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第1章 第4話 週末の探索者《シーカー》活動(2)

 大蛇サーペントを倒した地点から東に向かって【魔力マナ探査】で獲物を探して歩いていると、この深さにも関わらず豚鬼オークの集団が見つかった。

 豚鬼オークは嗅覚が優れているため【風操作】の魔法で自分達の匂いを上空に流しつつ、遠巻きに観察する。


「Bランクの深さのところに豚鬼オーク?何だか不自然ね」

 アーデルフィアが眉根を寄せる。

「そうですね。上位個体に率いられた集団じゃないでしょうか?」

 サイラスが経験上からの推測を話すと、メイヴィルが同意した。

「奥に他の豚鬼オーク達より体躯の大きな固体が何体かいます。やはり上位個体に率いられた集団ですね」

「上位個体……。豚鬼オーク将軍ジェネラル級とかキング級とかですか?」

 ユイエが魔物学で学んだ知識を思い出しつつ訊ねた。

「ちょっと待ってね、≪鑑定≫してみるわ」

 アーデルフィアが遠くまで見渡すために樹上に上って豚鬼オークの集団を観察する。


将軍ジェネラル級4体とキング級が1体いるわ。結構強いわね……。これは見つからない様に撤退しましょう」

「それはマズいですね……。【消臭】で匂いを消しながら戻りましょうか」

 サイラスが4人に【消臭】の魔法をかけながら撤退していった。

豚鬼オークでもキング級がいる群れなら探索者シーカーズギルドに報告が必要ですよね?」

 ユイエがサイラスに訊くと、サイラスは首肯した。

「そうだったと思います。上位個体がいる群れは連携が高度になりますし、豚鬼オークたちの戦闘力自体もキング級の支配効果で向上しますから、騎士団でも人数を揃えてしっかり準備をして討伐に出ないと危ないレベルですよ」


 アーデルフィアが樹から降りて来て合流すると、豚鬼オークの集団とは逆方向へと撤退して行った。


 ユイエ達が大蛇サーペントを倒したポイントまで戻って来ると、大蛇サーペントの死骸に群がっていた大狼ハイ・ウルフ達と戦闘になった。


「別に餌を横取りしたりしないから、襲ってこないで欲しいですね……」


 何頭か返り討ちにすると、残った大狼ハイ・ウルフ達は逃げて行った。

 大蛇サーペントの死骸を目印に南へ戻っていき、魔馬車のベースキャンプに戻って来た。この頃には夕刻近くになっていたため、本日はベースキャンプで野営である。


 夕食の野営飯を食べつつ、護衛の騎士達3人にも豚鬼オークの群れの件を話し、注意喚起をしておく。もし豚鬼オークの群れが南下してきたら、魔馬車で皇都に逃げて探索者シーカーズギルドに報告するようにと言い含めておいた。明日の探索帰りにこの場所に魔馬車がいなければ、豚鬼オークの群れが南にやってきたと判断して徒歩で帰る事を宣言しておく。


 今回は魔馬の護衛に来た耳長族エルフの騎士のマーカスとポール、ジョセフの3名が居るため、ユイエとアーデルフィアは不寝番を免除された。ありがたく馬車でゆっくりと眠る事が出来た。



 翌朝、例によってアーデルフィアにホールドされた状態で目を覚ました。健全な思春期男子的にこういうのはいい加減マズいのだ。特に寝起きの生理現象とか。ナニがとはいえないが当たらない様に身じろぎしてから生理現象が落ち着くまで待ち、アーデルフィアの背中をタップして起こしにかかった。


「……んんっ おはよう、ユイエ君」

「おはようございます、アーデルフィア様」


 二人は起きると脱いでいた甲冑を着直し、馬車を降りた。護衛に付いて来たジョゼフが火の不寝番をしていた。


「おはようございます、ジョゼフさん。特に変わりなかったですか?」

「おはようございます。特に魔物が寄って来る事もなかったですよ」


 何事もなかったのならそれで良いかと朝の食事の準備に取り掛かる。すこし遅れてメイヴィルとサイラスも天幕から出てきた。


 朝食を保存食で済ませると、本日は昨日の大蛇サーペントの死骸の位置から西側へと回ってみる事にする。


魔力マナ探査】で警戒しながら進んで行くと昨日みた苔むした甲羅の大亀が居たため、迂回して進む。


しばらく歩くと、熊なのか兎なのか良く分からない大型の獣が現れた。体格的には熊にみえるのだが、耳が長く逆立っており、兎のようにもみえる。


「あ、魔物学の教科書でみましたね。名前覚えてないですけど」

「≪鑑定≫だと大熊デッドリー・ベアより若干強いかしら?まぁ問題ないわね」

「それじゃ戦ってみましょう」


 左右に分かれて近付いていくと、2足立ちになって咆哮を上げた。2足立ちで威嚇する様もやはり熊なのだが、後ろ脚が発達している様で兎のように跳躍して襲い掛かって来た。着地点からパッと散開しつつ、正面に立たないように回り込みながら刺突を中心にして攻める。


 後ろ脚は発達した筋肉のせいか、刃の通りがあまり良くない。逆に上半身側は大熊デッドリー・ベアより刃の通りが良かった。


 上半身への攻撃が有効な事を確認すると、兎熊の首筋に小剣を突き立てると刃がずぶりと沈み、程なくして兎熊は絶命した。


「毛皮がそれなりの価格で売れるみたいです。一応剥いでおきますか」


 図鑑によると名称は兎熊バニー・ベアー、討伐証明部位は大熊デッドリー・ベアと同じで右前足の掌だった。右前足の掌を切断し、持ち帰る事にした。続いて魔石を摘出して毛皮を剥ぎにかかる。剥いだ毛皮と持ち帰る右前足は【清浄】して魔法の鞄(マジック・バッグ)に仕舞い込んだ。


 その後、西側の探索を続けていって大蛇サーペント2匹、兎熊を1頭、大食鬼トロールを2体、大狼ハイ・ウルフを6頭狩ったところで狩りを切り上げ、ベースキャンプへと帰って行く。


 豚鬼オークの群れが来たら逃げておくように言っておいたのだが、ベースキャンプは変わらずにそこにあり、護衛の騎士達も無事で待っていた。豚鬼オークの群れが南下してくる事はなかったらしい。


 焚き火の後をしっかり消火して天幕を片付け、魔馬車で皇都に帰ると、夕方に探索者シーカーズギルドに到着できた。


 探索者シーカーズギルドで狩った魔物の討伐証明部位を提出して査定して貰い、獲って来た魔石と毛皮も換金した。その後に北の≪樹海の魔境≫にキングの居る豚鬼オークの群れを発見した事を報告した。見掛けた位置もおおよそにはなるが口頭で説明してある。


 キング級が現れた小鬼ゴブリン豚鬼オークの群れは脅威度が大きく上がるため、後の対応は探索者シーカーズギルドの上級探索者シーカーのパーティか皇都の騎士団の出番となる。


 報告も一通り終わった所で、ウェッジウルヴズ家の屋敷に帰宅した。


「う~ん、やっぱり魔物狩りは無心でやれて良いわね」

「ですね。でもそんな発言してるから≪狂戦士ベルセルク≫だの≪戦争狂ウォー・モンガー≫だのと呼ばれちゃうんですよ?」

「人を脳筋みたいに言わないで欲しいわ。ちゃんとインテリジェンスに溢れた成長計画に基づいて努力してるんだから」

「その努力は見てない人の方が多いのですから、仕方がないですよ」

「それもそうね……。外での発言はもう少し気を遣うようにするわ」


 こうしてユイエ達の週末探索者(シーカー)生活は、皇都の北側の森こと≪樹海の魔境≫が定番になっていった。


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