第1章 第1話 皇立カグツチ学園
星昌歴874年6月上旬。
探索者稼業をはじめて1年半近くが経過し、学園の入学試験の時期がやってきた。
皇都には学園が複数あり、政治経済、領地運営などの文官教育の専門学校や騎士や魔法士になるための専門学校もある。それでもユイエとアーデルフィアの志望は初志貫徹で皇立カグツチ学園に定めていた。
皇立カグツチ学園はカリキュラムを自分で選ぶ仕組みで、卒業までに定められた単位をとっていれば卒業できる。騎士科、魔法士科、政経科、法学科から専攻する科を選んで入学し、基本的には卒業まで同じ専攻課程で学ぶ。
ユイエとアーデルフィアの場合、お互いに貴族として実家を継ぐ予定がないため科の選択には自由が利く。しかし文官系に進むのは性に合わず、騎士科は普段の訓練で十分足りていると考えている。となると、自然と専攻する科は魔法士科志望となっていた。
そして魔法士科に関する設備や教育レベルは、皇都にある魔法士科の専門学校よりも皇立カグツチ学園の魔法士科の方が上であるらしい。
卒業後の進路は未定だが、騎士か魔法士、あるいは探索者といったところだろうか。
皇立カグツチ学園の入学試験は教養科目の座学の試験、武術の実技試験、魔法の実技試験の3項目に分かれている。
文官系の科は実技2項目はあまり重視されないが、騎士科なら武術の実技、魔法士科なら魔法の実技の配点が高くなっている。
試験当日、二人は普段通りに早朝訓練をして朝食を摂ると、昼食の弁当を受け取ってから試験会場へと向かった。午前中に座学の試験が行われ、昼休憩を挟んで午後から実技の試験である。
座学は家庭教師が指導してくれた内容が多く出ていたため、問題なく合格水準に届いた手応えを感じた。
「(試験対策がばっちりだったわね。家庭教師にボーナスの追加報酬を出してあげなきゃ)」
武術の実技は現役の皇国騎士団員が試験官を務める。二人とも試験官から1本取って合格を確信した。
「(これはまぁ、散々訓練してきたのだから順当よね)」
残る魔法の実技では【発火】や【水生成】、【清浄】、【治癒】、【疲労回復】などの基本的な魔法の確認が行われ、その後に魔力制御の実演、最後に攻撃魔法を標的に当てる試験と続いて、実技試験が完了となった。
「(うーん……基礎魔法と魔力制御に関しては自信があるけど、攻撃魔法の評価がどうなのかイマイチ分からなかったわね。とはいえ、総合的にみれば合格でしょうけど)」
◆◆◆◆
試験から3日後、学園で合格発表が行われた。ユイエとアーデルフィアは魔法士科に揃って合格を果たした。
合格発表の当日から物販会場が設営され、制服や教材等の販売が行われていた。二人はその日の内に不足なく購入して魔法の鞄に収めると、入学準備を完了してウェッジウルヴズ家の屋敷へと帰って行った。
皇立カグツチ学園の制服は【自動サイズ調整】、【自動清浄】、【環境適応】、【自動修復】まで付いた大変高性能な制服である。男子はズボンで女子はスカートといった違いはあるが、基本的なデザインは共通している。皇立カグツチ学園は実力さえあれば平民でも通えるため、合格者に限るが平民でも手が届く価格でこの高性能な制服が販売される。
帰宅するとお互い制服に着替えて披露し合う。
「制服姿、似合っていますね。とても可愛らしいですよ」
「ありがとう。ユイエ君も似合っててかっこいいわよ」
新しい装いに照れ笑いしつつ、合格を祝福し合う。
合格の報はウェッジウルヴズ家の屋敷からアズライール家の屋敷へと伝えられ、アズライール家からエーギス領の領都まで早馬が出されていた。
ユイエは実家で過ごした日々よりウェッジウルヴズ家で過ごした日々の方が長くなっているため、実家に知らせるという事をすっかり失念していた。後で使用人から連絡済みだと教えられ、その配慮に感謝することになった。
◆◆◆◆
星昌歴874年9月1日。
時は進んで秋になり、制服を着用して入学式に臨んだ。
大講堂で来賓や上級生の先輩方、学園長の挨拶と続き式は流れていく。
二大大公家の挨拶は流石に真面目に聞いておいたが、上級生や学園長の話となると退屈してしまい、うとうとと舟を漕いでしまう。アーデルフィアも同じ様子だったため、お互いに肘で突き合い起こし合っていた。
来賓席にいたリオンゲート・フォン・ウェッジウルヴズ大公と目が合ったので、舟を漕いでいたのもばっちりバレていた。リオンゲートの横には見慣れない鉱山族が座っていたが、彼がマインモールド領のドノヴァン・フォン・ジェスタ大公であった。
初日は入学式の後にオリエンテーションで、カリキュラムの一覧や学科による必須授業、共通単位の取り方などの説明会が行われ、資料一式が渡された。
「大学みたいな感じなのね」
「ダイガク、ですか?」
「そう、クラス分けしてクラス毎に授業が決まるんじゃなくて、こういう風に一コマずつ授業を自分で選んで時間割を作るのよ」
「そうなんですね。必修科目とか逃すと大変そうですし、後で一緒に考えてもらえませんか?」
「そうね、そうしましょう」
初日の予定はそこまでとなり、ウェッジウルヴズ家の屋敷に帰宅すると二人で必修科目を押さえて魔法関連の授業を多くした時間割を考えた。
必修科目を押さえていくと、意外と騎士科や政経科、法学科などの基礎科目も嗜む必要がある事に気付く。これらが皇立カグツチ学園の最低限の教養科目になるのだろうという事が窺えた。
「必修科目は3年間のどこかで取らなきゃいけないし、後回しにしておいたら取らなきゃいけない必修科目同士が同じコマにしか無いってなると大惨事よ。取れるだけ先に取っちゃいましょう」
「なるほど、後回しにして良い事はなさそうですね……。1、2年の内に取り終われるように頑張りましょう」
入学して最初の2週間はお試し授業といった感じで授業が行われていた。取ろうと思った授業が思っていたものと違うとなった場合、他の授業に切り替えられるように配慮する期間である。
3週目あたりからカリキュラムを確定させて提出するようになっていて、提出期限は9月末であった。
以前に氣を教わったサラ・ヴァジーラとも学園で再会し、氣の扱いが上達しているのを見せることができた。サラ講師は3学年の実技講師のため、講義でお世話になるのはまだ先の話だろう。
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