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第1章 第20話 お迎え

星昌歴せいしょうれき875年。春学期も終わりに近付いた5月の下旬。


 ウェッジウルヴズ家に皇家の家紋の入った黒塗りの馬車がやってきた。乗っていたのは皇室からの使いの者で、用件はアーデルフィアとユイエに対する召喚状であった。


 “皇室から”という事で、皇都に来ていたウェッジウルヴズの大公リオンゲートと、アズライール伯爵のヨハネスも同行する事になった。


「お前たち、皇室からの呼び出しとか只事ではないぞ。一体何をやらかしたんだ?」


とリオンゲートに睨まれてしまった。


「守秘義務です。悪い内容ではない、と思いますよ」


 ユイエとしては世話になっている両家の父達に情報を伝えて良い物か悩み、何とかそれだけ答え、皇城に連れられるままやってきた。


 男女別の待機室に通され、皇城から貸し出しの礼服へと着替えさせられる。


「礼服に着替えての謁見ならそう悪い話ではないだろうが……。本当に何をやったのだ。聞いておらんぞ」


 着付けをしつつリオンゲートに再び「守秘義務です」と答えて苦笑いを見せるだけで、質問には答えられぬユイエであった。


 礼服への着替えを終えるとアーデルフィアも合流して別の待機室にて待機となる。その間に謁見時の礼儀作法に関してユイエとアーデルフィアに話して聞かせておく。しばらく後、案内の騎士がやってきて謁見の間へと通された。



 赤絨毯の左右に貴族と騎士が並び、赤絨毯は皇王と皇妃の両陛下の元へと続いていた。また、皇妃陛下の隣にはユイエとアーデルフィアと近しい年頃で、如何にも皇女殿下という佇まいの少女カミュラが立ち、柔らかく微笑みを浮かべている。皇帝陛下の隣にはこの国の宰相であるエドワード・フォン・リカインドが立っている。


 事前に訊いていた礼儀作法に則り、リオンゲートとヨハネスの後に続いて進んで行き、片膝をついて頭を下げる臣下の礼をとった。


「面をあげよ」

 陛下からのお声がけで顔を上げ、しかし視線は陛下の足元の辺りに向けたままで畏まる。一拍間を空けてエドワード・フォン・リカインド宰相が声を張り上げて宣言する。


「アーデルフィア・ウェッジウルヴズおよびユイエ・アズライールの献身により、原因不明の死病であった≪魔力炉融解症≫が解き明かされ、魔力マナを枯渇させる延命手段、ならびにドラゴン種などの心臓を用いた魔法儀式での根治手段を確立した功績を称え、ここに双頭蛇杖勲章そうとうだじょうくんしょうを両名に授与するものとする」


「「ハッ!ありがたき幸せにございます!」」


 アーデルフィアとユイエが声を合わせて頭を下げ、受勲を受け入れた。


「更に。此度は≪魔力炉融解症≫を患ったカミュラ皇女殿下の命を救うべく、≪樹海の魔境≫を踏破し山脈沿いのドラゴン種を狩り、その心臓を持ち帰る事でカミュラ皇女殿下の患いを完治させた功績を表し、天銀ミスリル剣翼勲章けんよくくんしょうを授与するものとする」


「「ハッ!ありがたき幸せにございます!」」


「これらの功績により、アーデルフィア・ウェッジウルヴズとユイエ・アズライールの婚約にあたり、皇室が後ろ盾となって協力する事を宣言する」


「「はぁっ?あ、ありがたき、幸せにございます?」」


「就いては、両名に皇領である≪樹海の魔境≫を切り拓き次第の授与を約束する。≪樹海の魔境≫を見事切り拓き、領地を発展させてみせよ。両名のこれからの働きに大いに期待する」


「「えぇ……(困惑)」」




 この後、別室に移り、カミュラ皇女とミヒャエル皇王陛下、エドワード宰相まで参席しての会議、という名の事後報告が行われた。領地を切り拓いた分の土地を領土とするにあたり、優秀な文官は皇城から派遣して貰えるらしい。


 学園卒業後の進路を気ままな探索者シーカー稼業を候補としていたのに、外堀を埋められ領土の開拓と運営が課されてしまった。

 いや、もしかしなくても国家からの流出を見越して逃がさぬように柵で囲われたというべきだろうか。


「爵位は領土を切り拓き次第で授与する故、心配する事はない」

 ミヒャエル陛下がしてやったりという顔で上機嫌に笑い続けていた。


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