第1章 第12話 春季休暇≪樹海の魔境≫(1)
星昌歴875年3月中旬。
1学年の冬学期の終了式を終えた翌日、春季休暇1日目。
いつもの腰に付けた魔法の鞄の他に、各自が背嚢型の大容量の魔法の鞄を背負って≪樹海の魔境≫へと向かった。
ベースキャンプに残る何時もの3人にも、背嚢型の大容量の魔法の鞄を持たせている。長期休暇である今回は樹海の奥で連泊する予定のため、食料をはじめ準備は入念に行っている。
設置した周囲に認識阻害の結界を張って魔物に見つかり難くする結界魔道具、地味ながら厄介な虫除けの効果のある首飾り型の魔道具など、今回の探索では普段使っていなかった道具も用意している。
今までは放置するか埋葬していた魔物の死骸も、今回は血抜きと内臓抜きをして【清浄】し、氷魔法や水魔法で冷やして食肉に加工する事も考えている。
これらは魔物学の講義で馬、鹿、牛、猪、熊などの動物型の魔物の肉は、食肉にも適していると学んだためだ。
講義の一環で何度か動物型の魔物の捌き方も実習で経験している。あまり上手ではないかも知れないが、保存食の干し肉だけでは味気ないという思いが強かった。食事に満足できない時のストレスは馬鹿に出来ないのだ。パンは保存が利くが硬くてマズい黒パンで我慢する。これもスープ料理に漬けて食べればそれなりに柔らかくなり食べやすくなるので、食べ方で工夫する所存である。
「それでは、行って来ます」
ベースキャンプをジョセフ、マーカス、ポールの3人に任せ、4人で森の深部に向かって歩いて行く。
今回はあくまで深部の魔物狩りと素材を目的としているので、浅い場所では【魔力探査】で魔物の反応を避け、無駄な戦闘を省く方針である。避け切れない魔物だけ倒して進んで行く。進行スピード優先のため、浅い箇所の魔物は倒しても素材を回収せず、土魔法で埋葬するか放置して獣の餌になってもらう。
何時もの狩りと違って剥ぎ取りに時間を使わず進行を優先しているため、午後の早い段階で上位豚鬼の出る一帯に入った。【消臭】と【気流操作】で接触を避けつつ進む。魔物の配置的に避け切れない集団だけ倒し、【消臭】しながら土魔法で埋めておいた。
「流石に進行が早いわね」
「そうですね。でもそろそろ野営する場所も探しながら進まないと、陽が落ちちゃいますよ」
それからしばらく進むと植生が変わったのか、大樹が増えてきた。
「≪神樹の森≫みたいになってきたわね」
「確かに樹の大きさは似てますね」
アーデルフィアの感想にサイラスが頷く。メイヴィルは周辺をきょろきょろと見渡していた。
「あ、良い樹がありました」
メイヴィルが指差している方向をみやると、洞の大きな樹がみつかった。
「お、野営に丁度良いな」
サイラスもその洞に関心を示したため、皆で大樹の洞まで移動して中を確かめてみる。大人が3人並んで座れるくらいの大きさの洞だった。
「今日はここで休みませんか?」
メイヴィルの野営の提案に皆で承諾し、洞をベースに野営準備をはじめた。天幕は設営せず、寝る人は樹の洞で毛布に包まって寝る事にする。洞の外に火を熾して3交代で不寝番である。
最初にユイエとアーデルフィア、メイヴィルが眠り、サイラスが火の番と周辺の警戒を行う。3時間程でサイラスとメイヴィルが不寝番を交代し、そこから3時間後にメイヴィルがユイエとアーデルフィアの二人組に不寝番を交代する。サイラスとメイヴィルが起きるまで、二人で火の番と周辺の警戒である。
明け方にアーデルフィアの【魔力探査】に魔物の反応があったのだが、ユイエが感知出来る程に近くには来なかった。
春季休暇2日目。
全員が起きたところで野菜スープを作って黒パンを浸しながらの朝食を摂り、食後から探索を再開した。
大樹の多い地帯では魔物も大きな獣タイプが多かった。巨大な鹿型と巨大な猪型の魔物を見付け試し狩りしてみるが、特に苦戦する事もないまま天銀合金の小剣で首を斬り裂いて倒すことができた。
その2頭は樹魔法で樹に逆さ吊りにしながら血抜き、内臓抜き、魔石の取り出し、毛皮剥ぎを行った。氷魔法と水魔法で肉を冷やしながらの作業である。
抜いた内臓は早々に土魔法で埋めておいた。魔石と毛皮は売却のために背嚢型の魔法の鞄にしまっておく。肉は後で食べやすい様にブロック毎に切り分けをして、大きな葉で包んで背嚢の魔法の鞄にしまっておいた。
午前中は2頭の討伐と解体作業で潰れてしまった。解体した熊肉を焼いて昼食にする。岩塩を削ってかけただけの簡単な串焼きだった。ジビエ臭がキツく、肉も硬い。食肉としてはイマイチな出来であったが、保存食と比べればマシと思えた。
食後、大樹の森の一帯を更に北上していく。
「≪樹海の魔境≫の先って何があるんだっけ?」
アーデルフィアが誰に訊くともなく訊ねた。
「山脈がありますね」
「山脈」
「アマツハラ皇国の北の国境は殆ど山脈ですよ」
メイヴィルが答え、サイラスが補足してくれた。
「山脈越えがただでさえ大変なのに、『亜』の付かない龍や竜が出るので、北側の隣国がアマツハラ皇国に手を出して来れないんです。同時にアマツハラ皇国が北側の隣国に仕掛けない理由にもなっています」
「なるほど。北側に辺境伯がないのはそういう事情があるのね」
「そういう事です。辺境伯の代わりに皇領扱いですから、何かあれば皇国軍が動く感じですね」
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