第1章 第7話 高威力魔法の実習
年始早々に≪樹海の魔境≫に行き、自分達の課題を見つけたユイエとアーデルフィアは、課題解決の糸口としてレミュー・サイフォン講師に高威力魔法の実演を請い、第3演習場にやってきた。
「そうだね、まずは約束通り君達の今の魔法を見せてもらいたいな。火・土・氷・雷あたりで使えるのは一通り見せておくれ。ここは結界もしっかりしているし遮音で泣いても喚いても外に音は漏れない。思いっきりやっちゃって」
レミュー・サイフォン講師に指示されるまま、ユイエが先に、アーデルフィアが次に、それぞれの魔法を標的の魔法装置に撃ち込んでいった。
レミュー講師はそれぞれの魔法の測定結果を確認し、紙に記録を付けている。
「ふむ。これが今の君達の実力って事だね。それでは次は私の番かな」
レミュー講師がユイエとアーデルフィアにみせるため、あえてゆっくり丁寧に魔力を熾して式を構築し、火・土・氷・雷の順で高威力魔法を撃ってみせる。
火魔法では【劫火】。火花が弾けたと思った瞬間、標的が業火に包まれ、熱せられた空気が歪んでみえる程の熱量を放つ。
土魔法では【穿陣】。標的の周囲、四方八方から鉱石質な鋭い槍が現れ囲い込み穿つ陣を形勢する魔法。
氷魔法では【氷牢】。穿陣の氷槍版という様子で、刺さった場所から凍結し氷の中に閉じ込める魔法。
雷魔法では【雷閃】。発射と着弾が殆ど同時の紫電の槍が走り標的に当たって弾け、しばしの間、帯電をみせる。
レミュー講師がユイエとアーデルフィアに振り向いて問う。
「丁寧に魔力を熾して式の構築もゆっくり実演してみたけど、どうだった?」
「参考になりました。魔物か人間相手で効果まで視れたらもっと良かったんですけど」
「そうね。行動阻害系の追加効果とか、標的が魔法装置じゃ良く分からないわね」
「ふむ。物足りなさそうなのは残念だけど、参考になったなら今度は君達の変化をみせて欲しいな」
レミュー講師が立ち位置を譲る。
「まずは私からいきます」
ユイエが進み出て宣言し、左手を標的に向けて集中した。
「【劫火】」
標的の周囲に舞った火花が一瞬で業火となり、標的を包む柱となった。
「【穿陣】」
標的の周囲に鉱石質の円錐状の槍が囲い込み穿って縫い留めようと陣を成す。
「【氷牢】」
標的の周囲に氷槍が飛び出し、無数の槍が穿陣のように行動阻害と凍結による牢獄を形成する。
「【雷閃】」
狙った場所を穿つ意思を込めた瞬間、同時に紫電が走り標的に着弾すると弾け帯電を残した。
レミュー講師がみせた魔法と全く同じではないが、見かけ上はほぼ再現された魔法を放てた。
「良いね……。みせただけなのにこんなに変わるのかい?ちょっと記録させてね」
レミュー講師は観測装置の結果をアフターのサンプルAとして紙に記録した。記入が終わったところでレミューはアーデルフィアに振り向いた。アーデルフィアはレミューに頷き返し、ユイエと同じように魔法を再現していく。
その際、アーデルフィアは炎はより熱く、鉱石質の槍はより鋭く丈夫に、氷牢はより低温で一瞬で氷結するように。雷はより大きく高温で轟くように。
それぞれの観測結果が、すべてユイエを上回って数値に現れた。
「アハハハッ!アーデルフィア・ウェッジウルヴズッ!良いね、すごく良いよ!ユイエ君より全てが高威力、炎に至っては私の【劫火】を越えてるよ!!」
「あ、ありがとうございます?レミュー講師の実演の賜物です」
興奮したレミュー講師がアーデルフィアの両手を掴み、バグった距離感で叫んで笑う。
「見せただけ。良いかい、ゆっくり丁寧にと意識はしたが、私は君たちに一度ずつ見せただけなんだ。それでここまで結果を寄せて来るとは心底驚いたよ。あぁ、勘違いしないで欲しいんだけど、ユイエ君の結果も非凡だからね?見ただけで3年生の上位層並の威力に上がってるんだ。誇っていい!」
ユイエとしてはアーデルフィアに及ばないのは無意識に受け入れていた。だからその差に落胆する事もなかったのだが、レミュー講師に3年生の上澄みレベルだと言われ、そこは素直に喜んだ。これなら卒業後の進路に魔法士という選択肢を追加できるだろう。
「あぁ、そうだ。君たちの目下の標的は苔むした甲羅の大亀なんだよね?それなら氷で攻めると良い。氷結魔法で極端に鈍くなるし弱点なんじゃないかな」
「なるほど、ありがとうございます」
「次に遭ったら氷漬けにしてやりますね」
ユイエとアーデルフィアがレミュー講師に礼を述べる。
「いや、こちらこそ面白い実験結果を得られたのだから感謝したいくらいさ。まぁ他の生徒は見せただけで模倣なんか出来やしないだろうから、再現性は極めて低いだろうけどね。再現性を高めている要因が何なのか、君達で色々と実験したいくらいだよ」
「それは嫌です。ごめんなさい」
「感謝はしてますけど、お断りします」
ユイエとアーデルフィアがそれぞれきっぱり断わりを入れ、立礼をすると第3演習場を立ち去っていった。
「あぁ、行っちゃった。結構真面目に研究してみたいんだけどな。彼ら独自の理論について深掘りできれば魔法士教育に革命が起こせそうだというのに」
レミュー講師はガクッと肩を落とすが、教育理論の再検討について研究する余地がある事がわかっただけでも儲けものだと考えを変え、鼻歌混じりで研究室へと引き上げて行った。
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