か良い物でも見付けたのかと、ユイエがアーデルフィアの方に寄ってみる。アーデルフィアが振り返ってニヤリと笑っていた。

「アーデ、どうした?」

「川の中にね、砂金、砂天銀(ミスリル)、砂神鉄鋼(アダマンタイト)が混じってる」

「……≪鑑定≫結果で確かなんだな?」

「うん、もちろん鑑定したさ」

「という事は……」

「川の上流に、手付かずの鉱物資源が眠っている。そして陛下は私達に切り拓き次第領土として認めると明言されている」


「なんだかすごい話になってきましたね」

 メイヴィルが遠くをみえる目で他人事のように呟く。

「次は山の方まで確認しに行く感じかね」

 サイラスも聞いた機密情報の重大さに目が遠くを見る目になっていた。


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