序章 第11話 探索者《シーカー》登録
4人は新装備一式で探索者ギルドに向かい、受付カウンターに並んで新規登録を申請した。身分を隠して後でトラブルが起こるのも良くないので、それぞれ本名で登録する事にする。そのせいで受付嬢が慌て、手続きは応接室で行う事になった。
登録手続きが終わり、探索者のルールや約束事が書かれた冊子を受け取る。要点だけ口頭で念を押された。
次に探索者の登録ランク決めであるが、新人のため一番低いFランクからはじまる。飛び級を希望する場合は訓練場で模擬戦を行い、実力から再査定して貰える。その場合でも、最高でCランクまでと飛び級の上限が決まっている。これはBランク以上の級では実績に基づく信頼性という要素も必要とされるため、腕が立つだけではBランク以上になれない仕組みになっている。
「どうする?飛び級しとく?」
「そうですね。受けられる依頼も変わるみたいですし、そうしましょう」
飛び級に挑戦する事になり、応接室から訓練場に移動しようとすると受付嬢に止められた。
「すみません、本日の試験官を確認してきますので、少々お待ちください」
試験官はBランクかAランクが務める事になっている。高ランクの探索者が不在の場合、試験自体が受けられない可能性もある。
しばらく待つと受付嬢が30台後半程の見た目で禿頭の体躯の良い汎人種を連れて戻って来た。
「はじめまして。皇都カグツチの探索者ギルドのギルドマスター、バイアンと申します。本日の試験官はAランク探索者でもある私が務めさせていただきます」
下手な対応を打てないと判断した受付嬢がギルマスに泣きつき、ギルマスが自ら出張って来たということだろう。
「わかりました。バイアン殿、本日はよろしくお願いしますね」
アーデルフィアが代表して答え、席を立った。
応接室から訓練場に場所を変え、用意された木剣から普段使いしている長さと主さに近い物を選ぶ。ユイエとアーデルフィアは小剣型を、サイラスとメイヴィルは長剣型とタワーシールド型の大楯を手にして戻って来た。ギルドマスターは柄の長い長剣一振を手に取り向かい合う。
「噂に聞くウェッジウルヴズ家の第五公女殿下とアズライール伯爵の三男殿であれば、試験もなしでCランクに飛び級でも良いかと思いますが……、こちらも体裁がありますので、お付き合いください」
バイアンが立礼をし、4人も立礼で返す。
「では最初に行かせてもらいますね」
サイラスが大楯と長剣を構えて前に出て、他3人は壁際へと下がって見守る体勢となる。
サイラスが大楯を前にし長剣を隠して接近する。大楯で作った死角から氣で身体強化した長剣での刺突を繰り出すが、バイアンの体捌きで躱されてしまう。サイラスは勢いを殺さず大楯での打撃でぶつかって行き、更に刺突を繰り返した。
長剣と大楯という装備はメイヴィルと同じだが、メイヴィルより手堅い立ち回りで防御寄りのスタイルである。
バイアンは氣と魔力で強化された大楯での打撃を前蹴りして距離を取るように跳び、サイラスの追撃の刺突を長剣で受け流しつつ斬り返す。
幾合か打ち合ったところで「終了!」とバイアンが大声で合図してサイラスの模擬戦は終了した。
「サイラス殿はCランクに飛び級です。次はどなたですかな?」
「では次は私がいきます」
サイラスと同じ戦闘スタイルのメイヴィルが前に出る。
メイヴィルの戦闘はサイラスに比べて大楯での打撃の頻度が高く、より張り付いて押し切るように攻めている。
バイアンからの返しも大楯や長剣で捌き、バイアンの剣の振りの勢いが乗る前に潰しに掛かっている。安定した立ち回りを見せている。バイアンも満足そうに頷くと「終了!」と宣言し、模擬戦は終了した。
「メイヴィル殿もCランク飛び級です」
メイヴィルが立礼して壁際に下がると、今度はユイエが前にでる。
「では次は私ですね」
小剣を構えると氣で≪身体強化≫した脚力で一瞬で間合いを詰め、バイアンが長剣を握っている右手首へ突くように斬りつける。
バイアンは手首を引いてその攻撃を躱すと間合いに入って来たユイエに横薙ぎを仕掛ける。ユイエは上半身だけで躱しつつ、勢いを止めずに近接距離からの斬撃と刺突を繰り返す。
バイアンはそれを長剣でいなしながら頬を緩めた。
「(成る程……。噂通り、子供と思えない程の速度と技量だ)」
バイアンはユイエの斬撃を受け流して上体を泳がせ、足元を刈るように下段の蹴りを放つ。崩れた体バランスを更に崩す一手であったが、ユイエはバイアンの横を抜けるように前転して蹴りを躱し、立ち上がり様に切上げを放つが、それはバイアンの長剣に受けられた。
「終了!ユイエ殿もCランクに飛び級です」
立礼を交わしユイエが下がると、アーデルフィアが肩を回しながら前に出て行く。
「最後は私ね!」
ユイエと同じく小剣を構えるが、攻撃の仕方には性格が現れる。
ユイエより積極的に攻め、拳や蹴りなどの体術も織り交ぜてバイアンを攻めたてる。バイアンの斬り返しも踏み込みながらの回避で懐に入りつつ、小回りの利いた立ち回りを見せる。
「(豪胆で苛烈。しかし冷静に戦闘の流れを組み立てているな)」
あの手この手でバイアンの守りを突破しようと試みるが体捌きで避けられ、あるいは長剣で受け流され、その防御を突破できずに「終了!」と合図が出されて、悔しそうにしながら立礼をして下がった。
「アーデルフィア殿下もCランクに飛び級です」
結局4人とも有効打を決められずに、模擬戦は終了となった。ギルドマスターのAランクは伊達でも飾りでもないらしい。
「将来有望な4人の探索者の誕生を歓迎します。今後の活躍を楽しみにしてますよ」
バイアンがニカッと人好きのする笑顔を見せた。
訓練場での試験を終えると応接室に戻り、Cランク探索者としてのカード型の身分証が発行された。魔力波形での本人認証の機能があり、関所や入市の際の身分証として機能する。
更に探索者ギルドが兼ねている銀行業との連携機能もあり、探索者ギルドで口座を作っておくと、報酬の支払いを銀行振込にしてもらえる。
報酬額が大きくなる上位層の探索者程、現金を持ち歩かずに済む銀行機能に有り難味を感じるようになる。
4人も口座を開設してもらい、銀行振込を利用できる状態にしておいた。今後探索者業で稼いだ自分のお金を、実家のお小遣いとは別に管理しておきたいという思惑もある。
「パーティ登録はしておきますか?」
受付嬢から問われ、アーデルフィアが代表して頷いた。
「パーティ名は≪黒彼岸花≫で良い?」
アーデルフィアがユイエに訊く。
「私は何も考えてなかったので……。それで構わないです。何か出典が?」
ユイエがアーデルフィアに頷いて問い返した。
「昔読んだ物語にあったパーティ名よ」
アーデルフィアがユイエにそう返した。ユイエも納得したのか頷いた。
「≪黒彼岸花≫で登録をお願いします」
パーティ名まで決めて登録を完了すると、その日は屋敷に帰宅する事にした。
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