修学旅行へ行こう①
飛行機に乗っていた。周りはみんな亜美の学校の制服で、ざわざわとうるさい。
修学旅行だ。
そう気づいたとき、隣のイノッチが話しかけてきた。
「亜美ー。あたし飛行機初めて!どうしよう」
言葉とは裏腹に、ニコニコしているイノッチだった。どうやら飛行機が飛ぶのが楽しみで仕方ないみたいだ。
「飛んだら重力感じるよ。重力」
私は少し意地悪に言ってみた。窓際に私、隣にイノッチが座っていた。通路を挟んで、マミ、ユキちゃん、さっちゃんと並んでいた。三人とも飛行機の中をインスタントカメラで撮りまくっている。一体何を撮っているのか。
「本日はご搭乗いただきまして、ありがとうございます…」
アナウンスも周りの声にかき消されてほとんど聞こえない。
「飛ぶわー!」
イノッチの興奮はピークだった。思わず笑ってしまう。
飛行機は勢いよく走り出し、地上を離れた。体に重力がかかる。
「うわー」
相変わらずイノッチは興奮している。
離陸した時に、周りから拍手が溢れた。みんな楽しくて仕方ないらしい。高校生だなぁ。
「なんでこんな鉄の塊が飛ぶんだろうねー」
ユキちゃんが不思議そうにつぶやいていた。
「科学の進歩よね」
マミがなぜか誇らしげに答えていた。
少し時間がたって、シートベルトのマークが消えた途端、みんな機内をうろうろ移動しだした。客室乗務員さんがあきれている。
「おまえらおとなしく座ってろー」
担任が叫んだ。でもみんな聞いていない。私はずっと窓の景色を見ていた。飛行機はもう雲の上を飛んでいて、なかなかの絶景だ。イノッチに見せようと思って、
「イノッチー、見て見て」
と、振り向いたら、イノッチは緊急着陸でもするかのごとく、前の席に両腕をおいて、頭をつけて微動だにしてなかった。
「ちょっ…イノッチ!どうした!」
私の声に、マミが笑いながら参戦してくる。
「お客様?いかがいたしました?ゲロ袋はこちらでございます」
笑いながらマミが座席に常備されてる袋をイノッチに渡す。
「…酔った」
さっきまで上機嫌だったイノッチは一気に青白くなっていた。具合が悪そうなイノッチを尻目に、全員お腹がよじれるほど笑った。
そのうち客室乗務員さんが飲み物を持ってやってきたときに、イノッチはすぐさま一気飲みをして、その場でおかわりをしていた。それにまたみんな「ありえねえ」と、言って笑っていた。
イノッチは機内では相変わらず具合が悪かったけど、熊本空港についたとたん元気を取り戻していた。相変わらずみんな写真を撮っていた。
どうやらこれから阿蘇山の麓で、オリエンテーションをするらしい。クラスごとにバスに乗り込んだ。
バスにはガイドさんがいて、若くてかわいいので男子が喜んでいた。
現実の私と同い年くらいかな…。と、ぼーっと思った。
バスの中で、私は思わず「彼」を探していた。一番後ろの席で、友達らしい男の子と話しているのを見て、思わず胸がときめく。
「皆様、熊本へようこそおいでくださいました。バスガイドの田辺美香と運転手の松島孝次です。これから5日間、よろしくお願いします」
ガイドさんに全員拍手喝采だった。小さくてかわいいお姉さんだ。
「ではこれから皆様を阿蘇山の麓までお連れします」
全員で「はーい」と言った。私たちは五人で一番前の席に座っていた。なんで一番前なのかというと、じゃんけんで負けたかららしい。彼から一番遠い席だから、聞き耳を立てて名前を知る事すらできないじゃない。
ガイドさんは私とイノッチの前の席に座った。
「美香ちゃん熊本の人ー?」
補助席に座っているマミが普通にタメ口で聞いた。一瞬ぎょっとしたが、女子高生は誰に対しても強気なのだ。自分が高校生のときを思い出して納得した。今となっては年上の人をちゃん付けで呼べないもんなぁ。でも高校生のときはできたかもなぁ。
「うん。そうだよ」
それでも美香ちゃんは笑顔で答えてくれた。
窓の外を見るとのどかな風景が続いていた。東京では見れない風景だ。あそこにみえるのが阿蘇山かな。
「あちらに見えますのが、阿蘇五岳です。観音様が寝ているように見えることで有名です」
美香ちゃんが説明してくれた。
「へー。そういわれると、見えるかも」
イノッチが感心していた。なんだか私はぼーっとしていたせいか眠くなってきていた。バスの揺れが心地よい。
「亜美、寝るの?」
そう言うイノッチの肩にもたれかかる。
「んー。ついたら起こして…」
と、言って、目を閉じた。
起きるとやっぱり自分の部屋だった。
「夢の中で寝てどうする…」
起きかけの頭を掻きながら恵美は思った。なんだかどっちが夢なのかわからなかった。
もしかして現実と思っているこっちが夢なんじゃないだろうかと、混乱すらわき上がる。
火曜日の授業は一限から四限までだ。外を見ると雨が降っていた。
恵美は部屋の窓の外を見ながら顔をしかめた。学校に行くのが激しくめんどうに感じる。
恵美はもたもたとご飯を食べて、もたもた着替えて用意した。そして案の定遅刻をした。
学校についても、恵美は授業にでるのがめんどうになり、友人に代筆を頼んで学食でお茶を飲んでいた。そのときふと思いついた。
日記を書こう。
今まで見た夢を日記に書く。そうすれば、夢の中で人の名前も間違えないようになるし。なんだかおもしろいし。
こんな不思議で奇妙な現象は何かしらの形で証拠として残したほうが良いと、恵美は半ば無理やりこじつけた。
亜美の夢を見ていることを、すでに自然の事として受け入れていた。同じ夢を見続ける事に慣れてしまっていたのだ。
早速恵美は学校が終わるや否や、駅ビルの文房具売り場の階へ行った。
可愛い日記帳がたくさんあるなか、迷いながらも、結局シンプルな赤い日記帳を買った。
家へ着いて、部屋に駆け上りすぐに日記帳を取り出した。
そして、一番最初に見た夢について書き始めた。教室の夢だ。
彼の名前は未だにわからないので、ただ「彼」と書き記すことにした。書いていくうちに、自分が主人公の小説を書いている気分だった。
体育館での話を書き始めようと思ったら、母親にご飯だよと言われたので階下へ降りた。