第1章 第15話 春季休暇≪皇都帰還後≫(2)
マインモールド工房の倉庫に出した竜素材を全て回収し、探索者ギルドに解体依頼で持ち込んだ。
「俺は君たちの担当者って訳じゃないはずなんだが。なんでだろうな?」
受付嬢に呼び出されたバイアンが「解せぬ」という顔でやってきた。
「解体依頼の内容が問題だからだとおもいますけど?」
ユイエがそう返して、解体場にバイアンを連れて向かった。
「で、今回はどんな厄介事を?」
バイアンが嫌そうな顔で訊いてくる。
「解体依頼にきただけですよ?緑種と赤種の竜を6頭ずつ、計12頭の」
解体場の一画に背嚢型の魔法の鞄から出した竜を並べると、バイアンが疲れ目かな?という感じで目頭を揉み解していた。
「うん、わかる。これなら呼ばれるわ」
「解体の依頼はこの12頭ですが、武具の素材となる部位は全て現物で回収したいのです。武具の素材とならない肉や内臓に関しては、探索者ギルドで買い取りをお願いします。解体手数料はその販売利益から差し引いて下さい」
「内容については理解した。肉や内臓は鮮度が命だからな。解体師達に残業させて対応させるよ」
「ブラックですね?」
「鮮度落として買い取り金額が下がっても同じ事いえる?」
「がんばってください」
ギルドへの解体依頼を終え、素材の受け取りは春季休暇15日目、三月の末日となった。肉や内臓の買い取り額については査定が終わり次第、口座振込で合意した。
一方、マインモールド工房の皇都店からマインモールド領の本店に、この取引の報告が行われた。腕利きの職人と付与師を皇都店に応援で寄越して欲しい、という嘆願が込められている。
実際問題として、マインモールド領でしか加工出来ないとなると素材と完成品の搬送に掛かるリスクが高過ぎる。
緑種の竜6頭、赤種の竜6頭、素材の状態も大変良い物であるとくれば、本店に籠りっきりの職人達を動かすにのに十分な内容だった。
そして更にもう1つの利害関係者がこの件に絡む事になるのだが、この時点のアーデルフィア達には窺い知ることのできない話であった。
◆◆◆◆
春季休暇15日目。3月の末日。
春季休暇の最終日。本日は探索者ギルドに素材の受け取りに行く日である。サイラスとメイヴィルを連れて背嚢型の魔法の鞄を4つ持参し、ギルドに顔をだした。 ユイエ達を見付けた受付嬢がギルドマスターに報告に走り、ギルドマスターのバイアンを連れて戻ってくる。
「解体はギリギリ終わったよ。解体場に行こうか」
バイアンの先導で施錠された解体場に入り、バラされた素材を確認する。正直、解体のビフォー・アフターを見せられてもこれで正しいのかどうか分からないのだが、バイアンを信じる事にして素材を全て回収した。
「あと肉や内臓は売上が上がったらまとめて振込する。しばらく待っててくれ」
「わかりました」
「あ、そうだ。心臓の買取希望の客で、アーデルフィア公女殿下に直接指名依頼したい事があるらしい。どうする?」
「心臓の買い取りで私に、ですか。それは会った方が良さそうな案件ですね……」
アーデルフィアがユイエを横目に見てから頷いた。
「そうかい。話が早くて助かるよ。指名依頼の形で書類を作るから、それ持って受付に行ってくれ」
「わかったわ」
素材の回収が終わるとギルドマスターの執務室に移動し、指名依頼の依頼票を作成して手渡された。
「一階の受付でそれをみせて指名依頼を受けると言えば処理してくれる。なるべく早く頼むぞ」
バイアンの真剣な顔に頷き返すと1階へと降りて行った。
1階の受付で指名依頼を受ける旨を伝えると、呼び出し元の情報について紙で渡された。それをみてアーデルフィアが天井を仰ぐ。
「(え~……。皇室案件だこれ)」
思わぬところからの呼び出しに見なかった事にしたくなったが、今更やっぱり止めますは通じない。指名依頼を受諾すると、マインモールド工房に先に顔を出した。
「こんにちは。ゼッペルさん、例の素材を持ってきました。ライゼルリッヒ店長はおられますか?」
馴染みの店員ことゼッペル氏に挨拶をすると、店長のライゼルリッヒを呼んでもらう。ライゼルリッヒ店長に倉庫に案内してもらった。そこに解体された素材を緑種の各素材と赤種の各素材をそれぞれ別にしてまとめ、置いて行く。
ライゼルリッヒが納品された素材の品質チェックをして満足そうに頷き、対価について話しをしようとしたところで待ったを掛けた。
「すみません、探索者稼業の方で緊急の指名依頼を受けてまして。先に行かねばならない用事が出来てしまいました。そちらの案件が終わったらまた顔を出しますので、検品と見積書を作っておいてもらえると助かります」
「かしこまりました」
ライゼルリッヒに後の事を任せて、アーデルフィア達一行は店舗から出ると屋敷に戻り、服装を着替えて必要になるであろう魔道具を背嚢型の魔法の鞄に収納すると家紋入りの馬車で登城する準備をした。
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