序章 第13話 探索者《シーカー》稼業(2)
探索者活動をはじめた頃はユイエとアーデルフィアに仕事をさせるのをサイラス達は嫌がっていたのだが、学園に入れば野営を含めた演習も行うのだからと説得し、今では実技指導を受けて少しずつやれる事を増やしていた。竈や天幕の設営はマスターしたので、次は食事の作り方か、獲物の捌き方を教えてもらいたいと考えている。
不寝番にも参加するようになった。最初にサイラスが火の番と不寝番を行い、途中でメイヴィルに交代する。メイヴィルの後に交代するのがユイエとアーデルフィアの二人組である。二人は普段から明け方早くから訓練をしているため、遅くまで起きておくよりも早起きする方が慣れていた。
学園に入ってからの野営では遅くまで起きておくか夜中に途中で起こされて不寝番をする事もあるだろうと思うが、とりあえず今はサイラス達の厚意に甘えておく。
明け方前にメイヴィルに起こされてユイエが目を覚ますと、アーデルフィアにがっちりホールドされていて動けなかった。ユイエももう13歳、思春期の男子である。下手に動けずメイヴィルに目線で助けを求めると、ユイエの代わりにアーデルフィアを起こしてくれた。
陽が昇ってから朝食の準備をはじめていると、メイヴィルとサイラスが起きてきた。パンとハムの簡単な物であるが、野営飯としては十分である。食事が終わると天幕を片付けて火を消し、本日の探索をはじめ、【魔力探査】に導かれるまま進んでいく。
【魔力探査】自体は4人とも使えるようになったのだが、探査範囲が一番広いのはアーデルフィアである。他の3人が気付く前にアーデルフィアが先に気付き、進路を調整していた。
最初に見つかったのは大食鬼1体だった。大食鬼は食人鬼以上の体躯と怪力をもつが、食人鬼より動きが鈍い。再生力が高く、裂傷程度ならすぐに塞がってしまい効果が薄い。確実に殺すには、心臓を破壊するか首を刎ねるくらいのダメージを与えるか、四肢欠損等、動脈を断ち続けて失血死させる必要がある。
大食鬼もアーデルフィア達に気付き、のそのそと向かって来ていた。大楯と長剣を構えたサイラスとメイヴィルが左右から大食鬼を挟み、下半身や振り回される腕を狙ってダメージを重ねる。
「グアァッ!!」
大食鬼はサイラスとメイヴィルに気を取られており、ユイエとアーデルフィアの接近に気付かない。二人は樹木に上ると高所から大食鬼の首筋に飛び付き、それぞれの小剣を首筋に深く突き立てた。
「ゴフォ」
大食鬼は吐血しつつも肩の上の新たな敵を排除しようとするが、その動きは緩慢である。サイラスとメイヴィルが次々と長剣を突き立て、抉り込むように捩じって振り抜く。メイヴィルの刺突が心臓に到達したのと、首筋に小剣を突き立てられたままでの失血が重なり、大食鬼は前のめりに倒れ込んだ。
アーデルフィアが≪鑑定≫で大食鬼が死んだ事を確認し、討伐証明の右耳を削ぎ取った。食人鬼より大きく色が違う。
「大食鬼は特に高価な素材はないですね。強いて言えば精力剤になる睾丸ですかね」
「え、そんなモノ触るの嫌よ?」
「ですよね。私も嫌なので魔石を取り出したら次に行きましょう」
再び【魔力探査】しつつ移動をしていると、樹木の幹につけられた大きな爪痕が目に付いた。
「大熊の縄張りの主張かしら?」
「おそらく……」
アーデルフィアの先導で進んで行くと、大熊を捕捉した。4つ足の状態で体高2メルもある大きな個体である。
「前に戦ったやつより一回り大きいですね」
「≪鑑定≫してみたけど十分いけそうかな」
ユイエの感想にアーデルフィアがゴーサインを出す。
「それじゃ、行きますか」
サイラスがメイヴィルに目線をやると、メイヴィルが頷き返す。
「いつも通りに」
サイラスとメイヴィルが先行して駆け、左右から挟んで注意を引きつける。
「グルォォォッ!!」
大熊が応戦の構えを見せ、2足立ちになって咆哮をあげた。
サイラスとメイヴィルが注意を引きつけている間にユイエとアーデルフィアが接近し、サイラスに前足を叩き付ける様に振り下ろした瞬間を狙い、ユイエとアーデルフィアが飛び上がりつつ首に逆手に持った小剣を突き立てる。
サイラスは大熊の叩き付けをバックステップしつつ大楯でいなし切っており、無傷のままである。対して大熊は首に刺さった小剣2振りが致命傷となって、ふらつき、倒れていった。
アーデルフィアが≪鑑定≫で大熊の絶命を確認すると、小剣を抜き取り血払いをして納刀する。ユイエもそれに倣って小剣を引き抜くと、討伐証明の部位である右前足の切断に取り掛かった。硬い腱に苦戦しているとサイラスも掌の解体を手伝いはじめた。二人掛かりで何とか掌の切断を終えると、素材について相談する。
「大熊は納品部位が一番高額ですが、毛皮もそれなりの利益になります。毛皮、回収しておきますか?」
「そうね、皆でやりましょう」
刃の入れ方についてサイラスのレクチャーを受けつつ、毛皮を剥いでいく。なんとか毛皮を剥ぎ終わると【清浄】の魔法で血液や汚れを落とし、魔石と一緒に魔法の鞄に収納した。
その後、見つけた魔物を順調に狩りつつ移動して行き、大食鬼を追加で2体、大熊を追加で3頭倒したところで探索を切上げ、街道沿いに出て皇都の方へ向けて歩いて行く。
途中、最寄りの宿場町で1泊すると、翌朝に馬車を借りて皇都へ帰還していった。
ギルドで大食鬼と大熊の討伐証明を提出して査定してもらう。獲って来た魔石と毛皮は買取カウンターで精算し、今回の遠征を終了とした。
この戦果も日頃の訓練の賜物である。ユイエとアーデルフィアは訓練の結果として実績が積み上がっていく事に探索者稼業の面白さとやり甲斐を感じており、成人後の進路として、探索者もアリかな?と考えるようになっていた。
探索者ギルド内で喜々として物騒な討伐話をする二人は、周囲から「ヤベェ奴ら」認定されてしまっている事を、この時はまだ知る由もなかった。
◆◆◆◆
それから暫く経ったある早朝訓練の走り込み中のこと。
「最近ギルドで2つ名みたいな呼ばれ方するじゃない?【狂戦士】、【戦争狂】、【戦闘狂】とか。ひそひそやってても聞こえてくるのよね。あれってどうなの?そんな2つ名付けられたらイメージ的に致命傷なんですけど」
早朝の基礎訓練で全力疾走のままで持久走をするような走り込みをしながら、アーデルフィアがぼやく。
「だったら勝手に自分で考えた恥ずかしい2つ名でも主張します?たまにいますよね、新人とかでそういう人」
「私は名乗るのが恥ずかしいような名前でなければそれで良いかな、と思います」
「もういっそのこと【狂戦士】か【戦争狂】を正式採用しても良いのでは?十分立派に【戦闘狂】ですよ、お二人とも」
アーデルフィアが話題を振り、ユイエ、メイヴィル、サイラスの順で発言する。サイラスの発言には仲間に背中から刺されたようなダメージを感じた。
「事実でもイメージ戦略的に何とかマシにしよう、っていう話しでしょう?」
メイヴィルがサイラスを窘めるが、アーデルフィアとユイエとしては追い打ちを喰らった気分である。
「とは言ってもなぁ……。大仰な名前も恥ずかしいし、身バレに直結してしまうような名称も避けたい。殿下の2つ名に≪白金の剣姫≫を推すくらいは出来ますけど、自分で口にできます?“私は白金の剣姫よ!”って」
「……無理。恥ずか死ぬ」
小一時間程甲冑装備の状態で走り込みながら悩んでも、結局コレだという対策案は出ず、再び先送りになった。走り込みの後は朝食の時間まで4人で模擬戦を中心とした戦闘訓練を行うのであった。
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