もう二度と
夜ご飯を食べ、直樹の家に戻った。
その間、恵美はずっと直樹を見続けた。一生、目に焼き付くようにじっと見続けた。手にさわり、頰に触れ、感触を確かめた。手の温かさや、匂い。すべて刻み付けるように。
結局、最も直樹を傷つけるかたちになってしまった。
あの交差点で出会ってしまった時点で、逃げるべきだったのだ。
あんなに悲しませてはいけないと思ったのに、すべて裏目に出てしまった。
「亜美」はもう一度彼の元から消える。
もう二度と、直樹に会う事はできない。
亜美は幽霊じゃなく、死んでしまったのだ。
そして恵美の存在は、直樹を苦しめる事になる。直樹に知らせてはいけない。恵美の存在を。
だからもう二度と会えない。
直樹を、あきらめる。
それが私に科せられた罰なのかもしれない。
けれど直樹に耐えられるだろうか?恵美の心配はそれだけだった。
不用意に、自分が現れてしまったせいで、直樹に再び亜美を失わせる事になってしまった。
直樹をまた苦しめることになる。
ごめんね。ごめんね。
私を許さないで。
直樹の家に戻ると、熱が上がったようだった。うつらうつらとしていると、直樹にベッドで寝かされた。
掛け布団をかけようとしていた直樹をベッドに引っ張り込んだ。
驚いている直樹は恵美の熱さには気づいていないようで、ほっとした。
このままで。お願い。このままで。
直樹に抱きしめられたのを感じた。
この感触を体に焼き付ける。
目を覚ましたのは夜中だった。
直樹の体温をもらったのがよかったのか、少し体は楽になっていた。
隣で寝ている直樹の顔がカーテンの隙間から入る月明かりに照らされていた。
修学旅行の思い出が蘇る。
部屋で寝ていた直樹を起こした。そして告白された。
今度は起こさないように、額に口づけをした。規則的な寝息が、恵美を安心させた。
頰に、鼻に、口に優しくキスをした。何度も何度も。
好き。好き。
想いが溢れて止まらなかった。
彼が悲しまないように。そう願わずにはいられない。彼が記憶喪失になって欲しいとさえ思う。あの夢の記憶だけ、消えればいいのに。私の記憶すべて。
どうか、彼が幸せになれますように。思い出を引きずりませんように。
私の分の幸せも、あげるから。
キスをしているうちに、直樹が目を覚ましてしまった。でも、どこか寝ぼけているようで、きっとすぐにまた眠るだろうと思った。
そして深いキスをしているうちに、彼はまた深い眠りにはいった。
身支度を整え、部屋を片付けた。
まだ夜が明けないうちに、恵美は直樹の前から消えた。
実はあと3回で終わります。(多分)




